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本編
幕間 4.5
しおりを挟むいつものファミレスでもう2回目にして恒例のキリノさんとのお茶会。
今日のキリノさんはグランから何か聞かされているのか、ちょっとあしらうような目で俺のことを見つつも、相談というか愚痴というか……に付き合ってくれるらしい。
「それで、今回はどうされたんですか」
「すみません……」
「いえ、謝っていただく必要はないんですが」
「前回っていうか、一昨日ですね。眠そうなグランがすごく可愛くて」
そう俺が切り出すと、キリノさんは遠い目をしながらコーヒーを啜った。
「はあ……」
「お風呂に入る時に俺が服を脱がしたんですけど」
「……」
「下着脱がしてる時にうっかり、見ちゃって。で、意外とフェラできそうじゃねって思っ」
ゲホッ
フェラ、と口にした瞬間、いつも上品なキリノさんが飲んでいたコーヒーを噴き出した。
変なところに入ったのか綺麗な眉を顰ませ、何度か咳き込む。慌ててハンカチを差し出すと、黙って受け取ってくれた。
「ーーッ、飲食店なんですから、オブラートに包んで頂けませんか?」
「ごめんなさい」
「いえ。ーーでも、それならして差し上げたらいいんじゃないですか? 喜ぶと思いますよ、凄く」
「そりゃあ、グランも男だし、喜ぶと思いますけど……でも、グランってえっちしたと勘違いして、結婚して責任とるって言っちゃうんですよ? 迂闊に変なことできませんよ」
記憶がないのに悲痛な声で責任を取ると言ったグランのことだ。手なり口なりでしても、何かしら言ってきそうだし、そのまま既成事実とやらを作られそうでちょっと。
てか、この前は流しちゃったけど、既成事実ってなに。責任云々言うくせに積極的にしようとするのは矛盾なのでは。
そんなことを話すと、キリノさんは頭が痛そうにこめかみを抑え、ため息を吐いた。
「……陛下の心理なんて陛下本人にしか分かりませんよ。陛下に聞いてみてください」
「そうですけど」
藪蛇になりそうな気もするし。
「それにしても結婚ですか……それもいいんじゃないですか」
「いや、よくないでしょ。俺、男だし。それにグランから聞きましたけど、番がいるんですよね? 今は近くにいないみたいですけど。それなのに俺と結婚て」
「陛下の番については口止めされてますし、情報を流せません。ですが、別に気にされる必要はないですよ」
「気にしますよ、普通に」
グランの本来の相手なわけだし。俺とえっちしようが結婚しようが、結局は番さんが来るまでのその場しのぎ。身代わりでしかない。
「というか、トモルさん自身はどうなんですか」
「どうって何が?」
「陛下をどう思ってらっしゃるんですか」
「ーーさあ?」
とぼけてみせたが、キリノさんは身を乗り出して追求してくる。
「陛下には黙っておきますよ、もちろん」
「……キリノさんは何とも思ってない男のモノを咥えられるんですか」
ペロッと舌を出してわざとらしく言うと、キリノさんは赤くなった。
「ーートモルさんっ。もっと言葉を慎んでくださいと言ったでしょう!」
「はいはい」
「ですが、そういうことですか。分かりました。何とも思っていない相手にそれは無理ですね」
「そういうことです」
「そもそも憎からず思ってる相手でも私には正直ちょっと、」
キリノさんは具体的に誰かの何かを思い浮かべているのか、頬を赤らめたままボソボソとそう付け加えた。
「キリノさんの彼氏喜ぶと思いますけど?」
「……なぜ、私にそのような相手がいると?」
「何となく。ちなみに番さんなんですか」
さっきの意趣返しに踏み込んで聞いてみる。
「ええ、まあ。というか、私は竜人族ではなくトモルさんと同じ人間ですので、正確にいうと私が竜人族の番です」
「そうなんですね。竜人族の番って人間なんですか」
「いえ、同種族の場合が一番多いですね。人間や他種族のこともありますけど」
「グランの番さんはどこにいるんでしょうね……」
竜人族なのか、人間なのか。近くにいるのか、遠くにいるのか。
俺には分からない。キリノさんが口止めされてるってことは俺には何も教えるつもりはないんだろう。
ーー関係ないっちゃ、関係ないもんね。所詮、呼ばれていくだけの添い寝屋だし。
拗ねるというより、諦めに近い気持ちになった。
「トモルさん、」
何かを言いかけたキリノさんを遮った。
「グランの不眠症の原因って、番さんが側にいないことも原因の一つですよね?」
「そう、かもしれませんね。竜人族は番が側にいるととても落ち着くし、癒されるらしいです。……一般論ですが」
これは惚気かな。
「キリノさんの彼氏、溺愛タイプでしょ」
揶揄うように尋ねると、キリノさんはそっぽ向いて教えてくれない。
「私のことは気にされないでください」
「幸せそうで何よりです」
「そんないい関係でもないですよ、私たちだって……色々あります」
そっと息を吐く表情にこれ以上追求するのを止め、話題を変える。
「そんなもんですか? でも、やっぱいいなって思っちゃいます。俺も恋人欲しいなって。ーーまあ、そしたら仕事やめなくちゃいけないっていうか、転職が先かな」
「は?」
「え? だって、恋人が他の人と添い寝とか嫌じゃないですか?」
やらしい関係じゃなくても、異性同性どちらにしても嫌だろう。
恋人に不義理をするつもりはない。
「それは、絶対に嫌ですけど」
「ですよね?」
そうすると、グランとは会えなくなるけど。このまま会い続けてたら、引き返せなくなりそう。
身も心も捧げた次の日には番さんが現れるかもしれないし、やってみたら相性が悪いかもしれないし。
そしたら、気まずくて呼んでもらえなくなったり?
グラン、真面目だし情が深いからいきなり切られたりはないと思うけど、気まずいまま会い続けるのはお互いしんどいだろう。
この仕事始めた頃は、お客さん相手に本気になるわけないって思ってたのにな。
そんなことをぐるぐる考えていると、何かを察したらしいキリノさんに釘を刺された。
「ーー大切なご決断をされる前に、必ず私に教えてください」
「それって転職とかそういう話ですか?」
何も今すぐ辞めようと思ってるわけじゃないんだけど。
「それも含めて、です。いつでもどんなに忙しくても、必ず掛けつけますから」
懇願するように頼まれ、俺は了承した。
「絶対ですよ」
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