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第10話 空(うつほ)なる真実

再び学院にて Episode:07

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 そのカレアナが、何故わざわざここまで出てくるのか。

 たとえ派遣要請でも、シエラはお金が支払れたのさえ確認できれば、対面交渉せずに済むのだ。
 むしろそうでなければ、有事のときに間に合わない。

 それなのに、たかが「上級傭兵1人」に対してカレアナが来ると言うのは、大げさに過ぎる。

 そもそもタシュアに用があるのなら、彼女の元に呼び出せば済む話だ。
 カレアナは学院と、そういう契約を交わしている。

 なのにわざわざ、ここへ来るというのだから、相応の理由があるはずだ。

(契約内容の修正、もしくは新規契約……)

 いくつかの仮説が思い浮かぶ。
 あの口のきき方からして、シルファのことも何か関係しているのは、間違いなさそうだ。

(もっとも、考えるだけ無駄かもしれませんが)

 この女性に、理屈は通じない。
 その場のノリと勢いだけで行動するような輩だ。

 タシュアが思考に沈んだのを何か勘違いしたのか、カレアナが言った。

「言っておくけど、ここであたしに何かしても無駄なことくらい、頭のいいあなたなら分かるでしょ?
 なにしろシルファの居場所、ここから遠いんだから」

 言葉の裏に何があるのかは、聞かなくても分かる。
 だがなお、タシュアは応えなかった。

(手を出せば、少なくとも私の気は晴れるのですがね。けれどまずは、シルファですか)
 
 幾つかシミュレートしてみる。

 シルファがルーフェイアと一緒という推測が正しいなら、シュマー関連の施設とはいえ、身に危険が及ぶことはないだろう。

 一方でこの推測が外れていたとしても、カレアナがこの場でシルファの名前を出した以上、何らかの形で関わっているのは確かだ。

 ならばやはり安全は、確保されていると見ていい。
 人質は手元で生きていればこそ、人質になりうるのだ。

 そしてシルファのことを持ち出す以上、カレアナの手の届く範囲に、切り札として置かれているはずだった。

 ――かといって安心できないのが、シュマーのシュマーたるところだが。

 形を変えられるサイズ(大鎌)の件といい精霊の完全憑依の件といい、シルファはその筋の人間からすると、垂涎の的であるのは間違いない。

 そしてシュマーは、「その筋」の人間ばかりだ。
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