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第10話 空(うつほ)なる真実

再び学院にて Episode:03

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「元々は一昨日、戻ってくる予定だったらしいんだけど。
 でも帰る直前に、予定が変わって数日延びるって、連絡があったんだって」

「別段、問題があるようには思えませんが」

 全く連絡がないなら大問題だろうが、上級隊のシルファなら、この程度の事は許されるはずだ。

「それはそうなんだけど」

 ディオンヌもその点は認める。

「でも、おかしくない? あなたならともかく、真面目なシルファがそんなことするなんて」

 他意はないのだろうが、ずいぶん失礼な言い方だ。

 だが言い返す前に、彼女は言葉を続けた。
 どうやら話は続いていたらしい。

「しかもいまだに、そのあとの連絡がないって言うのよね。
 学院がちょっと用事で連絡しようとしたけど、ぜんぜんダメだったらしいし」

 さすがにタシュアの表情がわずかに変わるが、ディオンヌは気づかなかった。

「いつでも連絡が取れるようにするのが、上級隊の原則でしょ? それをシルファが、知らないわけない。
 まさかとは思うけど、何か事件に巻き込まれてたりして……」

「話はそれだけですか?」

 長くなると見て、強引にさえぎる。
 結論の出ないことで、これ以上時間を取られるのは願い下げだった。

「ちょっとタシュア、心配じゃないの?」
「こんなところで立ち話をしていても、何も進展しませんね。時間の無駄です」

 切り捨てて、その場を後にする。

 ただそうは言いながらも、ディオンヌの言葉は引っかかった。
 たしかに、シルファが居場所も分からなくなるというのは不思議だ。

 言い方はアレだったが、真面目なシルファがそんなことをするとは思えない。
 なにより、上級隊が無断で行方不明になったらペナルティが課され、最悪は退学も有りうる。

 それを彼女が、知らないわけがなかった。

(いちおう、調べてみますか)

 手早く食事を終え、自室へと戻る。

 魔視鏡を立ち上げて、学内の通信記録をざっと当たると、すぐにシルファが入れた連絡が見つかった。
 だが内容はディオンヌが言ったとおりで、予定が延びるというだけのものだ。

(どこへ行ったのやら)

 どちらにしてもこれだけでは、何が起こったかなど分かるわけもない。
 少し考える。

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