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第10話 空(うつほ)なる真実
ルアノンにて Episode:10
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「すごいな、ここまでとは思わなかった」
眼下に広がるのは、言葉どおりの「大」渓谷だった。
見渡すかぎり、赤灰色の切り立った崖が幾重にも重なっている。
ただ、不毛の大地というわけではなかった。
乾燥してはいるが、遠目にも緑が点在しているのが分かる。
振り返ると、さっき発ったルアノンの町が見下ろせた。
石造りの建物と、町の北側の大穀倉地帯。それに南側の森林地帯とが一望できる。
目の前には、大渓谷。
ちょうどこの、南北に連なる丘を境に、東西で気候が違うのだろう。乾燥した大地と緑の沃野が、対照的だった。
「あの森もすごいな。全く切り開かれてないし」
「あー、あれって国が規制してて、開発ダメなんですよ」
ガイドブックでは、周辺がみな自然保護区だということだったが、思った以上だ。
「あっちも、見られるのか?」
「ええ、まぁ、いちおう」
答えるイマドの言葉は、なぜか歯切れが悪かった。
「何か、問題でも?」
「いや、そういうわけじゃなくて……」
言いよどんだ彼が、走竜を操って私のすぐ近くに来る。
そして、囁いた。
(こいつの兄貴、あそこで一昨年、亡くなったんですよ)
(――!)
ルーフェイアは聞こえていたはずだが、何も言わなかった。
ただ視線を落として、なんともいえない表情を見せている。
「――ルーフェイア、すまない」
「いいえ……」
そうは答えているものの、辛そうな表情だった。
まだそのときの傷が、癒えていないのだろう。
「……先へ行こう。谷底までは、けっこうあるんだろう?」
「ええ、あんまのんびりしてっと、真っ昼間の炎天下、歩くハメになりますよ」
慌てて振った話に、イマドが上手く調子を合わせてくれた。
私たちの命令で、走竜たちが下り始める。
走竜の背に揺られながら、思う。
ルーフェイアが学院へ来た一昨年、この周辺でシエラの傭兵隊が大規模に展開して、奇襲作戦を遂行した。
作戦そのものは、成功だった。
だが分隊がひとつ壊滅し、その最後の伝言がちょっと変わった内容で、学院内で話題になったのだ。
眼下に広がるのは、言葉どおりの「大」渓谷だった。
見渡すかぎり、赤灰色の切り立った崖が幾重にも重なっている。
ただ、不毛の大地というわけではなかった。
乾燥してはいるが、遠目にも緑が点在しているのが分かる。
振り返ると、さっき発ったルアノンの町が見下ろせた。
石造りの建物と、町の北側の大穀倉地帯。それに南側の森林地帯とが一望できる。
目の前には、大渓谷。
ちょうどこの、南北に連なる丘を境に、東西で気候が違うのだろう。乾燥した大地と緑の沃野が、対照的だった。
「あの森もすごいな。全く切り開かれてないし」
「あー、あれって国が規制してて、開発ダメなんですよ」
ガイドブックでは、周辺がみな自然保護区だということだったが、思った以上だ。
「あっちも、見られるのか?」
「ええ、まぁ、いちおう」
答えるイマドの言葉は、なぜか歯切れが悪かった。
「何か、問題でも?」
「いや、そういうわけじゃなくて……」
言いよどんだ彼が、走竜を操って私のすぐ近くに来る。
そして、囁いた。
(こいつの兄貴、あそこで一昨年、亡くなったんですよ)
(――!)
ルーフェイアは聞こえていたはずだが、何も言わなかった。
ただ視線を落として、なんともいえない表情を見せている。
「――ルーフェイア、すまない」
「いいえ……」
そうは答えているものの、辛そうな表情だった。
まだそのときの傷が、癒えていないのだろう。
「……先へ行こう。谷底までは、けっこうあるんだろう?」
「ええ、あんまのんびりしてっと、真っ昼間の炎天下、歩くハメになりますよ」
慌てて振った話に、イマドが上手く調子を合わせてくれた。
私たちの命令で、走竜たちが下り始める。
走竜の背に揺られながら、思う。
ルーフェイアが学院へ来た一昨年、この周辺でシエラの傭兵隊が大規模に展開して、奇襲作戦を遂行した。
作戦そのものは、成功だった。
だが分隊がひとつ壊滅し、その最後の伝言がちょっと変わった内容で、学院内で話題になったのだ。
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