謀殺された悪役令嬢は、前世の護衛騎士の幸せを見届けたい

うづき

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3-3.古本と魔法薬

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 一ページ目の絵は、主人公である少年が何かしらの用意をしているところだ。遊びに行く前なのだろう。鞄に物を詰める様子が描かれている。実際、このページには『今日はお天気も良くて、絶好の散歩日和! アンリは鞄の中に沢山のものを詰め込みます。おもちゃはもちろん、お友達のルーセントが大好きな、お菓子も沢山!』と書かれている。
 文字に意識を取られないように、ネリーは絵だけを見つめ続ける。この絵から、想像出来ること。子どもの想像力を必死に働かせながら、ようやく言葉を口に出した。

「子どもはですね、遊びに行く予定なんです」
「そう。どこに?」
「どっ……街? 街に! あ、でも街に遊びに行くのにこんなに色々なものは持っていかないですよね。山! 山に!」

 慌てて言葉を続けると、セレストはそうか、と囁くように言葉を口にした。そうして、もう一ページをめくる。
 次のページは、少年が鞄を背負って勢いよく飛び出していく姿が描かれている。ページの端にはふわふわの尻尾が小さく描かれていた。友人に会いに行くことを示唆しており、その友人が獣人であることをこのページ内で表している、ということである。

「山に行こうとする子どもですが、なんと前の方にふわふわの尻尾を見つけてしまいました!」
「前の方?」
「ここに」

 端に小さく描かれた尻尾を指さす。セレストが小さく頷いて、それから「大体君の言う通りの内容だ」と囁いた。少しばかり喉を鳴らすようにして笑う音が聞こえる。
 からかわれている、というより、無茶ぶりに応える様子を見て、楽しげにしている──という方が正しいだろうか。なんだろう。試されている気がする──が、それらの様々な感情を一旦心の奥に沈み込ませて、ネリーは言葉を続ける。

「ふわふわの尻尾は、ふわふわなので、子どもはその魅力に負けて付いていくことにします」
「ふわふわの尻尾がそんなに魅力的なのか?」
「魅力的ですよ! 触りたくなっちゃう……ふわふわ。ふわふわ。大好きです」

 ネリーは夢を見るように目を細める。ロゼの時は、セレストのふわふわの尻尾を何度も触っていたが、まさか今、同じ事をすることは出来ないだろう。そもそも獣人にとって、尻尾も耳も、親しい相手にのみ触らせるものであることは、常識として知られている。
 ネリーの考えをなんとなく察したのか、セレストの尻尾が僅かに隠れるように動くのが見えた。警戒しているのだろう。子どもの、全身全霊の力で尻尾をむぎゅうっとされたらと思うと、少しばかり焦っている可能性もある。

 しかし──と、ネリーは僅かに息を呑む。
 自分に物語を考える才能が無いことは、ネリーの理解するところである。少しずつどのように進めるか苦しくなってきた。三ページ目、四ページ目、と言葉を続けた頃には、若干泣きそうになりながら手の組み替えを何度も行いつつ、急かされるままに言葉を紡ぐ。
 絵本は十六ページほどあり、ネリーによって語られる筋道が大変曲がりくねった物語も、そこでいったんの終着点を迎えた。

 ほっとするのも束の間、セレストの指が、終わりのページに書き足されたイラストを指さす。もちろん、ネリーが描いたものではない。古本として母親が購入してきた時から、最終ページには落書きがあった。
 恐らく、前の持ち主が描いたものなのだろう。人間らしき存在が描かれている。

「――これは?」
「これは、ええと、古本で。だから、私が描いたんじゃなくて……最初から、描かれていたんです」
「……」
「多分、前の持ち主の絵なんじゃないかなあって思ってます。私。――それに」

 自分のことを、描いた物なのだろう、と、ネリーは思って居る。
 描かれた落書きは、消そうと思えば魔法でいくらでも消せる。だがそうしないのは、この絵に、前の持ち主の祈りのようなものを感じたから、なのかもしれない。

 この絵本は人と獣人の友情を描いた物語だ。この本を読み聞かせられたか、あるいは自分で読んだか――した子どもが、物語に入り込み、そこに自分を描き入れる。そうやって描かれたものなのではないか、と思ったからこそ、消すことが出来なかった。

「前の持ち主さんが気に入っている本で、けれど、多分、私のためにってお母さんが譲ってもらってくれたんです。だから、大事にしようって」
「――そうか」
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