謀殺された悪役令嬢は、前世の護衛騎士の幸せを見届けたい

うづき

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4-1.一緒に居る

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 魔物討伐のために組まれた騎士団が、無事に成果を出したらしい、ということを聞いたのが少し前のことである。
 王太子率いる騎士団は、多くの魔物を相手に大変な活躍を見せ、そうして人々を恐怖させる魔物を殲滅した。その知らせは民衆の間にすぐ広がり、ほっと胸を撫で下ろすものも多く居た。

 魔物は山や平原を住処とする。ネリー自身、魔法薬の材料を取りに、母についてそういった場所へ向かうことが多かったので、知らせを聞いたときは安堵したものである。
 母親も、「これで薬草の補充が出来る!」と嬉しそうにしていた。ドーム型薬草園で育てられる薬草と、野外でしか手に入らない薬草があるので、さもありなんという感じだろう。

 今日は薬草を補充してくる! と意気揚々と山に繰り出す母親を見送って、ネリーは王都へ向かった。
 王都は今日も人が多く、しかもどうやらかの有名なテールベルト劇団が先日の魔物退治の演劇をするとかで、広場には人がひしめいていた。
 ネリーが広場に着いた頃には既に演劇が始まっており、役者の堂に入った声が耳朶を打つ。

「我こそは、デイラシア王国、第一王子、サルファ! 人々を救うため立ち上がった。王国を脅かす魔物たちよ、今まさに、灰燼に帰してみせよう!」

 サルファ――という名前が聞こえた瞬間、僅かにびくりと肩が震えた。そうして、すぐに、テールベルト劇団と王家は繋がっているのだろうな、とぼんやりと確信めいた想いを抱く。
 確かに魔物撃退というニュースは、人々の耳目を集め、興味を示す題材ではあるが、題材にして演劇にするには、あまりにもスピードが速い。恐らく、王太子であるサルファが先んじてテールベルト劇団と手を組み、魔物を撃退した暁にはこういった劇をしてもらいたい、と頼んでいたのかも知れない。

 そう考えると、先日見かけた、ロゼと聖女が相対する演劇も、王太子の手によって頼まれたものなのだろうな、と言う気がしてきた。
 歴史というものは生き残ったものが作る。いつの時代も。ロゼが生きていたら、また話は変わっていたのかもしれないが。
 耳に響くセリフを、ほとんどシャットアウトするようにして、ロゼは人混みを必死にくぐり抜けて街路をひた走った。

 救民院の庭園に足を踏み入れて、ようやくほっと一息を落とす。最近、少しずつ庭園の手入れを始めていることもあり、少し前に比べると生い茂る草の数も減ってきているように思う。
 いつもより少し早く来てしまったこともあり、庭園の手入れに精を出すことにした。土を湿らせてから、青々とした草木を指で抜く。それを無心で繰り返していると、不意に人の気配を感じた。

 ネリーは顔を上げる。門のあたりに、セレストの姿があった。セレストは僅かに瞬いた後、直ぐにネリーの傍に近づいてくる。

「最近庭園が綺麗になっていると思ったら。君がしていたのか」
「暇だったので」
「……約束を覚えている、よな?」
「もちろん。ここで待つのは、昼前から、昼過ぎ!」

 セレストはなんとも言えない顔をした。待つのはもちろん、昼前から昼過ぎだ。ただ、それ以外のことをしない、とは言っていないし、それ以外の時間帯に訪れない、とも言っていない。
 にこにこしながらセレストを見上げる。セレストは僅かに眉をひそめた後、そうして大股でネリーに近づいてきた。

 怒られるだろうか、と思うのも束の間、セレストはネリーから一歩ほどの距離を取った後、「手を」とだけ言う。
 手。なんだろうか。首を傾げつつそっと差し出すと、ネリーの手より幾分大きなセレストの手が、そっと手の平を窺うように触れた。

「傷がついている。……危ないだろう、素手でこんなに……」
「えっ。あ、いや、でも、慣れてます」
「慣れてる、慣れていない、の問題じゃないんだ」

 言いながら、セレストはゆっくりと膝を突いた。そうして、土で汚れたネリーの手を、柔らかなハンカチで軽く拭いてくれる。

「え! いや、本当に大丈夫、大丈夫です!」

 慌てて手を引っ込めようとするが、セレストの視線によってネリーの行動は制止される。水魔法を使って手の平を軽く洗浄した後、そのままセレストはハンカチをネリーに握らせた。

「使ってくれ」
「ええ……えっ……」
「そうだな。――庭園を綺麗にしてくれたお礼、みたいなものだ」

 ネリーがすぐに返そうとするが、セレストは受け取らない。ゆっくりと膝を上げたセレストは、真上の太陽に目を細め、尻尾をゆるく震わせた。
 中に入ろう、と囁くような声に促されるようにして、ネリーはセレストの後をついて救民院の戸をくぐった。

 室内は静かだ。陽光がちらちらと零れ落ちて、床を塗らしているのが見える。入って直ぐは、いわゆるロビーのような場所で、もう少し奥に向かうと書庫がある。子どもたちのために集めた本は、影も形も無い。
 本は、少しばかり高価な代物だ。デイラシアにおいて、貴族は識字率が高く、反面、平民は識字率が低いこともあり、本は貴族の子どもが楽しむためのものとなっている。平民たちは、演劇などで時勢を知り、自身の知らない物語を楽しむのだ。

 ロゼの救民院での活動は数年ほどしか出来なかったが、それであっても、少しばかりは識字率の向上に役立ったと思いたいものである。本が無くなっているのも、その本を気に入った誰かの手に渡ったから、と信じたい気持ちがあった。
 セレストから渡されたハンカチを握り絞めながら、ネリーは椅子に腰掛ける。定位置のようになった、陽だまりの落ちる場所に置いてある椅子だ。セレストがその向かいに腰を下ろす。

「……騎士様、お体は大丈夫ですか?」
「うん? うん、そうだね。大丈夫だよ。見ての通り――魔物も、そこまで手こずることはなかったから」
「そうなんですね。その、……広場で、劇があって。そこでは凄い大層な相手と戦っている、というような感じだったから、心配だったんです」

 広場の劇、というだけで、セレストには通じたのだろう。セレストは耳をぴくりと震わせて、それからネリーを見つめた。そうして、「王太子だけの手柄になっている劇だったな」と囁くように続ける。事実をそのまま口にしたような、感情の無い声音だった。

「――実際、あそこまで大層な感じでは無かったよ。ああ、でも、君から貰った回復薬は使わせてもらった。飲み口がさっぱりしていて、美味しかった。あんな風に回復薬は作れるんだな」
「そこは、色々と改良を加えてみたんです。回復薬って、こう、本当に健康に良いなあって味がするじゃないですか」
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