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第10話 空(うつほ)なる真実

閑話休題、孤島にて Episode:26

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 なぜタシュアは、ここに居てくれないのだろう?
 何を考えろと言うのだろう?

 堂々巡りをするばかりで、答えが出ない。
 ただ確かなのは、隣に居てほしいという私の思いが、彼の思う「何か」と食い違っていることだ。

 どうにも考えがまとまらなくて、ぼうっとしてくる。

 テーブルの上には、食事が置かれていた。

 記憶と違うから、眠っている間に取り替えてくれたらしい。
 私が食べないせいだろう、冷たいスープやムースなど、口当たりのいいものばかりだ。

 その中からなんとなく、ゼリー寄せを手に取る。
 甘くしたお菓子ではなく、煮た野菜などが入ったタイプだ。

 ひと口食べてみると、予想以上の美味しさだった。さすが、この屋敷の厨房を預かるだけはある。

 同時に、申し訳なくも思った。

 タシュアと話をした翌朝から、食事はこの部屋に運ばれている。
 頼んだわけではないのだが、気づくとそうなっていた。

 だがとても食べる気にはならなくて、ほとんど手を付けていない。
 それなのにここの人は嫌な顔ひとつしないで、適当な時間に下げにきて、代わりにお菓子や飲み物を置いていってくれていた。

 食事の内容も、喉越しがいいものに変わってきている。
 ここへ顔を出す人たちも、私が眠っていれば起こさず静かに、起きていれば一言二言声をかけてくれて、いつもにこやかだ。

 気を遣ってくれているのだと思う。

 ――どうすれば、いいんだろう。

 ずっとここで、こうしているわけにはいかない。
 何か決めなくてはならない。

 私は何がしたいのか、どうすればいいのか……。また振り出しだ。

 そのままずいぶん長い間考えて――やはりダメなのだろうと、思った。
 もしこのままでいいのなら、タシュアはあんなことは言わない。

 ――何か、期待されているのだろうか?

 ふと、そんな考えが浮かんだ。

 急いで食事を置いて、手紙を手に取る。
 もしそうだとしたら、手がかりはこの手紙だ。

 何度も読み返す。

 時間をかけて、考えてほしい。
 気づいてない何かがある。

 タシュアが言いたかったことは、これだろう。

 一方で、気づく。

 タシュアは別に、すぐに何かをどうしろと言ってはいない。
 私に対して、時間がかかってもいいと言っている。

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