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第10話 空(うつほ)なる真実

ノネ湖にて Episode:07

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「すぐに行きます、案内してください。
 ――そうだ、ラナミさん」

 呆然としていたホテルの受付の人に、先輩が声をかける。

「え、あ、はい、なんですか?」

 まさか自分にをふられるとは、思っていなかったのだろう。
 受付けの人が慌てて答えた。

「村長さんに連絡して、ここへ人と車をよこしてもらってください。そこのお二人、竜退治に協力してくれるそうなので」
「分かりました」

 それだけ言って、先輩がばたばたと出て行く。

「だいじょうぶでしょうか?」
「分からないな……。まぁ話を聞くかぎりでは、幸い死者は出てなさそうだが」

 そんな会話をしながら、立ち上がった。

「私たちは部屋へ戻って、準備してきます。何かあったら、知らせてください」
「はい」

 受付けの人にそう伝えて、いったん部屋へ帰る。
 入るなり、ルーフェイアが着替え始めた。

「……外から見えたら、どうするんだ」
「え?」

 ルーフェイアがあられもない格好のまま、首をかしげて手を止める。

「見えると……困るんですか?
 ――あ、たしかに狙撃されたら、困りますね」

「……」

 戦闘向きはいいとして、このズレ加減はやはり問題だ。

 同時に、まず着替えさせようと思う。
 着替えが中途半端な状態で止まっているのは、「見えているだけ」よりさらに悪い。

「と、ともかく着替えて。急がないと、いけないだろう?」
「あ、はい」

 素直なこの子が、いそいそと服を着る。
 その間に私も、急いで必要なものを出した。

 とはいえ任務で来たわけではないから、用意できるものは限られている。
 少々心もとないが、手持ちでどうにかするしかなかった。

 もっとも精霊と武器はあるから、何とかなるだろう。

「ルーフェイア、行けるか?」
「はい」

 あっという間に戦闘態勢になった後輩を連れて、部屋を再び出る。
 だがルーフェイアが、私を引き止めた。

「あの、先輩、武器は……?」

 私が手ぶらなのを、いぶかしんだらしい。

「そういえば、ルーフェイアは見たことがなかったな」

 言って、手にはめていたブレスレットを見せる。

「えっと、あの、これ、武器ですか?」
「まぁ、そうだな」

 そう答え、部屋から少し先、広くなっている場所まで来てから、私はブレスレットを外した。
 手のひらの中に、光りが灯る。

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