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第11話 虚像の護衛

儀式 Episode:01

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 ◇Rufeir

 予定通り二日後の早朝、あたしたちは出発した。

「あなたたち、しくじったらただじゃおかないわよ」
「はい……」

 とても激励とは思えない、イオニア先輩の言葉に送られる。

 ちなみに先輩の任務は、あたしたちの移送の付き添い、なんだそうだ。
 だから今回はあたしたちが戻るまで、アヴァンシティを観光すると張り切ってた。

 あたしたちの行き先は、アヴァンシティから北西へ行ったところの、ベルヒ山系。
 この国の人たちには、聖なる山々としてあがめられているのだと言う。

「でもそこ、観光地なんでしょ?」
「一部だけだな」

 ナティエスの質問に、殿下が答える。

「ベルヒ山系は幾つもの山からなるが、オロス山周辺と手前の谷は、一般は立ち入り禁止だ」
「で、あたしら堂々とそこへ行くわけか。役得かね?」

 シーモアが笑った。

 予定では公爵家の持ち物であるその谷に入って、数日間逗留。
 その後持参した竜の骨を片手に、谷を出ることになっていた。

 どう見ても聖なる儀式というよりは、儀式「ごっこ」だ。

 ただ殿下の言うとおり、生きている竜を相手になんて、プロでも死と隣り合わせだ。
 だから代々の王位継承者は、妥協案としてこれを考え出したんだろう。

 意外と世の中は、あたしなんかが知らないところで、いい加減な妥協だけで回ってるのかもしれない。

 しばらく走るうち、窓の外は深い森に変わっていた。
 たしかにここなら竜が居ても、おかしくはない。

 ――居ないだろうけど。

 竜はその知能が高くなるほど、人間を嫌う。
 だからシティまで、竜の翼ならひと飛びで行けそうな場所じゃ、昔はともかく今は居ないだろう。

「でもなんで、こんなややこしい儀式、することになったの?」

 ナティエスが不思議そうに訊いた。

「わざわざ詐欺まがいのことするくらいなら、やめちゃったっていいと思うんだけど」

「この儀式は建国の祖、メルヒオル公にまつわるものだ。
 他国の人間には分からんかもしれんが、これを無視しては、アヴァン国と公爵家は立ち行かん。それこそ革命騒ぎになる」

 そういって殿下が、説明を始める。

「現アヴァン国が、かつて神聖アヴァンとして広大な版図を誇っていたのは、お前たち知っているか?」
「あ、うん、習った」

 この間テストで出たところだから、ナティエスも覚えていたみたいだ。
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