異世界に来たのでお兄ちゃんは働き過ぎな宰相様を癒したいと思います

猫屋町

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書籍化御礼番外編  ※リツ視点

家族サービス 4



森までは馬車での移動だった。絵本で見るような馬車なのは莉緒さんが魔法を作ったからだろう。

揺れも少なく乗り心地は快適でこれなら長距離の移動も楽だろう、と考えているうちに森の入り口へ到着した。

ディーンさんに手を貸してもらい馬車から降りると、そのままバスケットを取り上げられた。

「これは私が持とう」

中身は今朝焼き上げたパンで作ったコッペパンサンド。石窯で焼いた豚肉をプルドポークみたいにフォークで裂いて甘めのトマトソースと絡め、コールスローサラダと一緒に挟んだものだ。
それに飲み物用のティーカップが入っているけど、全然重くはない。

「軽いので大丈夫ですよ」

バスケットを返してもらおうと伸ばした手を引かれ、抱き寄せられた。

「ディーンさん?」

「軽いのはわかっているが、今日のリツは体調が万全ではないだろう?ーー昨夜、夜更かしさせてしまったからな」

後半はリアンくんに聞こえないように耳元で囁かれた。その低い声に昨夜のあれこれが蘇って、顔が火照る。早めに寝るつもりだったのに今日のお出かけが楽しみだったのか、テンションの上がったディーンさんに強請られるまま、遅くまで付き合った。
お弁当の準備もあり、寝不足なのは確かだ。でも、バスケットを持てないほどじゃない。

「だ、大丈夫、です……」

赤みが差す頬を見られないように俯く。

「リツ様、お具合が悪いんですか? お顔が赤いような」

不安そうに僕を見上げるリアンくんに首を振って答える。

「そんなことないよ。すごい元気だから!」

ディーンさんが変なこと言うからリアンくんに心配かけてしまった。

「リツの体調不良は私の責任だからな。今日は運ぼう。リアンはリツが迷わないように手を引いてくれるか。私では、照れてしまうようだから」

「承知しました」

悪戯っぽい流し目にどう返せばいいか戸惑っていると、リアンくんが力強く頷いた。
ディーンさんも重要な仕事を任せるみたいに大真面目な顔でリアンくんの肩を叩く。

「リツを頼んだぞ」

「はい! お任せください」

キリッとした顔で胸を張るリアンくんを止める言葉を持っていない。ディーンさんを嗜める言葉も。

「リツ様、お手をよろしいでしょうか」

「ありがとう。じゃあ、お願いするね」

紳士的に差し出された小さな手に手を重ねるとぎゅっと握られた。

昔、よく弟妹の手を繋いだな。

懐かしい気持ちでディーンさんの隣に並ぶと、リアンくんの歩調に合わせてゆっくりと歩き出した。

木々の合間から溢れる日差しが暖かくて心地いい。

「リツ様、ディーンハルト様、白い花が咲いてます」

リアンくんが指差す方を見ると、小さな星が丸く集まったような紫陽花に似た花が咲いていた。

手を引かれるまま近づくと、かすかに甘い香りが漂ってくる。

「本当だ、星みたいで可愛いね」

「何の花でしょうか」

「何だろうね。ディーンさん、知ってますか」

リアンくんと首を傾げながら後ろ振り返ると、ディーンさんが微笑んでこちらを見ていた。

「これはファーナの花だな」

「ファーナ、ですか。名前も可愛らしいんですね」

「王宮にはない種類の花です。この森の固有種でしょうか」

そう呟きながらリアンくんは難しい顔で色んな方向から小さな花々を観察している。その姿がマフィンを初めて見た時のディーンさんにそっくりでちょっと笑ってしまった。

一緒にいる時間が長いからちょっとした仕草や表情が似てきたのかもしれない。

当のディーンさんは懐かしそうに目を細めてファーナの花を見ていた。

「これは森にしか咲かない花だ。幼い頃、公爵領の森でも見かけたことがある。あの森もとても綺麗だった」

以前聞いた話だと公爵領にはご両親と後継の弟さんが暮らしているらしい。

どんなところなんだろう。

「公爵領って王都から近いんですか」

「馬車で3日ほどだから近いといえば近いか。もう少し王太子殿下の件が落ち着いたら、旅行を兼ねてみんなで訪ねるのもいいな」

その言葉に僕はすぐに頷いたが、リアンくんは不思議そうにディーンさんを見上げた。

「旅行ですか」

「リアンも一緒に行くだろう?」

「僕も、ですか」

ディーンさんの誘いが予想外だったのか、リアンくんは大きな目をさらに見開いた。

「嫌か?」

「いえ、そんなことは……」

リアンくんは音がしそうな勢いで首を振った。行きたいけど行ってもいいのか分からないって感じかな。
繋いだ手にそっと力を込めながら、僕からも誘いをかける。

「リアンくんが一緒なら僕も心強いし、楽しみだな」

「リツ様」

目が合うとリアンくんは照れたように笑った。ダメ押しとばかりディーンさんがリアンくんに目線を合わせる。

「リアンのことは父も気にしていたからきっと喜ぶだろう。私たちと一緒に行ってくれるか」

「はい、ぜひ僕も連れて行ってください」

前向きな返事に安堵していると、ディーンさんも嬉しそうに目を細めていた。思っていたよりも緊張しながらのお誘いだったのかもしれない。
気遣い合うがゆえのぎこちないやりとりが微笑ましてくて、胸が温かくなる。

「公爵領に行ったら、森へも行ってみたいですね。ね、リアンくん」

「はい。公爵領のファーナも見てみたいです」

「そうか。では、今日みたいに3人で森を散歩しよう」
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