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第40話 お菓子とお茶と
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「おや、どしたんだい」
そっと厨房のドアを開けると、あのおばさんが出迎えてくれた。
「いいところに来たよ。実はね、例のパンを焼いてみたんだ」
中にパンが詰まった、まだ温かい型が差しだされる。
「すごい、上手くできてるじゃない」
「あんたがきちんと、作り方を書いてくれたからね」
それはイサさんじゃなくて僕が書いたんだ、そう言おうと思ったけど、言葉を飲み込んだ。女の人は話を聞かない、それは火を見るより明らかだからだ。
女性の話に首を突っ込んだらいけない、ロクなことにならない。父さんもいつもそう言ってた。
だったら僕の話なんてよくて流されるだけ、最悪だとなぜか攻撃対象になる。それはぜったいにイヤだ。
――やっぱり悲しくなってくるけど。
でも、何か言われるよりはマシ。そう自分に言い聞かせる。
「それにしても、これならあたし、もうここには用なさそ」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ」
ここで帰られたら、僕はもう姫さまに会えなくなる。それは何とか止めなきゃだ。
「帰るってイサさん、姫さまから頼まれたことはどうするんです?」
「それがあるから、帰りたくても帰れないんじゃない」
「おや、そうだったのかい?」
横から厨房おばさんが口を挟んできた。
「いつ帰っちまうか不安だったけど、そういうことならアンタ、当分ここにいてくれそうだ。よかったよ」
どうやら厨房おばさんは、イサさんにいてほしかったらしい。
僕としては本音は、こんな破壊力満載のおばさんって種族を、お城にこれ以上置いておくのはどうかと思う。
けどイサさんが帰るとなると、僕もお城にはいられないわけで。なら「いてほしい理由」が多いほうが助かる。
厨房おばさんが言った。
「こんだけのもの作るんだ。アンタさ、他にもお菓子の作り方、知ってるだろ?」
「そりゃ、いくつかはね」
「なら、教えてほしいんだけどねぇ。もっとここにいられるように、あたしからも姫さまにお願いしとくからさ」
言いながらも厨房おばさんの手は動いてて、気付けば装飾のされた銀のトレイの上に、姫さま用らしいお茶のセットが用意されてた。
「ふだんは行かないんだけどね、今日は特別に、これを持って姫さまのところに行くんだ。あんたも来るかい?」
「行く行く」
みんなで今度は階段を上へ上がってく。
「あら、今日はみなさまお揃いですのね」
姫さまはこの間とおんなじように長椅子に掛けてて、僕たちを見て微笑んだ。
「姫さま、どうそ。この間のパンです」
「ありがとう」
優雅なしぐさで、姫さまがパンを口に運ぶ。
そっと厨房のドアを開けると、あのおばさんが出迎えてくれた。
「いいところに来たよ。実はね、例のパンを焼いてみたんだ」
中にパンが詰まった、まだ温かい型が差しだされる。
「すごい、上手くできてるじゃない」
「あんたがきちんと、作り方を書いてくれたからね」
それはイサさんじゃなくて僕が書いたんだ、そう言おうと思ったけど、言葉を飲み込んだ。女の人は話を聞かない、それは火を見るより明らかだからだ。
女性の話に首を突っ込んだらいけない、ロクなことにならない。父さんもいつもそう言ってた。
だったら僕の話なんてよくて流されるだけ、最悪だとなぜか攻撃対象になる。それはぜったいにイヤだ。
――やっぱり悲しくなってくるけど。
でも、何か言われるよりはマシ。そう自分に言い聞かせる。
「それにしても、これならあたし、もうここには用なさそ」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ」
ここで帰られたら、僕はもう姫さまに会えなくなる。それは何とか止めなきゃだ。
「帰るってイサさん、姫さまから頼まれたことはどうするんです?」
「それがあるから、帰りたくても帰れないんじゃない」
「おや、そうだったのかい?」
横から厨房おばさんが口を挟んできた。
「いつ帰っちまうか不安だったけど、そういうことならアンタ、当分ここにいてくれそうだ。よかったよ」
どうやら厨房おばさんは、イサさんにいてほしかったらしい。
僕としては本音は、こんな破壊力満載のおばさんって種族を、お城にこれ以上置いておくのはどうかと思う。
けどイサさんが帰るとなると、僕もお城にはいられないわけで。なら「いてほしい理由」が多いほうが助かる。
厨房おばさんが言った。
「こんだけのもの作るんだ。アンタさ、他にもお菓子の作り方、知ってるだろ?」
「そりゃ、いくつかはね」
「なら、教えてほしいんだけどねぇ。もっとここにいられるように、あたしからも姫さまにお願いしとくからさ」
言いながらも厨房おばさんの手は動いてて、気付けば装飾のされた銀のトレイの上に、姫さま用らしいお茶のセットが用意されてた。
「ふだんは行かないんだけどね、今日は特別に、これを持って姫さまのところに行くんだ。あんたも来るかい?」
「行く行く」
みんなで今度は階段を上へ上がってく。
「あら、今日はみなさまお揃いですのね」
姫さまはこの間とおんなじように長椅子に掛けてて、僕たちを見て微笑んだ。
「姫さま、どうそ。この間のパンです」
「ありがとう」
優雅なしぐさで、姫さまがパンを口に運ぶ。
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