謀殺された悪役令嬢は、前世の護衛騎士の幸せを見届けたい

うづき

文字の大きさ
43 / 63

10-3.陽だまりに咲く

しおりを挟む
「だって、その、前の……雪が降った時も! 女性の方と……楽しそうにしていて」
「……あれは普通に仕事の伝言があっただけだが」
「近かったです!」
「そうか……?」

 セレストはその時のことを思い返すように首を傾げる。全くもって、自覚がないようだ。なんという獣人だろうか。人たらしというのはきっとセレストのような形をしているのかもしれない。
 思わずへええ、とか、ふううん、とか変な声を上げてしまうネリーを見てか、セレストは困ったように笑った。そうして、軽く首を振る。

「……近かったとしても、俺は彼女に対して何の気持ちも抱いていない。殿下が持って来た縁談もそうだ。おおよそ、俺が狼の獣人で、未だに番を得ていないから、興味を持っているだけなんだろう」
「……騎士様、その言い方は駄目です。相手の方にも失礼ですし、それに、騎士様自体を蔑んでいるようで」

 聞いていると、辛くなる。首を振ると、セレストは一度、二度と瞬いた。そうしてから「すまない、嫌な言い方だったな」と続ける。
 静かな膜が、二人の間に落ちる。ネリーは唇の開閉を繰り返し、そうしてからようやく、ずっと疑問に思っていた言葉を、セレストにぶつけた。

「騎士様は、……ご自分がロゼ様を殺した、とおっしゃっていますが、それはどうしてなのですか?」

 問いかける声が、やけに響いて聞こえる。少しでも意識を緩めたら、すぐにでも逸れてしまいそうな視線を意識的にセレストに留めながら、ネリーはセレストの言葉を待つ。
 セレストは露草色の瞳を瞬かせて、それから僅かに思案するような間を置いた。言うべきか、言わざるべきかを悩んでいるような様子だった。
 静かに時間が流れていく。一分、二分、いくらかの時間が経った後、不意に、セレストは「石を」と口にした。

「……前に言っただろう。ロゼ様に、石を渡したことがあると」
「はい。言ってました。青色の石、ですよね」

 頷いて返すと、セレストは静かに頷いた。僅かに迷うように視線を揺らしている。指先が震えているのが見えて、ネリーはその手に触れた。自身よりも大人びた手の平を、握り絞めるようにすると、セレストが「困ったな」と静かに囁く。そうしてから、ゆっくりと言葉を続けた。

「……ロゼ様は、優しく寛大な方で、輿入れした王家が腐敗していることに気付くと、家財の一切を売り払って、王家の損失を負担しようとした。だが、そんなことは何年も上手くいくはずがない。結局の所、ロゼ様が輿入れして一年で、ロゼ様の私物はほとんど無くなってしまった」

 セレストの説明は、おおよそ合っていると言えるだろう。ロゼが輿入れした頃にはすでに王家の腐敗は凄まじく、方々に借金をしているような体たらくだった。特に王の金遣いが荒く、それを受けて王太子も倹約という言葉を知らないのかというほどに浪費を重ねていた。

 ロゼが私財を売り払い、それらの借金は一旦落ち着いた。ただ、それでも賄える分というのには限りがある。出て行く分を補うための圧政が敷かれ、それもあって今よりも王家に対する不満感情が民衆の中で爆発していた。本来なら、そのヘイトを一身に集めるのはロゼの役割だった。

 だが、ロゼは生き抜きたいがために、人々のために福祉の充実を図っており、それもあって色々とゲーム内の役割が狂ってしまったのだろう、と思う。ロゼがすべき悪逆を、王太子が代わりに背負うようにして行い、そしてその汚名を全てロゼに押しつけてきた。

 そう考えると、サルファ自身に全ての非がある――とは言いづらいのかもしれない。ロゼがロゼであれば、悪役令嬢として、そのまま死んでいたはずなのだ。そしてサルファは聖女である主人公と婚姻をし、デイラシアは末永く栄えるというハッピーエンドを迎えるはず、だったのかもしれない。
 全ては憶測に過ぎない。わからない。ただ、事実として、結局の所、サルファはロゼを謀殺した、という横たわるものがあるだけだ。

「ロゼ様は、その頃には、王家を傾けた毒婦として名前が知られるようになっていて……、民衆の多くが、ロゼ様の死を望んでいた。ロゼ様の輿入れが、例にない速度で決まったのも、元々全て、王家がロゼ様に全ての悪感情を押しつけようと画策していたのかもしれない。輿入れした年が凶作だったのも、不興に一役買ったのだろう」

 セレストは言葉を吐き出す。まるで心の奥、澱の部分を必死にかきだして、言葉にしているかのような必死さだった。

「ロゼ様は、ある日、死んだ。殺されたんだと俺は思っている。食事の後、急に苦しみだした、と聞いた。俺が遠征から帰った頃にはもう手の施しようがなくなっていて、ロゼ様の体はもう死を待つしかなくなっていたんだ。それでも、俺は生きて欲しいと願った。お願いだから俺を置いて行かないで欲しい、俺は死んでも良いからロゼ様だけは、と必死にロゼ様の手を握って、生まれてから一度も頼ったことのない神様に頼んだ。けれど」

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

結婚して5年、冷たい夫に離縁を申し立てたらみんなに止められています。

真田どんぐり
恋愛
ー5年前、ストレイ伯爵家の美しい令嬢、アルヴィラ・ストレイはアレンベル侯爵家の侯爵、ダリウス・アレンベルと結婚してアルヴィラ・アレンベルへとなった。 親同士に決められた政略結婚だったが、アルヴィラは旦那様とちゃんと愛し合ってやっていこうと決意していたのに……。 そんな決意を打ち砕くかのように旦那様の態度はずっと冷たかった。 (しかも私にだけ!!) 社交界に行っても、使用人の前でもどんな時でも冷たい態度を取られた私は周りの噂の恰好の的。 最初こそ我慢していたが、ある日、偶然旦那様とその幼馴染の不倫疑惑を耳にする。 (((こんな仕打ち、あんまりよーー!!))) 旦那様の態度にとうとう耐えられなくなった私は、ついに離縁を決意したーーーー。

家出を決行した結果

恋愛
フィービーの婚約者ミゲルには大切な幼馴染がいる。病弱な幼馴染をいつも優先するミゲルや母が亡くなって以降溝が出来てしまった父と兄との関係にフィービーは疲れていた。 デートの約束をしてもいつも直前になって幼馴染を理由にキャンセルされ、幼馴染にしか感情を見せないミゲルを、フィービーを見ようとしない父や兄を捨てる決心をしたフィービーは侍女や執事の手を借りて家出を決行した。 自分を誰も知らない遠い場所へ行ったフィービーは、新しい人生の幕開けに期待に胸を躍らせた。 ※なろうさんにも公開しています。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

侯爵夫人のハズですが、完全に無視されています

猫枕
恋愛
伯爵令嬢のシンディーは学園を卒業と同時にキャッシュ侯爵家に嫁がされた。 しかし婚姻から4年、旦那様に会ったのは一度きり、大きなお屋敷の端っこにある離れに住むように言われ、勝手な外出も禁じられている。 本宅にはシンディーの偽物が奥様と呼ばれて暮らしているらしい。 盛大な結婚式が行われたというがシンディーは出席していないし、今年3才になる息子がいるというが、もちろん産んだ覚えもない。

【完結】引きこもりが異世界でお飾りの妻になったら「愛する事はない」と言った夫が溺愛してきて鬱陶しい。

千紫万紅
恋愛
男爵令嬢アイリスは15歳の若さで冷徹公爵と噂される男のお飾りの妻になり公爵家の領地に軟禁同然の生活を強いられる事になった。 だがその3年後、冷徹公爵ラファエルに突然王都に呼び出されたアイリスは「女性として愛するつもりは無いと」言っていた冷徹公爵に、「君とはこれから愛し合う夫婦になりたいと」宣言されて。 いやでも、貴方……美人な平民の恋人いませんでしたっけ……? と、お飾りの妻生活を謳歌していた 引きこもり はとても嫌そうな顔をした。

1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。

尾道小町
恋愛
登場人物紹介 ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢  17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。 ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。 シェーン・ロングベルク公爵 25歳 結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。 ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳 優秀でシェーンに、こき使われている。 コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳 ヴィヴィアンの幼馴染み。 アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳 シェーンの元婚約者。 ルーク・ダルシュール侯爵25歳 嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。 ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。 ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。 この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。 ジュリエット・スチール公爵令嬢18歳 ロミオ王太子殿下の婚約者。 ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳 私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。 一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。 正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?

[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜

桐生桜月姫
恋愛
 シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。  だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎  本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎ 〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜 夕方6時に毎日予約更新です。 1話あたり超短いです。 毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―

望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」 【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。 そして、それに返したオリービアの一言は、 「あらあら、まぁ」 の六文字だった。  屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。 ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて…… ※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

処理中です...