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第10話 空(うつほ)なる真実

学院にて Episode:02

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「シエラ以外にも、行くところはあるだろうに」
「あなたが気にしてどうするのです。選んだのは本人ですよ」

 タシュアの正論。

「事実ここでやれているのですから、問題ないと思いますがね」
「まぁ確かにあの年で……きちんと、戦える子だからな……」

 普通の学校ではなくMeSに転入したという理由は、それしか思い当たらない。

 だがそれなら、いったいどこでそれを覚えたのか。
 もしかするとタシュアと同じで……。

「まぁ、いろいろあるのでしょう。
 どちらにせよ、私たちには関係ないことです」

 言って彼は視線を本に戻した。

 ――確かに、そうだな。

 ここの生徒は、たいていワケありだ。
 それを本人のいないところで追求するなど、もってのほかだろう。

 タシュアはよほど本が面白いのだろう、すでに夢中だった。
 この難解な本のどこが面白いのか、まったく分からないが――少なくとも彼は嬉しそうだ。

 邪魔するのも悪い気がして、私はさっきの質問を諦めた。

 それに実を言えば、タシュアの予定が来週空いているのは知っている。
 確認したかっただけだ。

「タシュア、そうしたら私は……ちょっと出かけてくる」
「そうですか、行ってらっしゃい」

 私がそう言っても、ちらっと顔を上げただけだ。

 ただ私も、今はこの方が良かった。

 タシュアに気づかれたくないことがあるのだが、なにしろ彼は勘が鋭い。
 だがこうやって他のことに集中していてくれれば、それだけ気づかれずにすむだろう。

 そのまま私は、そっと図書館を後にした。
 船着場でちょうど来ていた連絡船に乗り、ケンディクの町へ向かう。

 連絡船は、いつもの休日ほどには混んでいなかった。
 ちょうど夏期休暇中で、みんな適当に出かけているからだろう。

 ――何を、買おうか。

 持って来たリストを見ながら、まだ迷う。
 もっとも使えるお金は限られているから、結局は値段と相談だ。

 ひとりでケンディクの町まで来たことは、ほとんどなかった。
 昔はたいてい先輩と一緒だったし、今はタシュアと来ることが多い。

 なにより独りは、嫌いだ。

 でも今回ばかりは、そんなことは言っていられない。
 ここでタシュアを誘ったりしたら、きっと気づかれてしまう。

 あと今日一日、気づかれなければ済むのだから……。
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