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第9話 僕の大事なモノ

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「ともかくその、陣がまた使えるようになるまで待ってくれませんか?
 僕も師匠を手伝って、少しでも早く帰れるようにしますから」

「それはありがたいけど。でもあたし、その間どうすりゃいいのよ?」

 言われて気づいた。確かにその間、おばさんを野ざらしにするわけにはいかない。
 というかこのおばさんを野放しにしたら、村が大変なことになりそうだし。

「えっと、えっと、その間は――」

 言いかけた僕の言葉を、師匠が勝手に引き継いだ。

「その間はここに居ればいいじゃろ。ワシとしてはあまり気が進まんが、かといって他の家にというのはさすがに……」
「ちょっとっ! 人を勝手に連れてきておいて、まだそういうこと言うわけっ!?」

 またおばさんの怒りの声が炸裂。

「気が進まないとか言うなら、実験なんかしなきゃいいでしょ!」
「そ、そう言ってもな。実験せねば理論が証明できんじゃろうが」
「なら失敗しないでよ!」

 なかなかおばさん、言うことがムチャクチャだ。でも師匠が困ってるから良しとする。

「失敗するなと言われても、実験には失敗が付き物じゃしなぁ」
「だからって他人に迷惑かけていいってもんじゃないでしょ! というか、迷惑かけといてその態度なんなのっ!」

 要はこの辺が、おばさんの怒りの理由なんだろう。
 まぁ師匠も、そういう他人のキモチとか迷惑は顧みない人だから、ここは言われて少し凹んどけって感じだ。

 内心ニヤニヤしながら、でも顔には絶対出さないように注意しつつやり取りを見守る。
 けどそのうち、僕は重大なことに気づいた。

 ――夕飯、どうしよう。

 僕と師匠の夕飯は、いつも隣の家が作ってくれる。
 師匠が言うには、なぜかここの領主がそのお金を出してくれてるんだそうだ。

 でもそれは当然二人分で、おばさんの分は入ってない。
 そしてあのおばさんの勢いだと、夕飯が無いなんて許さないだろうから、きっと僕の食べる分が無くなる。

 それは絶対にイヤだった。

 大食らいの師匠のせいで、ただでさえ僕の夕食は少なくなりがちだ。
 そのせいでいつもお腹いっぱいなんて食べられなくて、朝ごはんの直前とか夕食の直前はフラフラしてるのに、全部とられたら絶対飢え死にする。

 夕食ナシという最悪の事態を避けるために、僕はやむなくやり取りに口を挟んだ。
 それにもしかしたら、今思いついたすばらしい作戦が上手くいくかもしれない。
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