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2-3.
しおりを挟む5階に着くと、なぜかこの階に部屋は一つしかないようで、藍さんが大きな木の扉から入って行きます。
私が入っていいのか迷っていたら、「来い。」と言われて、中へと上がらせてもらいました。
するとそこには、さっき学校にもいた黒髪の男性もいて、にこやかな笑みを携えています。
「えっ?あ、あなたは···!」
「やっぱりねー、連れてくると思ったよ。」
「るせー···」
藍さんが無造作に靴を脱いで上がっていって、私も上がっていいのかオロオロしていると、黒髪の彼が「ちょっと待って」と、玄関から一歩上がる場所にタオルを敷いて私を見上げました。
「汚い足で上がられるの嫌いだからこれで拭いて?」
「あ、は、はい。ありがとうございます。」
「あと君濡れた犬の臭いするからすぐシャワー浴びて。」
「···あ、ありがとうございます。。」
顔は笑っているのに、なんとなくトゲがあるのは気のせいでしょうか?
お風呂を藍さんが沸かしてくれたようで、私はお言葉に甘えて浴室を借りることにしました。
脱衣所には、男性用のTシャツとハーフパンツが置いてあって、ありがたく着てみるも、ハーフパンツが大きすぎてずり下がってきます。
紐を限界まで絞ってみてもブカブカで、濡れたままのスカートに履きかえようと、ハーフパンツを脱いだ時、
「藍のハーパンじゃでかいよね?」
「っ!」
いつの間にか脱衣所のドアから黒髪の彼が覗いていて、まごつく私なんて気にも留めない様子で、彼が「こっち履いてみて」と違うハーフパンツを差し出してきました。
「お"い"っ」
「藍のじゃでかいから僕のを貸しただけだって。」
「そーじゃねえ何覗いてん"だよ"」
向こうから藍さんの重い声が聞こえてきて、2人が話している隙に、私は慌ててハーフパンツを履きました。
「じゃあ、まずは簡単に自己紹介ね。僕は2年生の神哉遥斗《かみやはると》。でこっちが同じ2年の藍。これでも僕のがお兄ちゃんなんだ。」
「え?ご兄弟だったのですか?!」
「うん。まあ、異母兄弟なんだけどね。」
促されてリビングのソファに座ると、遥斗さんがコーヒーを注いだカップを私の前に置いてくれました。
···異母兄弟。
そういえば、空音さんにも腹違いのお姉さんがいて、お姉さんにいじめられて育ってきたという過去があります。なんとなく異母兄弟というと仲の悪いイメージですが、お2人は仲が良さそう。
「はあ?"お兄ちゃん"だあ?」
「だって僕のが誕生日早いんだからそうでしょ?」
「てめえが兄とか笑わせる。」
そう遥斗さんに悪態をつき、冷蔵庫から牛乳を出してきた藍さんが、私の前に置いてあったカップに牛乳を少し注いでくれました。
···何で私が、コーヒーは苦手だけどカフェオレは好きっていうのがわかったのでしょう。
「あの、ありがとうございます、藍さん。」
「別に。」
すぐに牛乳を冷蔵庫にしまいに行ってしまいました。
「それで?君は一体何者なの?ゲームの中とか言ってたけどどういう意味?ただのオタクなの?」
「···え、ええと、」
「あと君の学生手帳見せてもらったけどさ、住所も至極学園なんて名前の学校も存在しないんだけど?」
遥斗さんが机の上に私の学生手帳を出して言いました。それは私の制服のポケットに入っていたものです。
「あ、あの···。私は至極学園にあった柿の木の下敷きになって、気付いたらあなたがいて、」
「ほんとは柿の木に登って、僕らを偵察にきたんじゃないの?」
「···いえ、」
「誰かにお金で雇われて僕らの様子を見にきたんでしょ?」
問い詰められるたびに、少しずつ遥斗さんの声色が低くなっていくのがわかります。
ですが、どうしたって私が至極学園の生徒で、ゲームの中の人間だという事実は変えられません。
「···偵察では、ないです。
私は、ある人にずっとふられ続けていて、ショックで柿の木で泣いていたら、柿の木が倒れてしまって。」
恥ずかしいですが、失恋の事実を言わないと遥斗さんに疑われっぱなしになってしまうと思い、そう伝えました。
「···ふられっぱなしって、誰に?」
「ええと、ゲームをプレイする主人公に、です。」
「······」
遥斗さんの眉間にしわが寄り、私をまるで汚いものでも見るかのような目で見てきます。
でもそこで、以外にも藍さんが話に入ってきて、
「違う、断じてふられてるわけじゃない。」
「「え?」」
遥斗さんと2人で、ソファの前に立ち首からタオルをかけている藍さんの方を見ます。
「山元織羽、至極学園高等学校3年2組在籍、さそり座のO型。
身長159cmで上から88(Fカップ)、60、90。家族構成は母親と上京中の兄が1人。
学業、スポーツ共に優秀、性格はおっとり、天然、母性溢れるお姉さんキャラ。
好きなものは犬とカフェオレ、苦手なものは猫とブラックコーヒー。
校内では美吉空音の友人というよりも側近のようなポジションで、常に空音を支える存在。昔後輩にいじめられていたところを空音に助けてもらった恩があり、主人公が好きな空音を応援するという設定。
でも実際は織羽も主人公のことが好きで、叶わぬ恋をしている切ないキャラとしても描かれている。」
「···は?」
「つまり、織羽は攻略対象じゃない。サブキャラだ。だからふられっぱなしだと本人は錯覚しているかもしれないが、プレイヤーたちにはそれなりに人気がある。」
「···え?」
「だからいちいち落ち込む必要はない。」
急に、
急に凄いしゃべった────。
「ちょ、待って待って?その攻略対象ってのは何?」
「『あの柿の木の下で。』の中で、最終的に告白が可能なキャラは6人。それが攻略対象だ。でも織羽はその6人には含まれない。」
「···つまり、織羽はそのゲームのメインキャラじゃなくって、もっとマイナーなキャラってこと?」
「まあそんなとこだ。」
「ってちが----う!!!!」
いきなり立ち上がり、クッションを床に投げつけた遥斗さん。何か気に入らない節があったようです。
「そうじゃなくて、何でそんなに藍がギャルゲーに詳しいのかってことだよ!!!」
でも仁王立ちの藍さんは、乱れる遥斗さんに動揺することなく、ギッと遥斗さんを睨みつけます。
「好きだからに決まってんだろ。」
「はあっ?ど、どうしたの藍?!ちょっ、そんなんじゃないじゃん!···そんな軽く好きとかっ、ギャルゲー好きとかっ、そういうキャラじゃないじゃん!!」
それから遥斗さんはしきりに、「何かが音を立てて崩れていく」だの「脳内の秩序が乱される」だの、頭を抱えてうなっていました。
「しっかりしろ!」と遥斗さんの胸ぐらをつかみ、意識を保たせようとする藍さんは、心なしかスッキリした顔をしています。
藍さんの、"いちいち落ち込むな"という言葉が胸に響いて、何だか安心してしまった私は、2人のやり取りを見ながら眠りに落ちてしまいました。
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