38 / 56
6-3.
しおりを挟むそれから寮内でも校内でも心陽君に会うことなく、土曜日になった。
一言ラインで、会おうって私から送ればいいだけのことなのに、どうしても躊躇してしまう。前世以来の恋に、いや、前世の糞みたいな思い出に臆病になってしまっているのだろう。
それならば、授業が休みの今日、実家から農産物が送られてきたから、おすそ分けとか適当なことを言って突然部屋に押しかけてみよう。とようやく決心した私。
農家でも何でもない実家から突如農産物が送られてくること自体ありえないため、私は近くのスーパーで大量の野菜を買い込んだ。
····なんか、私が体調悪いと嘘をついた時、秋人が大量にレトルト食品をくれたのが今になって理解できた気がする。
心陽君の部屋は1階の一番奥。
私は今まで心陽君の部屋に入ったことがない。
心陽君も部屋に誘ってくることはなかったし、私も特別入りたいとは思わなかった。思えばそういうところが、チャラいと思っていた部分をフォローしてくれていた気がする。
11時半、買い物ついでに寄ってみたと理由をつけて、あわよくば私がお昼ご飯なんか作ったりして、一緒に食べたりして····。
ドギマギしながら、一呼吸置いて心陽君の部屋のチャイムを鳴らした。
「ふぅー····」
さらに深呼吸を繰り返す。
····でもチャイムを鳴らして、1分経過。いないのだろうか?
もう一度チャイムを····と思ったところで、部屋の中からドタっと何かが動く音が聞こえる。
お風呂にでも入ってるのかな。。水音でも聞こえないかと部屋の扉に耳を当ててみた。
すると水音ではなく、何やら人の声のようなものが聞こえてくる。
え····??誰か来てる??
しばらく不審者のように扉の前でその声を拾うことにした。でもまたそこから1分ほど経って、私は冷や汗を流した。
幸せを感じる瞬間····。
それは、好きな人と美味しいものを食べている時、好きな人と手を繋いだ瞬間、好きな人と想いが通じ合えた瞬間。
そして、接吻···いやなぜそんな古びた表現をするのか自分、キスする瞬間。
私は図々しくも、そんな心陽君との幸せな時間を妄想してしまっていた。
ああこの気持ち、凄く懐かしい····。全てが不幸のドン底につき落とされた、あの気持ち。
それでいて、今まで私がずっとずっと望んできた集大成が、この瞬間によって成し遂げられてしまいそうで、嬉しいような悲しいような、そんな気持ち。
────拍手喝采の音色が頭に響いてきそうだ。
ふふふ····あはは····!!
心の中で笑いが止まらなくなった。ついに情緒不安定になったかもしれない。
彼氏の部屋に突撃して、チャイム鳴らしてもなかなか出てこないから、たまたま鍵の開いていたドアを開けた、前世のあの瞬間。
部屋に入れば、知らない女が彼と裸でベッドに入っていて、私を見た女が、『あんた誰よ?!出てけクソアマ!!』と私から鞄を奪い、それをポーンッとベランダから外に投げた、あの瞬間。
私はまたあれを、体験するの────?
あの時、彼のアパートの下には川が流れていて、鞄が川に流されていった悲劇を悔しくも思い出す。
心陽君の部屋から聞こえてきた人の声····、違う、人の声なんてまともなもんじゃない。
あれは、獣の声····、
男の喘ぎ声だ····!!
誰だ誰だ誰だ誰だ····?!!
喘ぎ声は、多分心陽君の声じゃない!!!あの可愛い心陽からあんなダミ声の喘ぎ声はでないはずだ!!
『あ”ん”あ”ん”あ”ん”あ”ん”あ”ん”あ”ん”あ”ん”あ”ん”あ”ん”あ”ん”♡』
····はあー····
嘘でしょ、まさかここでレイティングの”性描写有”が入ってくるわけ??
こんな入り方誰も望んでないよ!!!
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?
すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。
一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。
「俺とデートしない?」
「僕と一緒にいようよ。」
「俺だけがお前を守れる。」
(なんでそんなことを私にばっかり言うの!?)
そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。
「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」
「・・・・へ!?」
『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。
※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。
ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。
【完結】転生したので悪役令嬢かと思ったらヒロインの妹でした
果実果音
恋愛
まあ、ラノベとかでよくある話、転生ですね。
そういう類のものは結構読んでたから嬉しいなーと思ったけど、
あれあれ??私ってもしかしても物語にあまり関係の無いというか、全くないモブでは??だって、一度もこんな子出てこなかったもの。
じゃあ、気楽にいきますか。
*『小説家になろう』様でも公開を始めましたが、修正してから公開しているため、こちらよりも遅いです。また、こちらでも、『小説家になろう』様の方で完結しましたら修正していこうと考えています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる