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第10話 空(うつほ)なる真実

閑話休題、孤島にて Episode:27

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 タシュアの言葉に裏はない。

 何かで駆け引きをする必要があるならともかく、彼の言うことは基本的に、言葉どおり受け取っていい。
 だからやはり私に、期待しているのだと思った。

 少しだけ冴えてきた頭で、もう一度考える。

 もしタシュアが本当に愛想が尽きたのなら、彼の性格なら、こんなことはわざわざしない。
 何も言わず、静かに姿を消すだろう。

 だとすればこのまま戻っても、タシュアは受け入れてくれるとは思う。
 彼が望む私に知ってほしい「何か」は、気づくまでに時間がかかるものだと、彼自身が書いているのだから。

 だが期待されていると分かった以上、このまま戻りたくはなかった。

 ――何を、望んでいるのだろう?

 突然、自分が死んだらどうすると言い出したタシュア。

 正直、今も考えるだけで震えるほど怖い。
 そのことは、タシュアも分かっているはずだ。

 それなのに、わざわざ持ち出した。ならばきっと、それが鍵だ。
 だから必死に考えようとして……瞬間、恐怖に襲われた。

 これではいけない、何とかしなければと思うが、どうすることも出来ない。
 あの頃の辛さが甦ってきて、考え続けることが出来ない。

 ――どうしよう。

 これを何とかしないと、タシュアが望んだ答えには……。

「大丈夫?」

 突然耳元で声がして、飛び上がるほど驚く。

「あらま、驚かせちゃったわね。で、大丈夫?」

 顔を上げると、ルーフェイアのお母さんがいた。

「ノックしたんだけど、気づかなかったみたいだから、入ってきちゃった」

 言いながら悪戯っぽく笑って、手を伸ばしてくる。

「何だかよくわかんないけど、頑張ってたみたいね」

 言葉と共に抱き寄せられて、頭を撫でられた。

「あんまり、根詰めると逆効果よ?」
「でも……」

 たぶん、それではダメなのだ。踏み出さないといけないはずだ。
 そんな私を見て、お母さんがふっと笑った。

「頑張る子ねー。まぁだから、タシュアも離さないんだろうけど」

 また頭を撫でられる。

「タシュアに、何言われたの?」

 思わず身体が硬くなった。
 思い出すだけでも辛い。

 様子に気づいたのだろう、お母さんが私を強く抱きしめた。

「大丈夫、怖いことなんてないわよ」

 やわらかい胸と、暖かい腕。
 まるで小さな子供のようだが、安心している自分が居た。
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