竜王さまは不眠症〜異世界で出張添い寝屋〜

猫屋町

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本編

四夜−4 お風呂で寝ちゃダメ

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翌朝。

「?!」

隣から上がった悲鳴に目が覚めた。いつもより室内が暗いからまだ早朝だろう。
何をそんなに動揺しているのか。
グランは布団を捲ったり、頭を抱えたりと忙しない。いつもはじっと項垂れてるだけなのに。

「どしたの?」

「は、だ……か」

頬を染め、恥じらうようにそれだけグランは呟く。
なるほど。夜着を着てないことに驚いたわけか。
でも、お互いの裸なんてもう何度も見てるし、お風呂も一緒入ってるのに。
今更どうした?

「うん、裸だね」

「……すまない、責任はとる」

悲痛な声でグランは謝罪してくれたけど。

「うん? せきにん?」

「身体は大丈夫か? 気分はどうだ? 痛いところはないか?」

寝る前に心配した通り、変な体勢で抱き込まれたせいで腰を痛めてしまった。

「腰痛いかなぁ。昨日、グランがあんな抱き方するから」

ちょっと恨みがましい目を向けたくなるくらいには痛い。
腰をさする俺にグランはますます困った顔になった。

「すまない、全く記憶にない……」

「あんまり気にしないで」

次から気を付けてくれたらいいからと伝えるも、グランは真剣な顔で俺の腕をとった。

「いや、そんな訳にはいかない。この責任はきちんと取らせて欲しい。ーーもちろん、次は気をつけるし優しくする」

後半はなぜか蕩けそうな笑みを浮かべていうグランに首を傾げる。

優しくしてくれるのはありがたいけど、なんでこんなに気にしてるの。

グランの意図が分からず、薄明かりの中でも輝く金色の瞳を見返すと。

「トモル、結婚してくれ」

……聞き間違えかな。今、プロポーズされた気がする。

「うん??」

「ありがとう。不甲斐無い私だが、必ずお前をーー」

「待って待って待って。何の話? 腰は痛いけど、湿布くれたらそれでいいよ?」

責任とって結婚してもらうほどの怪我じゃない。湿布貼って1日休めば、明日には全快する程度のもの。
大袈裟すぎる誠意を見せられたのは、俺が恨みがましい目で見ちゃったから?

「いや、それだけではすまないだろう。どうやら、子は出来ていないようだが」

そういって俺の腹をグランは少し残念そうに撫でた。

「出来るわけないじゃん。裸で寝たくらいで」

そもそも俺、男だし。

もうどこから突っ込んでいいんだろう。

「え、まさか、えっちしちゃったと思ってる?」

「えっち」

「あーー、ええっと、性交渉。してない。大丈夫、キスすらしてないから」

きっぱりと否定したのに、グランは疑わしそうな目で裸の俺を見つめている。

「…………では、なぜお互い裸なんだ?」

「それは、グランがお風呂で寝落ちしたから」

「……腰が痛いというのは? 私の抱き方が悪かったと言っただろう?」  

「文字通りだよ。グランに変な抱きつき方されて寝たからめっちゃ寝違えた」

「……して、ないのか」

「してないねぇ」

「本当に?」

「本当だよ」

そういうと、やっと納得したのかがっくりと肩を落とした。

「そうか……」

「だから、気にしないで大丈夫だよ」

項垂れる頭を撫でていると、ガバッとベッドへ押し倒された。色っぽい視線が俺の身体を這う。

「では、今から既成事実を作るというのはどうだろうか」

腰へ伸びて来た手をペシっと軽く叩く。

「却下。ーー腰痛いって言ったよね?」

ジト目で見上げると、気まずそうに上から退かれ、腰を庇うように抱き起こされた。

「すまない……」

「いいよ。起きたら髪洗うって約束したの覚えてる?」

髪を撫でながら聞くと、ちょっと考えたらしいが思い至らないようだ。

「覚えていないが、約束したんだろうな……」

「じゃあ、お風呂いこ?」

「……」

あれ。反応がない。
髪を洗いたくないのか、離れるのが嫌なのか。
俺を抱き込んだままぐずぐずと立ち上がらないグランに耳元でそっと囁く。

「いい子で髪洗えたら、良いモノあげるから。ね?」

「……分かった」


◇◇◇

髪を洗い終わり服を用意していると、グランにめちゃくちゃ見られたが気にせず着込んだ。

何か言いたげなグランをソファで待たせ、ハーブティを入れに行く。朝なので爽やかに目覚めるレモングラス。リフレッシュ効果があるって店長も言ってたし、これからお仕事のグランにはちょうど良いはず。

マグカップを渡すと、いつもと違う香りに驚いたみたいだった。

「朝だからすっきりした香りのものにしたよ」

「柑橘系の香りだな」

香りを気に入ったらしく、顔を綻ばせながらグランは一口啜った。

「それで良い物、とは?」

期待に満ちた目がこちらを見る。
しまった。ハードルを上げすぎたかも。
でも、もう約束してしまったし、渡さない訳にはいかない。
せめて精一杯お祝いしようと明るい声をあげ、ポケットに入れていたものをグランに差し出した。

「お誕生日おめでとう! ラベンダーの香りのハンドクリーム。ええっと、寝る前とかに手に塗るもの」

ここに来る前、キリノさんから誕生日だと聞いた俺は駅前のショップでチューブタイプのハンドクリームを購入した。グランをイメージして金と銀のリボンでラッピングしてもらったんだけど、やっぱりよく似合っている。
店員さんの仕事に感謝していると、グランは大事そうにラッピングの上から撫でた。

「贈り物を用意してくれたのか」

「うん。昨日キリノさんから眠りの日と誕生日を聞いたから」

「そうか……ありがとう。トモルに祝ってもらえて嬉しい」

「このクリーム、お風呂上がりに塗ると保湿効果があるんだって。でも、グランなら香りによる安眠効果の方が期待できそう」

そう説明するとリボンを解き、香りを確認していた。

「ん、本当だ。いい香りだな」

「実は俺も家で同じの使ってるんだ」

お揃いだよと伝えると、グランは嬉しそうに俺の手をとった。

「そうか、お揃いか」

「使ってくれると嬉しい」

「あぁ、大切に使わせてもらう。それで、トモルが来る日はトモルが塗ってくれるか?」

「もちろん」




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