異世界に来たのでお兄ちゃんは働き過ぎな宰相様を癒したいと思います

猫屋町

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書籍化御礼番外編  ※リツ視点

家族サービス 1

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「緑だな」

「緑ですね」

仕事後の空腹を満たすいつもの食卓。今夜はちょっと変わったクレープを用意した。真っ白な皿に映える鮮やかな緑の生地にディーンさんは考えるように顎に手をあてる。

「これは何の緑なんだ」

「バジルです。薬草園の方でたくさん収穫できるらしくて。レオナルドさん経由で頂いたんですよ」

新人職員により誤って地植えされたバジルは暑くなるにつれ、どんどん勢力を広めているらしい。薬に使うにも限度があり、余ったものを良ければと譲ってもらった。
バジルソースにでもしようかと思っていたが、それだけでは消費できないほどの量があり、たまたま作っていたクレープの生地に混ぜ込んでみたのだ。

「報告が来ていたな。大きな問題ではないと思っていたが、リツに声をかけるほどに育っているか」

渋い顔をするディーンさんに誤解だと否定する。

「以前からあまりが出れば分けて欲しいとお願いしてたんです」

「迷惑をかけていないのならいいが。薬草が好きなのか?」

「料理に結構使えるんですよ」

「薬草で料理か……」

「はい、今夜はバジルを混ぜたクレープ生地でレタスやトマト、薄切りの玉ねぎとベーコンにチーズを巻いてみました」

「なるほど」

ディーンさんはクレープを皿ごと持ち上げ、様々な角度から興味深そうに観察している。新しいものを食べるときの癖。僕が作ったものを怪しんでいるわけじゃなく、好奇心から料理全体を満遍なくみたいらしい。

異世界に来た初日にマフィンを食べた時もじっくり観察してたな。
あれからたくさんの料理を作ってきたけど、ディーンさんの興味は尽きないみたいだ。

観察し終えたディーンさんは円錐に巻いたクレープを手に取り、ゆっくりと口に運ぶ。目を閉じ、味覚を研ぎ澄ませながら咀嚼すると、大きく頷いた。

「こんな味がするのか。香りも強いな」

「あまり好みじゃないですか……?」

香草は匂いだけじゃなく味の癖も強いし、苦手な人は多い。バジルソース好きの僕としては残念だけど、ディーンさんが苦手なら香草料理は控えた方がいいだろう。
色んな料理を食べて欲しい気持ちはあるけど、嫌いなものを無理して食べて欲しくない。

ディーンさんの表情を窺うと、小首を傾げながらも首を振った。

「いや、独特だが悪くない香りだ。苦味も程よいし、具材もうまい。野菜がさっぱりしているが、とろっとしたチーズが濃厚でちょうどいい」

「よかった。ディーンさんは大丈夫そうですね」

「誰か苦手なのか」

「リアンくんは香草があまり得意じゃないみたいで難しい顔して食べてました。具材も野菜多めでしたし。でも、そのおかげで今回も粉々にしてくれたので助かりました」

リアンくんは野菜のみじん切りを頼むと、それが苦手であればあるだけ攻撃魔法を駆使して細かくしてくれる。楽しそうな表情も相まってなかなか見もので、休憩中の騎士たちが見学に来るほどだ。

今日も嬉しそうにバジルを粉砕してたな、と思い出しているとディーンさんが食事の手を止め、考え込んでいた。

「どうしたんですか」

「リアンはまだ野菜が苦手なのか」

子供の成長を心配する父親のような表情でそんなことを訊かれる。

「子どもですからそんなものですよ。でも、クッキーに混ぜたのは美味しいって食べてくれますし、料理に入っている時でも涙目になりながら頑張って食べてますよ。今日も残していいよって言ったんですが、トマトに負けたくありませんって絶対に完食してました」

いつもは大人顔負けの有能ぶりを発揮するリアンくんだけど、たまに見せる子どもらしい表情がとても可愛い。毎日夕食の時にディーンさんに報告を兼ねてリアンくんの可愛いかった話を聞いてもらっている。

「それは偉いな」

「はい。とても頑張り屋さんです」

短いが実感の篭った言葉に肯定すると、ディーンさんは咳払いをして居住まいを正した。



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