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第10話 空(うつほ)なる真実
ノネ湖にて Episode:02
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「この間卒業した知ってる先輩が、この辺に就職してたらしくて、会いにきたんだ。
管理棟まで行ってくるが……来るか?」
この辺は何かの規制だとかで高層のホテルがなく、どこも離れを幾つも持った造りだ。
だからロビーへ降りる代わりに、管理棟まで歩かないといけなかった。
「えっと、あの、行きます」
慌ててルーフェイアが、朝食を口に詰め込む。
「……喉に詰まるぞ?」
それにさえ答えず、この子が朝食を食べ終えて立ち上がった。
「じゃぁ、行こう」
鍵をかけて部屋を出る。
「でもどうして、先輩がここにいるって……分かったんでしょう?」
管理棟への道すがら、ルーフェイアがそんなことを言い出した。
「誰かに、言ったんですか?」
「いや」
そもそも言う相手がいない。
なにしろ旅行で来ただけなのだ。
唯一可能性がありそうなのは、宿泊名簿にシエラ学院の名前を書いたことくらいだが……そこから分かったのだとすると、客の情報を漏らす信用のならないホテル、ということになる。
――変えたほうがいいかもしれない。
こんなふうに簡単に情報が流れるところに泊まるのは、かなり不安だ。
そんなことを考えながら、管理棟のドアを開ける。
「やあ、久しぶりだね。呼び出してごめん」
誰かが先輩の名前を、騙っているかもしれない。
そこまで考えていたが、さすがに思い過ごしだったようだ。
「クーノ先輩、お久しぶりです」
栗色の髪に茶色の瞳。
ちょっと気の弱そうな、おとなしげな雰囲気。
以前と変わらない印象だった。
その視線が、私の隣へ移る。
「たしか君は、本校に年度途中で転入した子だよね?」
「あ、はい」
まさか自分のことまで知っていると思わなかったのだろう、ルーフェイアが目を丸くした。
「名前は……ルーフェ、だっけ?」
「えっと、その、ルーフェイア=グレイスです」
答えてぺこりと、この子が頭を下げた。金の髪がさらさらと落ちる。
「あぁそうだった、ルーフェイアだね。ごめん、よく覚えてなくて」
ありきたりの会話。
だが先輩がわざわざ訪ねてきたのは、こんな話をするためではないだろう。
思い切って、切り出してみる。
管理棟まで行ってくるが……来るか?」
この辺は何かの規制だとかで高層のホテルがなく、どこも離れを幾つも持った造りだ。
だからロビーへ降りる代わりに、管理棟まで歩かないといけなかった。
「えっと、あの、行きます」
慌ててルーフェイアが、朝食を口に詰め込む。
「……喉に詰まるぞ?」
それにさえ答えず、この子が朝食を食べ終えて立ち上がった。
「じゃぁ、行こう」
鍵をかけて部屋を出る。
「でもどうして、先輩がここにいるって……分かったんでしょう?」
管理棟への道すがら、ルーフェイアがそんなことを言い出した。
「誰かに、言ったんですか?」
「いや」
そもそも言う相手がいない。
なにしろ旅行で来ただけなのだ。
唯一可能性がありそうなのは、宿泊名簿にシエラ学院の名前を書いたことくらいだが……そこから分かったのだとすると、客の情報を漏らす信用のならないホテル、ということになる。
――変えたほうがいいかもしれない。
こんなふうに簡単に情報が流れるところに泊まるのは、かなり不安だ。
そんなことを考えながら、管理棟のドアを開ける。
「やあ、久しぶりだね。呼び出してごめん」
誰かが先輩の名前を、騙っているかもしれない。
そこまで考えていたが、さすがに思い過ごしだったようだ。
「クーノ先輩、お久しぶりです」
栗色の髪に茶色の瞳。
ちょっと気の弱そうな、おとなしげな雰囲気。
以前と変わらない印象だった。
その視線が、私の隣へ移る。
「たしか君は、本校に年度途中で転入した子だよね?」
「あ、はい」
まさか自分のことまで知っていると思わなかったのだろう、ルーフェイアが目を丸くした。
「名前は……ルーフェ、だっけ?」
「えっと、その、ルーフェイア=グレイスです」
答えてぺこりと、この子が頭を下げた。金の髪がさらさらと落ちる。
「あぁそうだった、ルーフェイアだね。ごめん、よく覚えてなくて」
ありきたりの会話。
だが先輩がわざわざ訪ねてきたのは、こんな話をするためではないだろう。
思い切って、切り出してみる。
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