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しおりを挟む一つ季節を跨ぎ、二つ季節を跨ぎ、三つ季節を跨ぎ、再びの険しい冬を越え、そしてまた春がやって来た。
――どうだ、存外持っただろう。聖女様々だな、全く、ざまあない。
最期までそんな憎まれ口を叩いていたヴィクトルは、その数日後ひっそりと息を引き取った。
穏やかな風の吹く春の、静かな夜のことだった。
遠く厳かに鐘が鳴る。堅固な城壁に囲まれたヴァルグリム砦の中心部、城から連なる市街地の外れに、教会はあった。
弔いの鐘が響くのを、ルカは静かに聞いていた。薄手の黒布に包まれたルカは、小さく身震いをする。教会の裏手、小高い丘にある墓地は、傍らに聳えた巨木によって翳っている。春先とはいえ日陰は未だ寒さを残し、着慣れない喪服の下の細腕に鳥肌が立った。
ノルデュール領主の兄にしては慎ましやかな葬送は、妻であるイリヤの要望に因るものだ。家族と重鎮のみの密やかな葬儀は、今最後の時を迎えている。
「ぱーあ、ぱーあ?」
巨木の下、置かれた棺に向かって赤子が手を伸ばす。昨年の春に生まれた男児は、漸く己の父を表す言葉を覚えたばかりだ。
舌足らずに父を呼ぶ赤子に、抱えたイリヤが堪え切れずに嗚咽を零す。直に埋葬される父親にもう会えないことなど、赤子には知りようもない。
哀れに思う。けれど、子の顔を知らずに亡くなると思われていたヴィクトルにとっては、短い期間であっても己の子と過ごせたのは救いだったのではないか。
希望的観測に過ぎないが、あどけない赤子の顔を見ながら、ルカはそう思う。
鐘の音が鳴り止んだ。葬儀の終わりが近付いている。
棺が閉められる前にと、イリヤが赤子を下ろす。
「ほら、パパにお別れしな」
「ぱーあ!」
涙ながらの声音と対照的に無邪気に笑う赤子に、参列者の間からも啜り泣く声が聞こえる。
『あの人と結ばれた時から、分かってたことだから。……分かってても、哀しいし、辛いけどね』
夫が亡くなる直前にそう苦笑していたイリヤだが、今は号泣して棺に縋りついていた。色とりどりの季節の花に囲まれ横たわるヴィクトルは、憎らしい程穏やかな顔で手を組んでいる。
傍らに立つ領主は、いつにも増して厳めしい顔で、小振りな白い花を握っている。哀しみよりも葬儀を取り仕切った疲弊の方が強く出ている顔で、そっと棺の中に花を手向けた。
次いで、参列者たちが次々と献花をする涙ながらにイリヤがヴィクトルの頬に触れ、訳も知らぬままに赤子が花を棺に放り込む。
最後にルカの番になった。一輪花を手に、ルカは穏やかな死者の顔を見下ろす。好かれてはいなかったろう。聖女の存在を有益に思いながらも、その力で僅かな生を長らえさせることを疎ましく思っていただろう、ヴィクトルの頭の傍に、ルカは花を差し込んだ。
ふと、柔らかな風がルカの頬を撫でた。まるで穏やかなその人の力のように、優しい風にルカの髪が舞う。肩に触れる程に伸びた細髪は、褪せた白に所々金が混じっていた。
失われたかに思われた聖女の力は、時が経つに連れて少しずつ蘇って来ている。同時にルカの髪色も僅かながら元に戻りつつあった。
金混じりの白を掻き上げ、ルカはそっと目を閉じる。好きでもない相手に送られるなど、それこそ、ざまあないじゃないか。ひねくれた思いに応じる声はなく、それを何処か寂しく思う。
さあと爽やかな風が吹き抜ける。呼応するように祈る、ルカの周りを祝福の光が舞った。
きらきら、きらきら、黄金の輝きは弔いとなって辺りを埋め尽くす。イリヤの泣き声が響く。
別れを告げるように、穏やかな風が通り抜けて行った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
廊下を歩く。行ったり来たり、成る程、人はこういう時に熊になるのだ。
自覚しながらもルカは、うろうろと歩き回るのを止められなかった。重厚な絨毯の敷かれた廊下を、素足で踏み締める。風呂上がりの体はしっかり水分を拭いたものの冷えていた。頭から被るだけの部屋着は薄く、ルカは少しでも体温を上げようと足音を殺しながら歩く。
とてもではないが、他人と会う姿ではなかった。もし使用人にでも見咎められれば、あらぬ噂の元になりかねない。分かっている。だが、そうしたあらぬことを、他でもない自分自身が望んで、ここへ来たのだ。
そう考えるとどうにも平静ではいられず、ルカはうろうろと、その扉の前を彷徨くのだった。
(今更……あん時のあいつの気持ち、分かるなんてな)
足の裏に多彩な模様の絨毯の感触を味わいながら、ルカは苦笑する。以前にレオニードが部屋の前でうろうろしていたのを鬱陶しく思ったものだが、いざ己が同じ立場になってみれば、同じような行動をしているのにはいっそ笑えて来る。
何度目かの溜め息を吐いた時、不意に、傍らの扉が開いた。
「何をやっているんだ、お前は」
呆れたような声音に何処かほっとしたような心地になる。自室から顔を覗かせた夫に、ルカはにやりと笑って見せた。
「落ち込んでいるとこ慰めてやろうかと思って。な、ダ・ン・ナ・サ・マ?」
「……馬鹿か、お前は」
降り注ぐ苦笑は妙に面映ゆく、ルカも堪らず声を上げて、笑った。
ことり、卓上に水の注がれたグラスが置かれる。ベッドに腰掛けたルカは、ちらりと傍らの人を見上げる。琥珀色の液体の注がれたグラスを手にしたレオニードは、椅子に座り苦笑した。
「お前は飲めないだろう?」
「酒は……試したことねーな。それと、お前じゃなくて、ルカ、な」
「分かった分かった、お前も飽きないな……ルカ」
指摘すると一層厳めしい顔が緩む。ルカ、呼ばれる声音はどうにも甘く聞こえ、もじもじとルカは水を口にした。
「せがんでおいて照れるな。こっちが恥ずかしくなる」
「るっせ、まだ慣れてねんだよ。それより……ちょっと飲ませて」
「いけるか?」
止めることはせず、レオニードは脇にある瓶と新しいグラスを手に取った。蒸留酒は瓶の半分程に減っており、嗜むと言うには多い量を既にレオニードは飲んでいるようだった。
グラスの底にほんの少し、注がれた酒を手に取る。正確な自身の年齢を、ルカは把握していない。孤児院に保護されたのが五歳とされているが、それも定かではなかった。体の大きさから判断されたものの、碌に食事も与えられていなかったルカが、年相応の見た目であったとは考えにくい。
十五で〝選定の儀〟を受け聖女として認定されたが、実際の年齢はもっと上だったのではないか。そう考えれば既に、シルヴァリル王国で成人と定められている十八を越えていてもおかしくはないのだ。
(全然、背丈も筋肉も、追っ付いてないけど)
少なくとも酒を飲んでも許される年齢ではあるが、これまでは機会に恵まれて来なかった。
折角なので、と琥珀の液体を喉に流し込む。ふわりと鼻先にスモーキーな香りが溢れる。同時に喉が焼けるような感覚がして、ルカは思わず噎せた。
「っおい、大丈夫か」
「だいじょ、っげほ、……これ、つえー奴?」
「まあ、それなりにな」
瓶を手に取りラベルを確認するレオニードは、少なくとも顔色は全くの素面と言って良い。酒を飲んでいる所をこれまで見なかったのは、単に共に夜の時間を過ごすことの少なさ故だろう。
中々の大酒家であるらしい夫は、仕様のない奴だと水を差し出して来る。喉に流し込む、冷たさが心地良い。
「兄上も……酒は飲めなかったな」
ぽつりとレオニードが呟く。揺らすグラスの底、琥珀に沈んだ氷がからりと鳴った。
「ヴィクトル、酒苦手だったのか?」
「体調の所為もあって控えてはいたが、一回だけな。今のおま……ルカみたいに、一口だけで酷い顔をしていたが」
その後イリヤに酷くどやされたがな、と亡くなった人を語る口調は哀しみよりも懐かしさと慈しみが滲んでいた。
『分かってても、哀しいし、辛いけどね』
イリヤの言葉が頭を巡る。哀しくはあるだろう。辛くもあるだろう。けれど、若き領主は立派に葬儀を勤め上げ、別離を乗り越えているかに見えた。
(……何だよ、慰めてやろうと思ってたのに)
寧ろ慰めを必要としているのはルカの方かも知れなかった。これ程に身近な者の死を感じたことはない。孤児院でも幼い子が病に命を落とすことは間々あったが、ルカにとってそれは心の動く事象ではなかった。親しみを感じた者との別離を経験したのは初めてだった。
好かれてはいなかった相手だ。こちらとて特段気が合うと思った訳でもない。それなのに、残されたイリヤを、赤子を、そしてレオニードを想うと、胸が締め付けられそうになる。
初めての喪失に思った以上にダメージを受けているのを、ルカは自覚せざるを得なかった。
感傷を振り払うように、ガン、と些か乱暴にグラスを置く。
「ま、俺は苦手かどうかわかんねーし。初めてだからな。こんなもん、慣れだろ、慣れ」
「慣れか? ……まあ、付き合ってやらんこともないが」
ルカは瞬きをした。お優しい旦那様は酒飲みに付き合ってくれるらしい。夜に。二人で。
その意味を分かっているやらいないやら、ジト目で見上げる先、足を組んでグラスを傾けているレオニードは妙に決まって見える。
覚悟をして来た筈なのに、切り出すのは酷く難しい。その行為自体より、相手の拒絶を恐れていた。他に伴侶を持たないし子も儲けないと言ってはいたが、だからといって受け入れられるかどうかはまた別問題だと、今更ながらに思い当たる。
まあ、今日は酒も飲めたし。レオニードも特段堪えている訳でもなさそうだし。己の心に言い訳をしながら、ルカは立ち上がる。
「これは俺には強過ぎた。次はもうちょっと俺好みの奴、用意しとけよ。じゃ、俺はこれで……」
「そんな格好をしておいて帰るのか?」
揶揄い混じりの言葉と共に、手首を掴まれる。いつの間にかグラスは置かれ、鋭い瞳がルカを見ていた。餓えた、漆黒の、獣の瞳だ。
ぞわりとルカの背筋を得も言われぬ感覚が駆け抜ける。射竦められ、沸き上がる甘さにルカは震えた。
風呂でいつもより念入り身を清めたのも、下着すら履かずに訪れたのも、どれもその為でしかない。それなのに今更怖じ気付くのか。掴まれた手首が熱い。その熱は己の内から出て来るものだと自覚すると、ルカの頬が朱に染まった。
下半身が疼く。その理由を、ルカはもう知っている。
「慰めてくれるのではなかったのか?」
近付く獣の腕に、逃れることも出来ず捕らえられた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
他人から触られるのはこれが初めてではないのに、何故こうも肌がぞわぞわするのか。
寝台に横たわり、裸体を晒したルカは、居心地悪く身動ぎした。ばんざいをして頭からすぽんと服を剥ぎ取られた時は、子供のようだと笑ってしまったものだが、その後に待ち受けている行為はとてもではないが子供がするようなものではない。その事実に頭がくらくらする。
脇腹を撫でる掌は、不器用ながら酷く慎重に、優しく、触れて来る。いっそ自己中心的に、激しく、してくれれば良いのに。むず痒さにルカは身を捻った。
ルカの上に伸し掛かる人もまた、既にシャツを脱ぎ捨てている。鍛えられた胸板の厚さに、ルカより倍はありそうな腕の太さに、見下ろす餓えた獣の眼光に、体が勝手に期待を始めて疼いた。
肌を摩る指先が胸の突起を弄り出し、堪らずルカは身体を捩った。口から甘い吐息が零れるのは誤魔化しきれない。顔を背けるルカの背を、レオニードは苦笑しながら押した。
「っ何すんだよ……!」
「顔を見ながらはやり辛そうだからな。お前には、この方が良いだろう」
そんなことをのたまう男の手で、ルカはくるりとうつ伏せにされた。滑らかなシーツに押し付けられ、前身が緩く欲を発している。
素直になれないルカのことを、男が把握しきっているのは癪だった。癪ではあるが、事実でもあるので、ルカは引き寄せた枕に顔を埋めた。顔が見えないからこそ、感触をより一層リアルに感じる。男の手は今度こそ露骨に、ルカの性感を煽り始めた。
「っふ……っ」
体とシーツの合間に差し込まれた指先が、胸の尖りを摘まみ上げる。ぷくりと膨れた果実を強く、弱く、捏ねる手付きの嫌らしさに、自然と息が上がった。
「ん、あぁ……っ」
ルカの反応に気を良くした男の指が尖りを引っ張り、ルカの口から甘く鳴き声が漏れる。
「気持ち良いか?」
「っば、そういうの、聞くな……んんっ」
背後から伸し掛かるレオニードの唇が首筋に触れた。ねっとりとした舌先が首を伝い、肩胛骨を舐め上げる。強く背中に吸い付かれ、自然と腰が浮き上がった。
露わになった臀部に、布越しの男の昂ぶりが押し付けられている。欲情しているのだ、この身に。切ない衝動が下腹部に沸き起こり、ルカの腰が自然と揺れた。
「……余り、押し付けるな。持たなくなる」
「っんなこと、言ったって……ッア、ばか、どこ触って……!」
気紛れに乳首を撫で摩っていた指先が、脇腹を伝い、下腹部へと到達する。兆し始めた隆起は握り込まれ、緩く動かされるだけで隠しようもなく硬くなった。
「っは、そっちは、いいだろ……っ」
「何故だ。共に気持ち良くならなければ意味がないだろう」
緩く優しく、上下に扱かれ、口から出る甘い声が枕に吸い込まれていく。直接的な快楽よりも、レオニードに囁かれた言葉が体を熱くする。共に、と言った通りに、臀部の合間に擦り付けられるレオニードの昂ぶりが一層そそり立つのが感じられた。
これまで一方的に押し付けられる行為しか知らない身は、それだけで単純に悦び始める。扱かれた先端がひくつき、透明な滴が溢れくちくちと卑猥な音が響いた。
喘ぎ震える臀部から熱い塊が去り、ルカは思わず腰を浮かせた。
「っあ、何、で……っ」
「そう急くな。確か、此処に……」
背後から伸ばされた手が枕元の小瓶を手にした。枕から顔を上げたルカの目に、とろりとした液体が大きな掌に垂らされるのが映った。
「それ、何……っひぁっ?!」
訪ねるより前に、尻にぬめる掌が当てられた。割れ目をぬるぬると指先がなぞり、触れた穴の縁が勝手にひくつく。
「気にするな、只の種子油だ、害はない」
「害とかの問題じゃ……ッア、待って、中……っ」
充分な潤滑を得た指が、後ろの孔へ差し入れられる。痛みはなかった。中指に内を探られるのは、不快はないが快もない。種子油がぬちぬちと満たされる感触に息を荒げるルカの、萎えた前をレオニードは些か乱暴に扱き上げた。
両方を探られ、ルカは再び兆し始める。同時に緩んだ後ろを縦横無尽に指先が弄り、内壁を擦られたルカの背が跳ねた。
「ん、あぁっ……、そこ、ダメ……っ」
「此処か?」
「や、やぁ……ん、ぁ」
信じられない程に蕩けた喘ぎが漏れ、ルカは枕を噛んだ。いつの間にか二本に増やされた指が感じる一点を探り当て、幾度も擦り上げる。その度に身を捩り、甘い吐息をひっきりなしに零した。自分でも制御の出来ない快楽に、ルカは慄いた。
「まだきついな……」
「っあ、もう、いいから、」
「いい、か?」
「ち、ちが……や、も、やめ……ぁっ、い……ッ」
内壁を強く指の腹に圧され、きゅうきゅうと胎の奥から沸き起こる切なさに腰が揺れる。解放を求め内腿が震え、掌に包まれた欲望から溢れた蜜が卑猥な音を立てた。
「っあ、あぁ、レオ……っレオ!」
「うん?」
「っぁ、も、……っキス、キスして……っ」
せがむ声に応じる唇は早かった。塞がれた唇から分厚い舌が差し込まれ、口腔内を蹂躙する。不自然に上体を捻り、下肢は弄られたまま、苦しい体勢の筈なのにどうしようもなく体が蕩けた。
息が苦しい。頭が真っ白になる。全身を痙攣させ、ルカは大きな掌に白濁を吐き出した。
「っあ、は、ぁ……」
「大丈夫か?」
一瞬飛んでいた。倦怠感に呻きながら、ルカは目を開ける。いつの間にか仰向けに寝かされていたようだ。体液で濡れたシーツが背中に当たり気持ちが悪い。
顔を顰めるルカに、傍らに座るレオニードは酷く居心地が悪そうにしている。先に達したルカと裏腹に、男の下半身は未だ滾ったままだ。
おざなりに手遊びするレオニードに向け、ルカは脚を伸ばした。
「……おい、」
「いや、辛そうだなと思って?」
「……止めろ、堪えられなくなる」
「何耐えてんだよ」
伸ばした足裏をレオニードの猛りに押し付ける。ぐりぐりと刺激すると、低い呻き声と共に昂ぶりが一層熱く硬くなるのが分かった。
「……無理を、させたくはない。分かるだろう」
「分かるかよ」
苦しげに眉を寄せるレオニードに、大事にされているのだ。そう思うと、すっかり萎えきっていたルカの下肢も、ずくりと再び疼き始める。
端からそのつもりだったのだ、お互いに。だから今更、気遣いを見せる男に、呆れるやらむず痒いやらでルカは足の甲で浮き出た裏筋を下からなぞり上げた。
息を詰まらせるレオニードの怒張が膨らみ、先端に滴が滲む。足裏でそれを塗り広げながら、ルカの自身もまた持ち上がり始める。絶頂の余韻は未だ続き、胎の奥がじんわりと熱くなって行った。
体が欲している。求める熱は、直ぐそこにあった。
「っお前な、」
「我慢すんなよ、ヤりてーんだろ?」
「……本気で煽っているのか」
「ああ……本気に決まってんだろうが」
今更怖じ気づいたはなしだ。お互いに。
告げる先、獣の瞳が眇められた。漆黒の奥に欲望の色を見つけた瞬間、逞しい身体に組み敷かれる。
「っはは、いきなりがっつき過ぎだっての」
「……お前が煽るからだろう」
仰向けに押し倒し、のし掛かる男の手が容赦なく太股を割り開く。期待にひくつく後ろに押し当てられた猛りは硬く、先程まで挿れられていた指先とは比べものにならない程に大きい。
散々煽ったにも関わらず退け腰になるのを、太い腕が繋ぎ止めた。掴まれた腰を引き寄せられ、膨らんだ先端が少しずつ、押し進められる。
「――――っ、ぅ、あ……っ」
「っ力を抜け、」
「いっ……ぁ、無理……、でか、過ぎ……っ」
指などとは比べものにならない重量で秘部を拡げられ、ルカは呻き声を上げた。穿たれる楔は先端だけでも酷い圧迫感を与えて来る。とてもではないが全部が入るとは思えない。それなのに挿れる気なのだ、己も、相手も。正気の沙汰ではない。
「ルカ、」
苦しげに呼ぶ男の唇が降り注ぐ。生殺しがきついことは同じ男の身としてルカにも分かった。とはいえ直ぐに緩めてやることも出来ず、強張った体で男の唇に縋り付く。
歯の裏をぬるりと舐め回す舌の動きに集中する。次第に弛緩する身に、硬直が少しずつ押し進められる。それを幾度となく繰り返す内に、ルカもレオニードも汗だくになっていた。
ぽたぽたと頭上から汗が降り注ぐ。苦悶に荒く息を吐く、レオニードの全てを受け容れているのだ。そう思うと快楽よりも充足感が胸に満ち、ルカはぎゅうとレオニードの腰に脚を絡ませた。
「……も、いいから、」
「うん?」
「もう、大丈夫だから……動いて」
まるで自らが強請っているようで羞恥に頬が焼ける。だが、このままで辛いのはルカも同じだった。始めたからには終わらせなければならない。ぐん、と内側の塊が一層熱くなるのが分かった。
恐る恐る、打ち付けられる男の動きが、次第に速くなる。敏感になった内壁を幾度も擦られ、ルカは背を仰け反らせた。
「っぁ、は、やぁ……んん、ぃ、」
「くっ、締めすぎだ」
「んなこと、言ったって……っぁ、も、むり……っ」
揺さぶられ、穿たれ、ルカの口から止め処なく喘ぎが漏れる。痛いのか苦しいのかも分からず、只々内側に熱く硬い重量が抽挿されるのを感じていた。
「っすまん、加減が、出来ない」
切羽詰まった男の声に、受け容れた箇所がきゅうと締まる。擦られる度に僅か沸き上がる快楽を、ルカは必死に追った。
「ふ、ぁ……っ、は、」
指で解された箇所を切っ先が抉り、背筋を甘さが走った。再び兆し始めた下腹部に、レオニードが触れる。揺さぶられ、前を刺激され、苦痛は容易く快楽へと反転した。
「っあ、ぁ、いい……っレオ、レオっ」
救いを求めた腕をレオニードの首筋に絡ませる。胎の奥から湧き出る衝動は、上下に擦られる昂ぶりに収束し、爆発しそうに膨張していた。大きく喘ぎ、ルカは自ら腰を揺らす。
「っっも、ダメ……っイク、レオ……っ」
名を呼ぶ唇が塞がれる。絶頂の悲鳴は相手の口腔に吸い込まれた。
搾り取るように締まる孔に、努張が強く強く突き立てられる。小さな呻きを口の中に感じると共に、胎にだくだくと熱い潮が放たれるのが分かった。
荒い息が整うまで、崩れ落ちた背中にしがみついた腕に力を込める。ルカ、耳元に囁かれる甘さが何よりも、全身を甘く満たした。
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