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2-2.
しおりを挟むさっき柿の木から助けてくれた彼らが、一瞬頭によぎって。彼らも主人公と同じ、最初は助けてくれたと思ったのに、やはり私は邪魔者でしかないのでしょう。
しばらく走ったところに、商店街のようなアーケードがあって、急いで駆け込みます。
でもなぜかほとんどのお店が閉まっていて、真っ暗なお店のショーウィンドウにふと自分の姿が映りました。
額には血が滲んでいて、足にも制服にも擦ったような傷がそこらじゅうについていて。髪の毛からは雨の雫がとめどなく滴り落ち、靴下もべちゃべちゃになっています。
鞄も持っていないし、お財布もケータイも当然ポケットには入っていません。
お腹も空いてきたし、どうしたものかと周りを見渡せば、どこから毛が生えているのかわからないくらい、顔中毛だらけのオジサン?らしき人がこちらをじーっと見ています。
春だというのに、分厚いツギハギだらけのコートを着ていて、でもサンダルを履いているその人は、こっちにゆっくりと近付いてきます。
「···な、なかまー···」
「···え?」
「な、なかま···。女の仲間、見つけたー···」
その笑った口には、歯がほとんど生えていません。な、何なのでしょう。。2足歩行なので、人間、だとは思うのですが···初めて目にする生物です。
「あ、あの、あなたは、」
「わ、わ"れ"についといでー···、いっしょにあそぼー···」
ついていけば、お茶ぐらい出してもらうことはできるのでしょうか?今の私には、この謎の生物以外、頼る者がいません。
「ほら"ー、きてー···」
黒く汚れた手が、私の前に差し出されます。言葉もなんとか日本語だし、私に向ける毛だらけの顔は、よく見れば半年間手入れを怠ったチャウチャウのようにも思えます。そういえば、濡れた犬の臭いもしますし。
私は未知との遭遇を受け入れる決意を固め、彼の手を取ろうとしました。
でも、それは1人の男性によってはばかられることに────
「駄目だ。」
深みのある声を周りに響かせて、私の手首を掴んだのは、頬と白いシャツに血を付けて、グレーの髪をうねらせた背の高い男の人。
さっき、学校で"藍"と皆さんに呼ばれていた方です。
「あ、···藍、さん?」
私が彼の顔をじっと見つめると、藍さんはすぐに目を反らしてしまいました。
「あ"ー···」
謎の生物が謎の言葉を発した瞬間、藍さんは拳を一振りふわりとかざすと、謎の生物がお店の壁に勢いよく打ち付けられました。
「へぶしッ」
「え?そ、そんな、いきなり殴ってしまって、大丈夫なのですか?!」
私はびっくりして、慌てて謎の生物に近づき、手を差し伸べようとしましたが、
藍さんにその手を取られました。
「ダメ。」
「···あ、あの、」
「···っ」
手をぎゅっと握られた瞬間、藍さんが自分の口に手を当て顔を思い切り反らしてしまい、私はどうしていいかわからず、立ちすくみます。
「も、もしかして、私、濡れた犬の臭いがしますか?」
「···しない。」
「私の手、冷たくてすみません。」
「···別に。」
言葉数の少ない藍さんですが、藍さんの手は温かくて、私もそれに甘えてそっと握り返しました。
藍さんの呼吸が急に荒くなったような気がしましたが、そのまま私の手を引きズンズン歩いて行く藍さん。
「ええと、その、私···」
帰る場所がなくて、なんて言っては、また不審な目で見られてしまいます。言葉が続かず、俯いたままでいると背中にも血のような赤がついている藍さんが横目で振り返って言いました。
「大丈夫。」
綺麗な顔。彼の肌もとても綺麗で、グレーの前髪から覗くワインレッドの瞳が、少しだけ微笑んでいるようにも思えました。
後ろから先ほどの生物が「こ"ら"ー」と怒鳴っている声が聞こえます。
「あの、あの方は大丈夫でしょうか?」
「あれは···獣人みたいなもんだ。」
じゅ、獣人?
「やはり、人間ではないのですね?!」
「····」
黙ってしまいましたが、藍さんの大きな手は私をとても安心させてくれて、何だか、上京した兄のことを思い出します。
アーケードから大通りに出ると、藍さんがタクシーを止めて、「乗れ」と言われたので2人で乗り込みました。
藍さんは運転手さんに住所を伝えていて、どこに連れて行かれるのかもわからず、でも今は彼に従うしかありません。
「これ。」
静かな車内で、藍さんがズボンのポケットから私の制服のリボンを出してきました。
「あ!それ、私のです!」
「···あいつらに、何された?」
私の方を見ずに、ぶっきらぼうにそう聞いた藍さん。あいつらとは、きっとあの不良A、B、Cさんのことでしょう。
「え、ええと、」
首の臭いを嗅がれて、それから服の中に手を入れられて、とは言えず、俯いて言葉を濁せば、藍さんが、
「···ヤっといて良かった。」
と、ぽつりと呟いて、向こうの窓の外に顔を向けてしまいました。
その窓に映る藍さんは、般若のような形相になっていて、私は見てみないふりをすることにしました。
···何に怒っているのか、世話のかかる私に苛立っているのか。
10分くらい走って着いたのは、5階建てほどの小さな縦長のマンション。でもベージュの壁に、木の扉がついたエントランスで、なんともオシャレな雰囲気です。
タクシーから降りると、マンションのベランダがやたら広くて見上げると、一番上の階から私たちを見ている人物がいました。
その人が手を振っているのが見えましたが、藍さんは無視してエントランスへと入って行ってしまいました。
「あの、ここってもしかして、藍さんのおうち、ですか?」
5階を押す藍さんが、「ああ。」と言って、また静かな空間が出来上がってしまいました。
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