異世界に迷い込んだ給食のお兄さんは魔王様にごはんを作りたい。食べるならごはんをどうぞ。

猫屋町

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8.魔王様と居酒屋ごっこ

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ーー異世界に来てから1ヶ月。

元の世界へ戻る方法をフォルティスを通じて探してもらっているが、手掛かりは見つかっていない。
もう日本へ帰ることは出来ないんだろうか。
時々、家族や友人を思って感傷的な気持ちになることもある。心配、してるよな。
ずっと実家住まいで母さんに料理を教えてもらったのがきっかけでこの道に入った。
俺も母さんみたいに子どもにいっぱいご飯やお菓子を作ってあげたい。母さんに教わった料理を伝えたいって思ってたのに。
それは叶わない夢かもしれない。
この城に人間は俺だけ。別の町へ行けば他にもいるとフォルティスが教えてくれたけど。右も左も分からないところへ仲良く出来るかどうかもわからない人間に会いに行くのは、リスクが大き過ぎる。
フォルティスが許してくれる限り、居させてもらおう。
仕事も見つかったことだし。


俺はいま、この魔王城の食堂で働いている。
三交代制で主に昼番。勤務時間は、9時から18時まで。
ただし、俺の料理をすっかり気に入った魔王様のご飯は時間外でも注文を受けている。
勤務時間外の朝食は、フォルティスの部屋に急遽作られた簡易キッチンで用意し、一緒に食べてからそれぞれ出勤している。
昼は大体食堂へフォルティスが顔を出すので、他のみんなに混じって提供し、夜は食堂で作ったものを持って部屋へ戻る。

「陛下~。夕食とおつまみ、持ってきましたよ」

フォルティスの私室をノックすると、すぐに返事があった。

「入ってくれ」

「失礼します。今夜はご希望通り、唐揚げとポテトサラダ、一口お好み焼きに茄子ときゅうりの浅漬けの居酒屋メニューですよ」

「おお、これが!」

「〆は鮭の出汁茶漬けを用意してるんで、その分は空けといて下さい」

「それも楽しみだ」

元の世界にあるものがこの国でも割と手に入った。というのも、人間の国と和平条約をフォルティスが結んだため、物流が盛んになり、様々な国のものが輸入されるようになったらしい。
もちろん、手に入らないものもあるが、それはそれ。代用品で賄えばいい。

例えば、今夜の鮭の出汁茶漬け。フォルティスに鮭とは言ったが、本当は鮭ではない。よく似たサルモーという魔魚を使っている。

サルモーは鮭と違って身体は小さく、イワシくらいのサイズまでしか大きくならないらしい。魔魚だけあって捕獲は大変らしいが、隣国ではよく獲れ、手に入り易い上に単価も安いといういいとこだらけの魚だ。
朝ごはんにもよく焼いて出している。


「今夜の酒はエールでいいか?」

料理をテーブルに並べている間に、フォルティスが酒の用意をしてくれた。

「んー、メニュー的にスッキリしたハイボールの方がいいです。今度はエールに合うものを作りますね」

「了解」

ラガービールなら最適なんだけど。

もう一つ手に入らないものがあった。ラガービールだ。
こっちではエールが主流らしく、ラガーは作られてないらしい。俺も製造法を知らないので、フォルティスにおねだりも出来ない。

全て並べ終わり、フォルティスからハイボールの入ったグラスを受け取る。このウイスキーの飲み方は俺が持ち込んだ元の世界の知識だ。
初めて作った時からフォルティスもお気に入りの飲み方でよく作っては2人で飲んでいる。濃さを簡単に調節出来るのがいいらしい。
ただ、フォルティスが作ってくれると俺の分が妙に薄い気がする。
酒をケチりたいわけでも無さそうなのに何でだ?

今夜も俺の分のグラスは、フォルティスが手に持つものより薄い色をしている。

「陛下、前から気になっていたんけど、俺の分のハイボール、薄くない?」

「ーーそんなことはない。光の加減だ。それより、早く食べよう。唐揚げが冷めてしまう」

「そっか。光の加減か。あ、今日の唐揚げはいつもとちょっと違うんですよ?」

そんなもんかと納得して、唐揚げを勧めた。

「どれどれ……ん! いつもより衣がサクサクしてるな。これは?」

「ふふ。企業秘密です」

本当は片栗粉を行商のオークおじさんから仕入れたから使ってみただけなんだけど。

「んん、熱々で、サクサクで、じゅわっとしてて、最高だな……ハイボールが進む」

「唐揚げって冷めても美味しいですけどね」

俺も唐揚げを齧りつつ、ハイボールを傾けた。唐揚げの油をハイボールで流し込むと口の中から余分な油が無くなってリセットされる。そして、また唐揚げを食べ……永久運動になりそうだ。

「冷めた唐揚げなんて、旨さが半減するだろう?」

「いえいえ。これが意外と美味しいんですよ。次のお弁当に唐揚げ入れますから試してみて下さい。絶対気に入りますよ」

そういうと、フォルティスは大袈裟なぐらい驚いて目を見開いたが、眼球以上に大袈裟なことを言い出して笑った。

「弁当に唐揚げ……?! そんな贅沢なことが許されるのか」

「あなたは魔王様ですから」

さらっと答えると、魔王様は神妙な顔で頷いた。

「魔王とは、いい職業だな……。ああ、このポテトサラダも美味い。滑らかなマッシュポテトの中でりんごがシャキシャキしている。とてもいいアクセントだ」

「お気に召して何よりです。お弁当にそのサラダも入れますね」

「本当か?! 私は本当に果報者だな。こんな良い嫁をもらうとは」

「感動なさってるみたいですが、嫁にもらわれた覚えはありせんからね?」

本当にこの魔王様は隙あらば冗談を言う。

「だが、毎日一緒に飯を食い、同じベッドで寝ているなら結婚しているのとそう変わらないだろ?」

「大きく違います。そんな冗談言ってないで、お好み焼きも食べてください。冷めちゃいますよ」

「はぁ、これもうまい。甘辛いソースにふわふわの生地がよく合うな。キャベツもほのかに甘くていい。箸休めの浅漬けもおいしい」

「本当に。今日のはうまく漬かりました」

我ながら美味い。
ぽりぽりと胡瓜を齧りながら自画自賛した。自画自賛しなくても、フォルティスはとても褒めてくれるけど。

「そろそろ、〆いきますか?」

「サルモーの茶漬けだったな」

「そうです。お茶も入れますね」

「茶は私が入れよう。ほうじ茶でいいか?」

「いいですね」

俺が料理を用意する代わりに、フォルティスは酒だけじゃなく、飲み物全てを担当してくれる。
魔王様は私室でもとても働きものだ。

出汁茶漬けを食べ、フォルティスの淹れてくれたほうじ茶を飲むとほっと一息つく。

「食べ終わった食器類に“浄化”をかけておいたから、返却を頼む」

「ありがとうございます」

魔法で一瞬とはいえ、頼まなくても洗い物してくれるなんて。
魔王様って結構スパダリ要素高い?

そんなことを考えながら、魔王城の夜は更けていった。


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