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第8話 親孝行な僕のモヤモヤ

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「さっきの召喚で、陣が魔力を使い切っての。また使えるようになるまでに、どうしてもそのくらいかかるんじゃ。まぁ諦めてくれ」

 あ、やぶ蛇、と思ったけど、僕は何も言わなかった。

 父さんからいつも言われたのは、「余計なことは言うな」だ。
 横から口を出すとロクなことがない、世の中黙っているに限るっていうのが父さんの持論で、僕の見る限り、それはいつも場合正しい。

 そんなわけで親孝行な僕は、ちゃんと父さんの言いつけを守った。
 そして言われた側のおばさんは。

「ちょっと! 人を勝手に連れてきておいて、『諦めてくれ』ってどういう言い草?!
 歳食ってるから何言ってもいいってもんじゃないわよ!」

 当然師匠に食ってかかった。

「だいたいね! その歳さえくってりゃ偉いってその発想自体気に入らない!
 何がカメのコウより歳のコウよ、幾つになってもダメなものはダメ、あったりまえでしょっ!」

 一気にまくし立てて、また師匠がたじたじになる。

「いやだから、その、要は待ってくれと言うわけで……」
「だったらそう言いなさい!
 そもそもね、そっちが謝る状況なのに『諦めろ』って何なの! 誠意とか謝罪とかそういうものが先でしょうが!」

 やっぱり師匠みたいな人には、おばさんが最終兵器になりそうだ。
 師匠のそばにこのおばさんがいれば、師匠の人でなしな言動が少しは治るんじゃないだろか?
 だとしたらそれだけで、僕にとってこの事故は価値がある。

 ただ、絶対に言うわけにはいかなかった。
 ただでさえおばさんはこの事故に腹を立ててるわけで、なのにそんなことを迂闊に言ったら、僕まで一緒に悪者扱いだ。

 悪いのは実験を企てた師匠で、僕はただの助手。
 できたらおばさんを助ける側に回って得点を稼ぐのが、ここは絶対賢いだろう。

「とりあえずライサさん……でしたっけ?」
「イサっ! ライサはやめてって言ったでしょ、もう忘れたの!?」

 うっかりミスで僕のほうに矛先が向きかける。

「す、すみませんイサさん。それでですね、えっと、師匠の実験でご迷惑をおかけしたのは謝ります」

 そこまで言ってはっとする。何で僕、頭下げてるんだろう?

 けどさすがにここで撤回はできない。そんなことしたら余計に印象が悪くなる。
 ともかくここはガマンガマン、そう自分に言い聞かせた。頭なんて何回下げてもタダだって、父さんも言ってたし。

 ちょっとだけモヤモヤしながら、僕は謝り続けた。
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