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第44話 壁に咲く花

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「あーもう、こういうのヤだ」
「諦めてくださいよ」

 このやり取り、何度繰り返しただろう?

 姫さまや領主様と親しくなって数日、僕らは晩餐に招待されることになった。

 厨房おばさんなんかが言うには、僕らみたいな平民が招待されるのは、かなり珍しいっていう。
 でもこういうお城って言うのはけっこう日々は退屈で、みんな楽しむ口実を探してるんだとか。

 そんなわけで晩餐って話が出たらしいのだけど、イサさんが最初はかなり渋った。
 理由は「面倒くさい」。

 こんな理由で領主からの晩餐を断ろうとするなんて、さすがおばさんだ。
 誰だって駆けつけるくらい栄誉なのに、その辺の花ほどにも感じてない。

 けっきょく姫さまがわざわざ説得してくれて、なるべく内輪の、気軽でささやかなものにするってことで、折り合いがついた。

 そして今、その席だ。「気軽なもの」ってことで立食式で、取り立てて席順とかは無い。
 たしかに気楽で気軽だ。

 でもささやかって言ってた割には、なんだかんだで二十人以上いる。
 まぁ領主様や姫さまからすれば、たしかに「ささやか」なんだろうけど……。

「食べないんですか?」
「食べてるわよ」

 相変わらずイサさんの食欲は、小鳥並みだ。
 料理が、手元のお皿にほんの少しだけ乗せてあって、それをつついてる。

 ただこういう席じゃ食べたい分だけでいいし、イヤなら手をつけなくてもいいから、好きなようにやれてるみたいだった。

 けど、壁際の椅子に座ったきりなのはどうかと思う。
 だいたいこういう席じゃ、立って談笑するのがマナーなのに。

 それを言ったら、あっさり「できないから」と返ってきた。

「ずーっと立ち続けなんて、あたし、途中で具合悪くなるもの」
「そうかもしれませんけど、でも少しは立って、いろんな方と話しないと」

 じゃないと、領主様の顔が立たなくなりそうだ。
 まぁおばさんが、そんなもの気にするとは思えないけど。

 会場は、お城の一室。式典とかをする感じの、でもそう大きくはない広間だ。
 っても今回は少人数だから、広さとしては十分だった。

 ――けっこう、似合ってるかな?

 ドレス姿のイサさんを見て、ちょっとそんなことを思う。
 この人子持ちのくせに、若い娘みたいに細いから、貸してもらった深い赤のドレスがいい感じだ。

 なのに、壁の花。

 いや、花って言うには花盛りすぎてるけど。
 それでも立って談笑すれば、もう少しサマになるのに。

 そんなこと考えながらイサさんの隣でぼーっとしてたら、声をかけられた。
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