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case4. 略奪◇9
しおりを挟む「.....いやだ、やだよエルミーユ。どうか僕のために目を覚まして.....。」
「エルミーユ.....悪かった、どうしてもあんたの抗おうとする姿に自分の憎悪が抑えられない。どうか、どうか目を覚まして.....!」
仕事以外の時間は必ず2人はエルミーユの傍にいた。
彼女の胸に耳を当て数分置きに鼓動を確認するアーチ。そして彼女の黒い髪を何度も撫で自分の過ちを悔やむアーサ。
これまで強く歯向かうばかりだったエルミーユが初めて彼らに見せた脆弱な姿。
エルミーユが目を覚ましたのはそれからさらに3日後のことだった。
──────────........
「エルミーユ!!!」
自分の名前を呼ぶ男の声。
その声の主がインハルトではないと分かるとエルミーユの瞳は再び恐怖の色に染まっていく。
しかし彼は何故か今自分の手を握り、優しい手つきで自分の頭を撫でている。
自分の知る彼ではない。
「........だ、だれ?」
「......俺は、アーサだよ、エルミーユ。」
「...........」
何故彼が病人を扱うかのように自分に触れているのかは分からない。
しかしやはり現実からは逃れられないのだと思うとエルミーユはアーサから顔を反らし再び天井を見つめる。
今まで反抗していたがきっと彼らの前で自分の感情を露にするのは無意味だ。それなら何の感情も持たずにいるのが一番楽に違いない。
エルミーユがそう胸に誓いかけた時だった。
アーサがそっと彼女の唇にキスをしたのだ。
「─────っ」
エルミーユの瞳が揺れる。
この一月、一度も2人が彼女の唇にキスをしたことなどなかった。
「.....悪かった、エルミーユ。」
「っ」
「ほんとに死なれたら俺はどうにかなりそうだ。」
そう言ってエルミーユの額に一つ唇を落とし、「食事の用意をする」とアーサが部屋から出て行った。
自分の寝ている間に一体何が起こったのか.....。
今のもすべて何かの罠かもしれない。
暫くしてアーサが湯気の立つスープを運んできた。それを見て身を強張らせるエルミーユ。
今まで自分に出されていたものはパンくずばかりだった。温かいものといえば自分の身体に垂らされた蝋燭ぐらいだろうか。
無表情を作ろうにも何をされるのか分からず、やはり膝に置く手が震える。
アーサはアーチよりも感情的になりやすいため恐怖心ばかりが募る。
「.....ほら、スープだよ、飲める?」
「.........」
アーサにスープが浮かぶスプーンを差し出され、エルミーユは戸惑いを隠せない。
媚薬を入れたスープかもしれないし、皿ごと頭からかけられるのかもしれない。
どう動くべきか分からず、アーサの手元ばかりを見つめるエルミーユ。痺れを切らしアーサがふぅとスープを冷ますと、それを彼女の口元へと運んだ。
しかしエルミーユは怖さのあまり口を開けることが出来ない。見えない腹の底ほど怖いものはない。
「......エルミーユ、大丈夫。媚薬も毒も入ってないから.....。」
そう言って自分でスープを一口飲んでみせたアーサ。彼の喉元が動いたのを確認すると少しだけエルミーユの手の震えが止まった。
それから彼にされるがままスープを飲み終え、温かいものが身体の中へと流れ込んでいくと彼女は虚ろな目を擦り始める。
「エルミーユ.....本当に、.......ごめん...。」
アーサのその言葉を最後にエルミーユは再び眠りについた。
ああ、今のは全て夢かもしれないと思いながら。
大丈夫、私にはインハルトがいる。
必ずインハルトが来てくれる.....
何があっても双子の手には堕ちない.....
私は強く気高いハンター。
あなたに愛された自分を決して見失わない─────.....
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