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5-5.
しおりを挟むでもその日を境に、ロザンナたちは私に嫌味を言うことがなくなった。
私の魔力が、"怒り"の感情で発動するものだとわかったからだ。私を苛つかせては、私の魔力が増すばかり。影で彼女たちがそう話していたのを聞いたとルチアが教えてくれた。
それから何日か経ち、私の歓迎会をしてくれるとのことで、夕食に豪華な料理が振舞われた。
因みに今日は、昔第3騎士団にいたという、近衛騎士の男も来ている。
レオがその男をつれ、私の席に来た。王族の騎士である近衛騎士は上半身に甲冑を纏っている。私は失礼のないよう、立ち上がり、丁寧に頭を下げた。
「シシル、紹介する。彼が前に話していた近衛騎士のモーゼス・ディーンだ。」
「…この世界で顔を合わせるのは初めて、だな。」
「あ、初めまして。え?えっと、この世界ではって…?」
モーゼスは黄土色の髪をオールバックにした男で、その表情筋は全く活用されていない。レオよりもずっと無表情だ。
「ま、覚えてないだろうな。マキは何度も脱走してたから。」
「…もしかして、ステラの人?」
「…ああ。」
モーゼスはステラの幹部で、ポルト先生と同じくらい強かったのだとか。この世界では公爵家の子息でありながらも、レオを慕うあまり騎士になったのだそう。
レオは、モーゼスが「魔力の高さを見初められて近衛騎士に引き抜かれた」と言っていたけれど、モーゼスは"公爵家"という爵位で引き抜かれただけだと話してくれた。
「でもレオを慕ってせっかく第3騎士団に配属されたのに、近衛騎士になってよかったの?」
「…最初は、ためらった。でも、近衛騎士になれば王族の情報が手に入る。」
「それはもしかして、派閥争いの情報ってこと?」
「…ああ。それだけではないが。」
そういえばステラに捕まっていた時、情報をいち早く持ってくる男がいるっていってたっけ。
『何でここに隠れてるってわかったのよ!!』
『うちにはいち早く情報を掴んでくるのがいるからな。』
その情報のせいで、私がステラから逃げた先の、パン屋の裏口のゴミ置き場にいるのがすぐに見つかった。けっこう距離を取ったと思ったのに。
せっかくなので少しゾイのことを探ってみようと思う。
「そういえば、ゾイが王位を狙っているというのは本当なの?」
「ああ。元々は、第1王子が優勢だったのが、いつの間にか第2王子の功績が称えられるようになり、第2王子が優勢となった。その功績を手助けしたのがゾイだと云われている。」
「それがなぜゾイが王位を狙っていることになるの?」
「能力の高い貴族や騎士を選抜し、影で編成しているからだ。」
「ええっ?!ゾイが??!」
レオとモーゼスの見解はこうだ。
策略家である第1王子と権力争いをしても、負けるのが目に見えている。だから無能な第2王子の懐に入って継承権を優勢にし、第2王子とやり合えば簡単に奪えるという作戦じゃないかということだった。
「ヤマトは常にてっぺんを目指す男だ。この国でも王位を狙うのが自然だろう。」
レオが腕を組み、当たり前だというように言った。
はっきり言って転生してからはとてもそうには見えなかった。お腹はだるんだるんだったし、成績も落ちる一方だったし、マナーも言葉遣いも前世のまま直す気はなかったしで、とても彼が優勢になれるとは思えない。
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