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序章
しおりを挟む昼はしがないOL、夜はNo.1キャバ嬢。
その実態はアラサー処女だったりする。
つまり、少子化爆進中の世間の波に身を任せているわけである。
知らぬ間に境界線を通過し、こちら側にきてしまった27歳。
手後れになる前に、子づくりの予行演習をすべきである。
「うーっす」
「オツカレサマー。」
ゴミ捨て場のある裏の路地。
情緒あふれるネオン街の裏側は、今やサイバーパンクと持てはやされている。『風俗街の本性』などとは誰も呼ばない。
白、時々、紫のネオンで彩られるうちの店、『QUON』はキャバクラだ。
その隣には、黒と赤の外壁が交互に並ぶホストクラブ、『Mo-mennto』があって。
キャバとホストじゃ同じ土俵とは呼べないのだけれど、同じ系列店ということで、いつも売上金額を張り合っていた。
「駅でキラ君とピンクロリータが歩いてるの見たよ。あれ彼女?」
「同伴出勤な。おや?妬いた感じ?」
「あ、ほっぺにピンクのキラキラついてる。」
「とって。」
「クイックルワイパーで?」
「できればミウさんの可愛い“お手て”で。」
「両手可燃ゴミで塞がってるから無理。」
だから『QUON』のNo.1ホステスである、私ことミウ(源氏名)と、『Mo-mennto』のNo.1ホストであるキラ(源氏名)も、ライバル的なあれ。
ライバルってだけで食いつかれがちな、あれ。
「あのロリータ、ここんとこ毎日同伴で糞だるい。」
店では美麗王子で突き通しているキラ君が、ピンクのキラキラを親指で拭って、それをなぜか一舐めする。
だるい。のに舐める意図は分からず。きもい。から私の顔がゆがんでしまう。
壁にもたれて、ベージュスーツのズボンから電子タバコを取り出し。腕を組み、唇の隙間からありったけの有害物質をまき散らす様は愚の骨頂。
アウトローなNo.1ホストの引き立て役にはちょうど良い。
「春は稼ぎ時じゃん。」
「宣誓。本日3ケタいかせていただきやす。」
「その言葉、そっくりそのまま返させていただくわ。」
高身長なキラ君が、共有のダストボックスまでの道をふさいでいる。邪魔すぎて、“コノ野郎”を張り付けた笑顔で見上げてやった。
美麗王子?私を見下す様は、あっぱれ魔界の帝王。
七対三の黒すぎるゆる髪にヘーゼルイエローの瞳は、恐らくタワーオブテラーの屋上に立ちマントを翻すバーチャルキャラに近しい。
前髪から覗く目元のクマは、世の中を達観視しすぎてノイローゼになったに違いない。
「ミウさん、クソ笑顔なのに今日も目が笑ってねえ。」
「職業病ってやつね。あ、キラ君ついでにうちの可燃ゴミ捨てといて?」
「悪いけど俺No.1だからゴミの捨て方知らねえんだわ。」
「ゴミ発言も甚だしいなおい。」
「ゴミ担当のキャバ嬢に言われたない。」
「悪いけどゴミ出しに担当も糞もないんですー。捨てれる人が捨てるし、開いたグラスにはすぐ注ぐ!」
「指名されなくても挨拶は行く!ドンピン入ったらシャンパンタワーからのお姫様だっこ!」
「あんたと喋ってる時間は1円にもならない!」
「そのとーり!はい、今日も」
「頑張って馬車馬のごとく稼ぎませう!」
ゴミ出しを終えた手はやたら清々しい。自分の手の平を見つめれば、生命線は本日も無事、程よい長さを保っている。
よし。まだ息はある。まだアフター7の余力はある。気合いを入れるようにポキポキと指を鳴らせば、どこかから聞こえる笑い声よりも明るい夜に響いた。
キラ君に「殺る気満々の殺し屋か。」と怪訝な目つきでツッコまれる。
さあ今日も今日とて、愉しいアフター7が始まる。
「ミウちゃーん!3番テーブル、商社のお得意さんが来てるから張り切っていってみよう!!」
始まる、のだが。
これは、ストーリーの始まりではない。
「こんばんわあ。ミウです!今日も会いに来てくれて、ミウ嬉しい。」
「待ってたよミウミウ~」
今日を持って、私は卒業するのだから。
恐らくこれは、序章《始まり》の終わりなのだ。
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