異世界に来たのでお兄ちゃんは働き過ぎな宰相様を癒したいと思います

猫屋町

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書籍化御礼番外編  ※リツ視点

家族サービス 2

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「私の仕事の補佐もよくやってくれているし、その……何かご褒美のようなものをリアンに渡したいんだが、何がいいだろうか」

ディーンさんは視線を落とし、若干声も上ずっていた。

照れてる、のかな。僕に愛してると伝えてくれる時も真っ直ぐ見つめるのに。

意外な表情に胸がときめき、返事が遅れてしまう。

「リツ?」

「あ、はい。えっと、ご褒美ですか。物がいいんでしょうか」

「いや、したいことでもあればやらせてやりたい。何かそんな話をしたことはないか。私にはどうも言い難いのか、十分だというばかりなんだ」

寂しそうな顔でディーンさんはいうけど、その光景が目に浮かぶ。ディーンさん大好きなリアンくんに本人が聞いても何もいりませんと答えるだけだろう。

「リアンくんらしいですね。ディーンさんの役に立つことが一番嬉しいって言ってましたよ。やりたいことっていうなら、お仕事って答えるんじゃないでしょうか」

「仕事か……。実は、たまに厳しく接してしまうことがあってな」

深くため息をつくディーンさんの表情は暗い。

「そうなんですか」

「あぁ、まだ子どもだということを忘れて、つい仕事を多く振ってしまったり、小さな書き間違いを指摘してしまったり。成長を期待してのことだが、厳しすぎては逆効果になってしまう」

リアンくんはきっと気にしてないだろうな。
たくさんの仕事を任されることは誇らしく思っているだろうし、ミスの指摘もきちんと見てもらえていると喜んでいるはずだ。

ディーンさんにそう伝えたが、力無く首を振られてしまう。

「それだけじゃない。休みも満足に取らせてやれていないんだ」

「確かに僕もディーンさんも毎日リアンくんにお世話になってますね」

魔法を使えない僕にとってリアンくんの存在は大きい。リアンくんがいないと水すら飲めないのだ。

「前にリツと一緒に手紙をくれたことがあっただろう。あの時も何か添えようと思ったが、欲しいものが分からず、返事を書いただけで碌な礼も出来ていない」

「お返事、すごく喜んでましたよ」

「かもしれないが……」

珍しく口籠るディーンさんが何だか可愛い。

「日頃のお返しがしたいんですね」

「そういう、ことだ。……心あたりはないか」

リアンくんの望んでいるものやことか。
会話を思い出していると、それらしいものが思い当たった。

「あ、そういえば、前に行ってみたいところがあるって言ってましたよ」

「行ってみたいところ?」

僕の言葉にディーンさんはパッと顔を上げる。

「場所の名前は忘れてしまったんですが、不思議な水が湧き出しているところらしいです」

1ヶ月ほど前、パン生地を作っているときにそんな話をしたことを思い出す。

「不思議な水……?」

「騎士団の誰かに聞いたって話してましたけど、こんな情報で分かりますか」

「思いつかないが、騎士団絡みならレオナルドに確認すれば分かるだろう。ーーもし、近場なら3人で行ってみようか」

ディーンさんの瞳が安堵に緩む。その表情に思わず笑ってしまった。

「変なことを言ったか?」

「いえ、ディーンさん、リアンくんのお父さんみたいだと思って」

子どもへの誕生日プレゼントや家族サービスに悩む父親みたいなディーンさんが微笑ましくて、愛おしい。

「似たようなものというか、私としてはリアンを引き取ると決めた時からそのつもりだ。リアンは嫌がるかと思って言ってはいないが」

「まさか。絶対に喜びますよ」

ディーンさんにそんなことを言われたら、感動して泣いてしまうかもしれない。そのぐらいリアンくんはディーンさんを慕っている。
しかし、ディーンさんは自信なさそうに目を泳がせた。

「そうだろうか。以前、シエラにリアンのことを相談したとき、面倒臭い父親みたい、重いと呆れられたことがあってな」

シエラさん……

それはらしくない悩みを聞いたシエラさんに揶揄われたんだろう。
僕には優しく頼れるお医者さんだけど、ディーンさん相手には少し意地悪なところがある。

「大丈夫ですよ、リアンくんはディーンさんのこと大好きですから。僕が補償します」

「心強いな」

「リアンくんに喜んでもらえるように頑張りましょうね」


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