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第10話 空(うつほ)なる真実

ノネ湖にて Episode:03

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「その、先輩……どうして私たちがここに居ると、分かったんです?」
「ここは小さな村だから、なんでも噂になるんだよ」

 答えに呆れる。

 たしかにここは、ノネ湖周辺では小さい村だ。
 だから噂が広まりやすいのだろう。

 だがそうだとしても、平然と客の情報を流すというのは、私には考えられなかった。
 たしかこの村は、観光が主な収入源なのだからなおさらだ。

「ごめん、村の人は悪気はないんだ。ともかく、娯楽のないとこだから」

 そうは言われても、納得は出来なかった。
 私の様子に気づいたのか、先輩が少し話を変える。

「そのさ、僕はいまここで、診療をやっててね」
「そうだったんですか」

 シエラの中でも飛びぬけて頭の良い人で、卒業とほぼ同時に医務官の資格を取ったというのは、私も聞いている。
 歴史の長いシエラの中でも、初めてのことらしい。

「まぁたいして経験があるわけじゃないんだが、こういう小さい村は無医村になりがちだろう?
 だからこんな僕でも、重用してくれるんだよ」

 シエラの卒業生といえば、ほぼ全員が軍かその関係に進む。
 だがこういう進路もあるのだと、目から鱗が落ちる思いだった。

「で、診療所の患者さんたちは、どうにも噂好きでね」
「なるほど……」

 医師なら、後輩が泊まりに来てるという話が知らされるのも、十分ありえるだろう。

「でも先輩、なぜ会いに?」

 いきさつはだいたい分かったが、肝心のところが分からない。
「せっかくだから会いに」と押しかける人もいるが、この先輩はそういうことを好まない性格だった。

 先輩が視線を落として、話し始める。

「それが……竜が、出たんだ」
「竜、ですか?」

 思ってもみなかった話に戸惑う。

 竜が村にとって問題だというのは、分かる。
 どこの村でもそのために、魔獣退治も兼ねてだが、予算を割いているくらいだ。

 だが裏を返すなら、そのくらいありふれた話ということだった。
 だから部外者の私たちが、出る幕などない。

 同じ事を思ったのだろう、ルーフェイアも怪訝そうな表情だ。
 そして、もっともな疑問を口にする。

「あの、村の、警備の人は……?」

 魔獣への対処は、地方ほど必須だ。
 ここのように自然の豊かな場所なら、必ず村で手練を雇って、10名ほどは常駐させている。

 だから「いない」ということは、無いはずなのだが……。
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