23 / 27
書籍化御礼番外編 ※リツ視点
家族サービス 2
しおりを挟む「私の仕事の補佐もよくやってくれているし、その……何かご褒美のようなものをリアンに渡したいんだが、何がいいだろうか」
ディーンさんは視線を落とし、若干声も上ずっていた。
照れてる、のかな。僕に愛してると伝えてくれる時も真っ直ぐ見つめるのに。
意外な表情に胸がときめき、返事が遅れてしまう。
「リツ?」
「あ、はい。えっと、ご褒美ですか。物がいいんでしょうか」
「いや、したいことでもあればやらせてやりたい。何かそんな話をしたことはないか。私にはどうも言い難いのか、十分だというばかりなんだ」
寂しそうな顔でディーンさんはいうけど、その光景が目に浮かぶ。ディーンさん大好きなリアンくんに本人が聞いても何もいりませんと答えるだけだろう。
「リアンくんらしいですね。ディーンさんの役に立つことが一番嬉しいって言ってましたよ。やりたいことっていうなら、お仕事って答えるんじゃないでしょうか」
「仕事か……。実は、たまに厳しく接してしまうことがあってな」
深くため息をつくディーンさんの表情は暗い。
「そうなんですか」
「あぁ、まだ子どもだということを忘れて、つい仕事を多く振ってしまったり、小さな書き間違いを指摘してしまったり。成長を期待してのことだが、厳しすぎては逆効果になってしまう」
リアンくんはきっと気にしてないだろうな。
たくさんの仕事を任されることは誇らしく思っているだろうし、ミスの指摘もきちんと見てもらえていると喜んでいるはずだ。
ディーンさんにそう伝えたが、力無く首を振られてしまう。
「それだけじゃない。休みも満足に取らせてやれていないんだ」
「確かに僕もディーンさんも毎日リアンくんにお世話になってますね」
魔法を使えない僕にとってリアンくんの存在は大きい。リアンくんがいないと水すら飲めないのだ。
「前にリツと一緒に手紙をくれたことがあっただろう。あの時も何か添えようと思ったが、欲しいものが分からず、返事を書いただけで碌な礼も出来ていない」
「お返事、すごく喜んでましたよ」
「かもしれないが……」
珍しく口籠るディーンさんが何だか可愛い。
「日頃のお返しがしたいんですね」
「そういう、ことだ。……心あたりはないか」
リアンくんの望んでいるものやことか。
会話を思い出していると、それらしいものが思い当たった。
「あ、そういえば、前に行ってみたいところがあるって言ってましたよ」
「行ってみたいところ?」
僕の言葉にディーンさんはパッと顔を上げる。
「場所の名前は忘れてしまったんですが、不思議な水が湧き出しているところらしいです」
1ヶ月ほど前、パン生地を作っているときにそんな話をしたことを思い出す。
「不思議な水……?」
「騎士団の誰かに聞いたって話してましたけど、こんな情報で分かりますか」
「思いつかないが、騎士団絡みならレオナルドに確認すれば分かるだろう。ーーもし、近場なら3人で行ってみようか」
ディーンさんの瞳が安堵に緩む。その表情に思わず笑ってしまった。
「変なことを言ったか?」
「いえ、ディーンさん、リアンくんのお父さんみたいだと思って」
子どもへの誕生日プレゼントや家族サービスに悩む父親みたいなディーンさんが微笑ましくて、愛おしい。
「似たようなものというか、私としてはリアンを引き取ると決めた時からそのつもりだ。リアンは嫌がるかと思って言ってはいないが」
「まさか。絶対に喜びますよ」
ディーンさんにそんなことを言われたら、感動して泣いてしまうかもしれない。そのぐらいリアンくんはディーンさんを慕っている。
しかし、ディーンさんは自信なさそうに目を泳がせた。
「そうだろうか。以前、シエラにリアンのことを相談したとき、面倒臭い父親みたい、重いと呆れられたことがあってな」
シエラさん……
それはらしくない悩みを聞いたシエラさんに揶揄われたんだろう。
僕には優しく頼れるお医者さんだけど、ディーンさん相手には少し意地悪なところがある。
「大丈夫ですよ、リアンくんはディーンさんのこと大好きですから。僕が補償します」
「心強いな」
「リアンくんに喜んでもらえるように頑張りましょうね」
48
あなたにおすすめの小説
獣人の子供が現代社会人の俺の部屋に迷い込んできました。
えっしゃー(エミリオ猫)
BL
突然、ひとり暮らしの俺(会社員)の部屋に、獣人の子供が現れた!
どっから来た?!異世界転移?!仕方ないので面倒を見る、連休中の俺。
そしたら、なぜか俺の事をママだとっ?!
いやいや女じゃないから!え?女って何って、お前、男しか居ない世界の子供なの?!
会社員男性と、異世界獣人のお話。
※6話で完結します。さくっと読めます。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる
塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった!
特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。
運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…
こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』
ある日、教室中に響いた声だ。
……この言い方には語弊があった。
正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。
テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。
問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。
*当作品はカクヨム様でも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。