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第4話 お茶の効能は

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「えっと、えっと……そうだ、ともかく座りませんか?」

 死んだ父さんがよく、怒り出した母さんにそう言ってたのを思い出して試してみる。

「お茶でも、淹れますから。あと甘いもの」
「あらそう?」

 効果てきめん、おばさんがクールダウンした。こうなればこっちのものだ。
 けどそこで、重大なことに気がつく。

 師匠はあのとおり偏屈で、しかも妙にこだわりがあるから、「美味しいお茶とお菓子」なんてものに執心しない。
 飲むのはいつでも口も鼻も曲がりそうな、なんとか言う薬草茶だけだ。

 僕はそれが嫌で、自分用にお小遣いから、こっそりいいお茶とお菓子を買ってるわけだけど……この屋敷に一般人がまともに口にできるお茶とお茶菓子は、それしかない。

 結局僕は仕方なく、そのとっておきの茶葉を使ってお茶を淹れて、あとで食べようと思っていたお茶菓子を出した。
 なけなしの小遣いから買ったものなのに。

「どうぞ」

 カップからいい匂いがして、なんか悲しい。

「ありがと。で、えっと……」

 おばさんが珍しく途中で言いよどむ。

「どうしたんです?」
「んーえっと、キミ、名前は?」

 そういえばお互い知らないままだ。

「スタニフです。ここで助手してます」
「そうなんだ、偉いわね。私は……」

 その先は上手く聞き取れなかった。

「カワ・ライサ?」
「全然違うわよ!」

 何度か似たようなやり取りをしたけど、やっぱり分からない。

「あーもう、こっちに無い発音なわけ? もういい、テキトーに呼んで」
「じゃぁライサで」
「それはダメ」

 速攻で却下される。
 結局、僕に決定権ないじゃないか。そんなことを思いながらも、恐る恐る訊いてみた。

「じゃぁ、どうしましょう?」
「イサでいいわ。発音できないみたいだから」

 結局おばさんの一存で決まる。テキトーに呼んでなんて大嘘だ。けどそれを顔に出せない自分が悲しい。
 おばさんが美味しそうにお茶をすすった。

「いい香りねー」
「あ、はい。これこの辺で取れるんですけど、けっこう有名なんです」

 この村で取れる茶葉は、香りがいいので有名だ。
 そのおかげでこの村は、他所よりはずっといい暮らしをしてる。
 ただおばさんにはそんな上等なお茶も、大して効果はなかったみたいだ。

「で、何がどうなってるわけ?」

 話がまた元に戻る。僕の小遣いが泡と消えた瞬間だった。
 何のために大事なおやつを差し出したんだろう? そんな思いに駆られながら、質問に答える。
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