転生したらBL漫画の男装女子でしたが、皆さん私に気にせずヨロシクやっちゃって下さい

6－4.

　はたしてこれはお約束というやつなのか、単にデジャヴというやつなのか。見事部屋の鍵は開いていて、私はそっとドアを開いた。


　でもそのドアを開いた瞬間、ダミ声の音声が一気に廊下に雪崩れ込む。


『ぅあおんぅあおんぅあおあ"あ"あ"あ"あ"ああああああ♡』


　語尾に♡がつくのは男性向け同人誌だけかと思っていた。喘ぎ声で文字数稼ぐとか、これ書いてる人の人柄を疑う。

　それに午前中から喘ぎ声が廊下に漏れるのはまずい。PTAから苦情がくる。


　私は思い切って部屋の中に入り、パタリとドアを閉めた。

　でもちょっと信じられないぐらいの喘ぎの大音量で、チャイムを鳴らしても気付かれなかったのが頷ける。


　耳を塞ぎながら、バクバクと心臓を鳴らし、自分の息を落ち着かせる。


　···駄目だ、音が、喘ぎだけじゃない。。


　『あお"んあお”んあお”んあ”お”ん』という喘ぎのリズムに、『パン、パン、パン、パン』と肌と肌が思い切り弾くような音も遠慮なく響いてきた。


　そのリズムが16ビートだとすると、私の心臓のリズムは18ビート。今にも連動しそうで気持ち悪い。


　いや、でも待てよ···？？


　このダミ声が心陽君のものではないとすると、もしかしたら今ここでいたしているのは心陽君以外の誰かと誰かかもしれない。


　心陽君が、そんなラブホのように部屋を貸す寛大な心の持ち主だとも思えないけど、きっと何か事情があるのかもしれない。


　うん、そうだ、きっとそうだ。


　青姦をポリスに止められた2人が、心陽君にお金で頼み込んで部屋を貸してもらったのかもしれないし、心陽君がいない隙に友達2人がやってきて、勝手に2人が盛り上がってしまったのかもしれない。


　そっか、私は素直にBLを楽しむことができるかもしれないんだ！

　ずっと望んできた、目の前でいたしているBLを、ついにこの目に焼き付けることができるのかもしれない！


　
　ただ問題は顔面だ。

　···どうか心陽君の部屋で勝手にいたしている2人が、70％以上のイケメンでありますように。

　私は塞いでいた耳から手を離し、天井を仰いで拝んだ。

　信じられないくらいの喘ぎ声と打ち付ける音を頭にガンガン響かせながら。帰ったらロキソニン呑もう。


　というかこれだけの喘ぎ声を出させるって突いてる方は相当な手練れだ。雌豚でも人妻でもここまで感じることのできる人間は早々いないだろう。



　私は勇気を出し、ベッドのある部屋をそっと覗いた────。


　ああ·····

覗いた瞬間、頭の中に、"しばらくお待ちください"という爽やかな牧場の風景が浮かんでくる。


　···ずっと見たかったBLを見れたはずなのに、色々な感情がせめぎ合って、私は腕に蕁麻疹《じんましん》が出始めた。



　何からお伝えすればいいのか···、そうだ、まずはあれだ。いたしている主が心陽君かどうかということだ。


　────それは間違いなく心陽君だった。


　斎藤心陽、18歳、好きなものはお金、嫌いなものは皆藤琉生、神影秋人、蓮見吉光。

　これは漫画の中の心陽情報ではなく、私がこの世界で見てきた心陽情報だ。


　とにかく、心陽君は"攻め(タチ)"だった。喘いでいる方ではない。"その人"の後ろを突く、見事な手練れの方だった！

　いやお前は"受け"だろ。どうせ心陽なら"受け"でお願いしたかった！！


　この時点で、いたしているのが心陽君だったという事実に加え、彼が自分の理想の立ち位置じゃなかったという悲しみが加わることとなる。


　では突かれている、"受け(ネコ)"は誰かという問題になるのだが···。


　イケメンのBLを見て、私は嬉しいはずなのに、突かれているのが自分の身内だという事実は、さてどう受け止めればいいのだろうか─────。


　受けである彼の名前は、高梨稔────。

　正真正銘、私のいとこだ。