異世界に迷い込んだ給食のお兄さんは魔王様にごはんを作りたい。食べるならごはんをどうぞ。

猫屋町

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17.魔王様の悩み事(後編)

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「伊織ーー私と子どもを作ってくれ」

は?! はぁあ?!

「ん?! は? え、俺と??」

フォルティスは俺の性別知ってるよな。
初っ端から風呂に入ったし、毎晩裸で寝てるから俺に付いてるの知ってるよな。な?!
ていうか、いま、この押し倒した体勢でそれを言うか。

「次世代を育てるなら伊織とがいい。伊織との子が欲しい」

混乱する俺に気付かず、フォルティスは切実な顔して懇願してくるが。

「待て待て待て、ちょっと待て。まず、俺の上からどいてくれ」

「分かった」

フォルティスをベッドに正座させ、俺も正面に陣取る。

「まずな、俺たちは男同士だ」

当然のことを指摘したが、フォルティスは揺るがない。

「大丈夫だ、問題ない」 

「大有りだから。むしろ、問題しかない。そりゃあ、フォルティスのために何でも作ってやりたいけど、子どもは無理だろ」

「厨房で料理が作れるなら、子作りも問題ない」

真顔でそんなことを言わないでくれ。

「別。子どもと、料理は、別!! 作り方が違うだろ?! なに、魔王ってハンバーグみたいにお肉捏ねて焼けば出来るの? そんなわけないよね??」

「そんなわけないな」

「なら、フォルティスって実は子ども産めるとか? 俺がフォルティスに突っ込むの??」

「いや、できれば逆がいいが、そうではない。交わらなくても、魔力を混ぜれば魔王は生まれるんだ。魔王の実から」

魔王の実?
聞き捨てならないワードが出て来た。
魔王って木の実から生まれるの? 

「気になることはたくさんあるけど、ーー魔王の実って?」

「魔王の成る木に出来る実のことだ。学術的な名前は別にあるが、長過ぎるから便宜的にそう呼んでいる。それに2人分の魔力を注ぐと次代魔王が生まれるんだ」

正式名称じゃないんだとか、俺に魔力あるのかとか、聞きたいことは複数あるけど、一番の疑問をぶつける。

「セックスしなくても出来るの?」

「…………そうだ」

すごく間をあけて、フォルティスは頷く。両親が非接触で子が出来るって。

「フォルティスは俺とその魔王の実に魔力を注いで次代魔王様を作って、育てたいと。ーーどうして、俺なのか聞いてもいい? 今の話だと俺じゃなくても魔力があればいいんだよな?」

そこがわからない。魔力持ちとなら、セックスどころかキスさえすることなく、子どもが生まれる。
それなら、何もわざわざ異世界人の俺じゃなくても、と。
セックスしないと生まれない、とかならまだ納得出来る。自惚れでもなんでもなく、そういう関係で一番近いのは、間違いなく俺だろう。

さあ、話せと促すと露骨にフォルティスは目を逸らした。

「フォルティス?」

「私は、伊織が来てから毎日が楽しい。一緒に寝て、酒を酌み交わして、食事をとって。特別な何かがあるわけでもない、穏やかな日常が好きなんだ」

「それは、ありがとう。俺も好きだよ。フォルティスと生活するの」

話は逸れたが、嬉しいことを言ってくれるのでつい返事をしてしまう。俺の言葉にフォルティスは嬉しそうに微笑んだ後、視線を落とした。

「100年、頑張ってきた。父から王位を譲られてから100年だ。部下たちも助けてくれたが、寄り添ってくれるものはなかった。伴侶を持ちたいと思い、探したこともあったが、叶わなかった」

「合う子がいなかったんだ?」

探して見つかるものでもない。

「それぞれに素敵な人ではあったが、な」

「タイミングとか相性ってあるもんな」

「そうだな。結局、隣に立つ者を見つけられず、100年が経っていた。ーー魔王は100年統治した後、100年かけて子を育て、100年かけて引き継ぎを行う」

「気の長い話だな」

「そう、とても長い話だ。私はこの100年、一人だった。この数ヶ月、伊織がそばにいてくれて分かった。私はずっと寂しかったんだ」

そんなことをいう男が悲しくて愛しい。抱きしめてやりたいが、話が進まないので手を握って我慢する。

「次の100年とその次の100年は伊織といたい。もう一人で頑張るのが辛いんだ」

「それは……。一緒にいてやりたいけど、無理なのは分かってるだろ。人間の寿命はせいぜい100年。あと、数十年で俺は死ぬんだ」

人間と魔王には絶対的な隔たりがある。
フォルティスを受け入れたのは、失敗だったかもしれない。
手を離し、同じ時間生きるだけの寿命を持った魔族に託すべきだ。俺が死んだ後も、フォルティスが寂しくないように。
フォルティスはきっと嫌がると思うけど、俺が居てやれるのは魔王が持つ時間のほんの僅かな間だけ。
このまま依存させても良いことはないだろう。

「フォルティス」

「もしーーもし、魔王の親になれば寿命が延びるとしたら?」

そういうフォルティスの瞳はなぜか仄暗い。

「どういうこと……?」

「生まれる子を育てるために、当代の魔王と魔力合わせを行う者は長く生きてもらう必要がある。だからその相手が短命種だった場合の措置として、寿命が延びるような秘術を施すんだ」

「人ではなくなるってことか?」

「いや、人のまま、寿命が伸びる。時の刻み方が遅くなるんだ。ーー過去には、それが原因で気が狂ってしまう方もいた。長い年月に身体ではなく、精神が耐えられなくなるんだ。身体は変えられても、心は短命種であった時のままだから」

「もしかして、その人も人間だったの?」

色んな種族がいると知っているけど、フォルティスの表情から察せられた。

「……そうだ。私の曾祖母にあたる方だ。とても悲しい最期だったと聞いた」

「そうだったんだ」

必ずしも、心を壊すわけじゃない。のんびり生きて、寿命を迎える人もきっといるだろう。恐らく俺もそういうタイプだ。
だから、フォルティスが気に病むほどのことではない。だけど。

「伊織には酷いことを言っている自覚はある。狂う可能性を負えと迫っていると分かっているが、それでも、私と一緒に生きて欲しい」

「プロポーズみたいな台詞だな」

「そのつもりだ。だめか?」

茶化していうと、フォルティスは真剣な瞳で頷いた。真剣じゃないわけがない。情緒不安定になるほど悩んでたんだ、この魔王様は。
いいよと答えてやりたい気持ちはある。いや、かなりその気持ちは大きい。
でも、これはそんな簡単に出せる答えじゃない。

「考える時間をもらってもいいか」

「もちろん。伊織の答えが出るまで待つつもりだ」

即答してくれた。
フォルティスの考えばかり聞いて、俺の気持ちや事情を話さないのはフェアじゃないな。

「俺さ、まだこの世界で生きていく覚悟が出来てないんだ。ーー日本を諦めるには、時間が欲しい」

俺はまだ日本に帰ることを諦めきれていない。心の整理がついてないんだ。
少しでも気持ちが伝わって欲しくて、フォルティスの手をとって語りかける。

「フォルティスのことは大事だよ。でも、それとは別問題で日本にいる家族のことも大切に思ってるんだ」

「私も伊織が大事だ。誰よりも守りたいし、一緒にいたい。だが、伊織に家族を捨てて欲しいわけじゃない。ーー伊織の出した答えを私は応援する」

「ありがとう、フォルティス」


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