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3-1.きっとこれが愛なんだ

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 初めてだ。


 こんなに誰かを好きになったのは────




 遥斗とは同じ家に住んでるとはいえ、お互いがお互い詮索されたくないから、部屋には鍵をつけている。


 だから今までバレずに済んでいた。


 飯も宅配か弁当ばっかで基本別々だし、家で顔合わせんのは登校と下校の時くらい。休みの日もチームの集まりがない限りは別々なことが多い。

 異母兄弟なんてそんなもんだ。てか何でお前一緒に住んでんだよ。出てけ。

────────


『そうじゃなくて、何でそんなに藍がギャルゲーに詳しいのかってことだよ!!!』

『好きだからに決まってんだろ。』


 ここだけ聞くと、それは「ギャルゲーが好きだから」と思われがちだが、実情は違う。


 はっきり言ってギャルゲーなんてのは、ほとんどやったことがない。


 たまたま昔、敵チームのやつから強奪した鞄の中に入っていたゲームで、暇だからやってみただけだ。


 俺が好きだと言ったのは、ゲームそのものを言っているんじゃない。


 山元織羽が好きだと言っている。



 何だ、何だよゲームから出てきたって。

 転移か。今はやりの転移ってやつなのか。会合中、いつも織羽のことばっか考えてたから転移してきたのか。


 最高かよ。


 
 織羽のゆらめくスカートの裾、そこから伸びる程よく肉づきのいい太もも。色白ピンクの肌。主張しない目元と口元のほくろが、それとなく色気を出している。


 でも彼女の魅力はなんといっても、ギャップだ。おっとり天然キャラだからドジっ子かと思われがちだが、違う。

 
 体操服であるブルマを履いてランニングする織羽の姿。

 巨乳を揺らす姿に、男なら誰しも目がいきがちで、隣の校庭で体育をする主人公も同じクラスの空音に、「ちょっと!ボーっとして何見てんのよ!」と、突っ込みを入れられる。


 でも実際俺がゲーム画面で見ていたのは織羽の揺れる肉ばかりではない。颯爽と走っていくその美しい姿に、心も奪われた。


 抗争中、俺は何度も彼女に救われてきた。スマホには、『憂いの女神 織羽』の限定スチルが入っていて、抗争前はその画像に手を添え、抗争に勝てるよう祈りを捧げる。


 それからスマホに録音してある『藍くん、本当は私も···、好き、だったんです。』という織羽の囁きボイスを聞いて、バイブス上げて、敵をぶちのめしてたし、


 抗争後は『おつかれさまです。藍くん。』というゲーム画面を見て癒されるのがお決まりのルーティーンだ。


 そんな俺の女神、織羽が俺の前に現れるって、もう運命でしかないだろ。


 やるじゃん神。



 旧部室棟の裏で、初めてリアルな織羽の顔を見た瞬間、もう「好きだ。」としか思わなかった。

 柿の木の下に挟まっていてもお前は十分そそる。


 そもそも柿の木の下に挟まるってなんだ。大きな栗の木の下でじゃないのか。クソっ、可愛いすぎかよ!


 柿の木ってのは、確か至極学園学園長が干し柿が好きで、干し柿を作るために柿の木を植えたって設定だったよな。良かった、うちの高校の裏手にも柿の木があって。

 きっと柿の木が俺たちの赤い糸をつないでくれたに違いない。


 今ソファにもたれかかって目の前で寝ている女神の可愛さったら、ふぐッ。俺、吐血寸前5秒前。


 ···それに俺のTシャツ着てるってやべえだろ。てか何で遥斗のハーパンなんだよ?何でお前が貸した?何するつもりだったんだよ?ブルセラに売るとか遥斗ならやりかねない。お前もうそれ俺に譲れ。



「っておい、何してんだよお前。」

「何って···、このままじゃ風邪ひくだろうからベッドに移動させようかと。」


 平静を取り戻した遥斗が、急に俺の織羽を抱き上げようとして、ムカついた俺はタオルで遥斗の後頭部をスパアンッ殴ってやり、阻止した。触るな殺すぞ。お前そんなキャラじゃねえだろ。


「いった。何その無意味に人殴るやつ。」

「殴ってねえ。」

「そんなにこの子が好きなら藍が連れてけば?」

「好きじゃない。」



 好きだ。


 軽く舌打ちをした遥斗は、またソファに座り込んでノートパッドを見だした。





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