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第10話 空(うつほ)なる真実

閑話、屋敷にて Episode:02

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 出費というのは、タシュアさんを連れてきたことではなくて、学院と交わした契約のこと。

 何をどう思ったのかシエラの上級傭兵を、もうひとり卒業まで丸ごと借り上げるなんて。
 しかもこちらの依頼がない時は、学院は対価を取って派遣して構わないというのだから、一方的にこちらが不利。

「タシュアさんの件だけでも驚きましたのに、もうひとりなんて。
 そもそもこんな契約、学院のほうも前代未聞とおっしゃってましたわよ?」

「いいでしょ、別に。それにシルファとセットじゃなきゃ、タシュアが可哀想だし」

 思わずため息。
 そんなことだろうとは思ってましたけど……本当にそれだけというのも、振り回される側としては複雑なもの。

「たしかに能力があるのは認めますけど、シュマーに加わるとも思えませんし。
 孤児が理由なら、学院にはほかにもたくさんいるわけですし」

「そうねー、あなたには言っといたほうがいいわね」

 珍しく神妙な口調。
 いつもこうなら楽なのですけれど。

 おばさまが、話し始めて。

「昔の大戦の頃、前線でヴァサーナの正規兵と知り合って、意気投合しちゃってね」

「……ちょっと待ってくださいな。おばさまが雇われてたロデスティオ、ヴァサーナと敵対してたじゃありませんか」

 あの当時のヴァサーナ国は、ロデスティオと敵対してたアヴァンを裏から支援してたわけで。
 ですから直接じゃないとは言え、ロデスティオとは敵味方の関係だったはず。

「なのにどうして、意気投合してるんです」

「それがね、運悪く両軍遭遇して交戦になったのがニエナム国で。でもあそこ、外国排斥でしょ? だから横から全力で攻撃されちゃったのよー」

「両軍とも、不注意すぎますわ……」

 おばさまのようなことを、軍団単位でやらなくてもいいでしょうに。

「ともかくそんなわけで、散り散りになって取り残されちゃってね。出会ったのも何かの縁、一緒に国外出ようか、って」

 それで納得できてしまう、相手の方もすごいと言うか。
 というか、毎度のこととは言え、話が横道へそれ過ぎてますし。

「で、そのことと今回の件、どう関係ありまして?」
「だから、彼女の子」
「あら……」

 そこまで素性が分かっていて、なおかつタシュアさんがシエラに居るということは。

「――亡くなられましたのね、その方」

「そゆこと。
 向こうが切羽詰ってたときに、うちもほら、ちょうどルーフェが大怪我してゴタついてるときでね。だから知らないまま、何もできなくて」

 寂しく笑って、おばさまが視線をそらす。
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