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11-1.ものの行く先
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ネリーは直ぐ、帰宅してから覚えていることを全て紙に書き留めることにした。
前世、セレストから石を貰って直ぐ、どこから来た品物なのか調べておいて良かった。それら一つ一つの情報が、今になってまさか役に立つだなんて、思いも寄らなかった。もちろん、既に十年以上も前のことだから、曖昧な部分もある。もしかしたら信用のおけないデータになる可能性もあるが、それでも書かずに忘れていくよりはマシだろう。
宝石を売っていたかもしれない、と当時調べていた数人の商人の名前を、覚えている限り紙に記載する。
その当時は商人の名前を調べるだけで満足していたが、今回はそれだけでは終わらない。その足跡を辿り、今現在居る場所に連絡を取る必要があるのだ。中には王都でまだ営業を続けている者も居れば、王都から出て辺境で仕事を続けている者も居るはずだ。
その日の内に、ネリーは王都へとんぼ返りを繰り返すように走り、いくつかの商店を回った。そうして、色々な店に赴き、店の主の名前、そして卸先や取引先にこういった商人はいないか、ということを聞いて回った。
本来なら、確実に疎まれる行為だ。だが、朗読会を繰り返して、名実共に名を上げていたこともあり、ネリーの疑問に多くの人々は優しく答えてくれた。
結果として、記憶に残っていた商人たちと、それぞれが構える店について、ネリーは知ることが出来た。小さな店を構えている者もいれば、大きな店を数店舗構えている商人もいる。
その日のうちは体を休め、次の日になってから、ネリーはそれぞれの店に手紙を出すことに決めた。識字率が低いとは言え、数店舗を経営する大商人ともなれば字を知らずにやっていくことは出来ない。手紙を出せば、必ず読めるものが傍に一人は居るはずだ。小さな店を構えている者の所へは、ネリー自身が向かえば良い。
そのためにも、既に魔法薬士としての地位を盤石にしている母親に、少しばかり手伝ってもらう必要がある。ネリーが手紙を出した所で、子どもからの手紙なんて捨てられてしまうか、もしくは歯牙にもかけられずに終わる。だが、そこに母親の名前が連名で記載されていたら、話は変わってくる。
ネリーは数人の商人の名前を記載した紙を手に、魔法薬の調合を終えたばかりの母親に突撃をすることにした。
「お母さん!」
「どうしたの、ネリー。そんなに慌てて」
「お願いがあるの……! お母さんの名前を貸して!」
ネリーの言葉に、母親は驚いたように瞬く。そうしてから、「どうしたの」ともう一度小首を傾げた。
ネリーは直ぐに、紙を母親の手元に出す。そうして、記載した商人の名前を口にした。数人は恐らく心当たりがあるのだろう、母親の顔が懐疑的になるのを眺めながら、ネリーは必死に言葉を続ける。
「どうしても、この人達に手紙を送りたいの。でも、私だけの名前だと――きっと相手にされない。だから、お母さん……」
紡ぐ言葉に、ネリーの母親は瞬いた。そうして、ネリーの真剣な眼差しを受け止めるように見つめ、そうしてから、眦を和らげるようにして笑う。
「それはもちろん構わないけれど――でも、ネリー。私の名前を連名で書くよりも、この人達が貴方のことを注目せざるを得ない方法があるはずよ」
「え――?」
母親は軽く頷いて、そうしてから、今まで作業していた魔法薬の瓶をかつり、と小指で叩いた。
「貴方が今まで、どれほどに沢山の魔法薬の味を変えようとしたか、私は知っているわ。ネリーの作った魔法薬と一緒に、商人に手紙を送りなさい。そうすれば、彼らは貴方の魔法薬を手に入れるために、必死になるでしょうから」
「え……で、でも、私の魔法薬は味を変えたくらいで……」
「その味を変える、という作業が、どれほどに難しいことなのか、知っているでしょう?」
母親が笑う。ネリーは反論しようと口を開いて、それからゆっくりと押し黙った。
魔法薬というものは、作り方がもう既に『完成』している。つまりは、これ以上手を入れる必要が無い、とされている。ただ、それでも味の改良自体は、今までもされてきて、尚あの苦みとえぐみを残したままなのだ。
ネリーの魔法薬は、その苦みとえぐみを減らすためだけに何度も試行錯誤を重ねたものである。前世、そして前前世の記憶があることもあって、それらの知識をふんだんに使い、どうにか今の飲みやすい味に変えることが出来た。
今の所、出来上がった魔法薬を渡す相手はセレストか、知り合いの騎士かくらいだが、どちらにも好評だ。
それ以外の相手には、渡していない。他の店に卸してもいない。――だからこそ、ネリーの母親は、それを使って、相手の気を引け、と言ってきているのだろう。
飲みやすい魔法薬。それが流通に乗れば、市場において高い価値を持つのは、想像に難く無い。
「……私の、魔法薬」
「そう。もし不安なら、一筆だけ添えてあげても良いけれど――でも、必要ないでしょう。ネリー、あなたなら、自分で道を切り開けるわ」
母親が笑う。ネリーは微かに瞬いた後、ゆっくりと頷いた。
試してみる価値は、あるのかもしれない。
そうして、すぐ、いくつかの改良した魔法薬と共に、ネリーは商人に手紙を送った。
返事はすぐに届いた。ネリーの魔法薬は金になると、手紙を出した商人たちはそう思ってくれたのだろう。ネリーはすぐに母親にそのことを伝え、そうして自身の販路を開拓すると共に、数人の商人へ独占的に魔法薬を卸すことの約束の代わりに、十年以上前に行われた鉱石の売買について、知っていることを教えて欲しい、と言葉を連ねた。
セレスト――青騎士に至った狼の獣人。少年でありながらも、その美貌は抜きん出ていたこともあり、手紙を送った商人の内の一人が、セレストのことを覚えていた。そして、どのような石を売ったかも。きちんと売買契約についてこまめに帳簿をつけていた商人らしく、魔法薬を卸す値段を少し安くする代わりに、その帳簿の石の部分だけ複写が欲しいことを伝える。そうして、一ヶ月以上もの月日をかけて、ようやく、ネリーの手元にその複写がやってきた。
前世、セレストから石を貰って直ぐ、どこから来た品物なのか調べておいて良かった。それら一つ一つの情報が、今になってまさか役に立つだなんて、思いも寄らなかった。もちろん、既に十年以上も前のことだから、曖昧な部分もある。もしかしたら信用のおけないデータになる可能性もあるが、それでも書かずに忘れていくよりはマシだろう。
宝石を売っていたかもしれない、と当時調べていた数人の商人の名前を、覚えている限り紙に記載する。
その当時は商人の名前を調べるだけで満足していたが、今回はそれだけでは終わらない。その足跡を辿り、今現在居る場所に連絡を取る必要があるのだ。中には王都でまだ営業を続けている者も居れば、王都から出て辺境で仕事を続けている者も居るはずだ。
その日の内に、ネリーは王都へとんぼ返りを繰り返すように走り、いくつかの商店を回った。そうして、色々な店に赴き、店の主の名前、そして卸先や取引先にこういった商人はいないか、ということを聞いて回った。
本来なら、確実に疎まれる行為だ。だが、朗読会を繰り返して、名実共に名を上げていたこともあり、ネリーの疑問に多くの人々は優しく答えてくれた。
結果として、記憶に残っていた商人たちと、それぞれが構える店について、ネリーは知ることが出来た。小さな店を構えている者もいれば、大きな店を数店舗構えている商人もいる。
その日のうちは体を休め、次の日になってから、ネリーはそれぞれの店に手紙を出すことに決めた。識字率が低いとは言え、数店舗を経営する大商人ともなれば字を知らずにやっていくことは出来ない。手紙を出せば、必ず読めるものが傍に一人は居るはずだ。小さな店を構えている者の所へは、ネリー自身が向かえば良い。
そのためにも、既に魔法薬士としての地位を盤石にしている母親に、少しばかり手伝ってもらう必要がある。ネリーが手紙を出した所で、子どもからの手紙なんて捨てられてしまうか、もしくは歯牙にもかけられずに終わる。だが、そこに母親の名前が連名で記載されていたら、話は変わってくる。
ネリーは数人の商人の名前を記載した紙を手に、魔法薬の調合を終えたばかりの母親に突撃をすることにした。
「お母さん!」
「どうしたの、ネリー。そんなに慌てて」
「お願いがあるの……! お母さんの名前を貸して!」
ネリーの言葉に、母親は驚いたように瞬く。そうしてから、「どうしたの」ともう一度小首を傾げた。
ネリーは直ぐに、紙を母親の手元に出す。そうして、記載した商人の名前を口にした。数人は恐らく心当たりがあるのだろう、母親の顔が懐疑的になるのを眺めながら、ネリーは必死に言葉を続ける。
「どうしても、この人達に手紙を送りたいの。でも、私だけの名前だと――きっと相手にされない。だから、お母さん……」
紡ぐ言葉に、ネリーの母親は瞬いた。そうして、ネリーの真剣な眼差しを受け止めるように見つめ、そうしてから、眦を和らげるようにして笑う。
「それはもちろん構わないけれど――でも、ネリー。私の名前を連名で書くよりも、この人達が貴方のことを注目せざるを得ない方法があるはずよ」
「え――?」
母親は軽く頷いて、そうしてから、今まで作業していた魔法薬の瓶をかつり、と小指で叩いた。
「貴方が今まで、どれほどに沢山の魔法薬の味を変えようとしたか、私は知っているわ。ネリーの作った魔法薬と一緒に、商人に手紙を送りなさい。そうすれば、彼らは貴方の魔法薬を手に入れるために、必死になるでしょうから」
「え……で、でも、私の魔法薬は味を変えたくらいで……」
「その味を変える、という作業が、どれほどに難しいことなのか、知っているでしょう?」
母親が笑う。ネリーは反論しようと口を開いて、それからゆっくりと押し黙った。
魔法薬というものは、作り方がもう既に『完成』している。つまりは、これ以上手を入れる必要が無い、とされている。ただ、それでも味の改良自体は、今までもされてきて、尚あの苦みとえぐみを残したままなのだ。
ネリーの魔法薬は、その苦みとえぐみを減らすためだけに何度も試行錯誤を重ねたものである。前世、そして前前世の記憶があることもあって、それらの知識をふんだんに使い、どうにか今の飲みやすい味に変えることが出来た。
今の所、出来上がった魔法薬を渡す相手はセレストか、知り合いの騎士かくらいだが、どちらにも好評だ。
それ以外の相手には、渡していない。他の店に卸してもいない。――だからこそ、ネリーの母親は、それを使って、相手の気を引け、と言ってきているのだろう。
飲みやすい魔法薬。それが流通に乗れば、市場において高い価値を持つのは、想像に難く無い。
「……私の、魔法薬」
「そう。もし不安なら、一筆だけ添えてあげても良いけれど――でも、必要ないでしょう。ネリー、あなたなら、自分で道を切り開けるわ」
母親が笑う。ネリーは微かに瞬いた後、ゆっくりと頷いた。
試してみる価値は、あるのかもしれない。
そうして、すぐ、いくつかの改良した魔法薬と共に、ネリーは商人に手紙を送った。
返事はすぐに届いた。ネリーの魔法薬は金になると、手紙を出した商人たちはそう思ってくれたのだろう。ネリーはすぐに母親にそのことを伝え、そうして自身の販路を開拓すると共に、数人の商人へ独占的に魔法薬を卸すことの約束の代わりに、十年以上前に行われた鉱石の売買について、知っていることを教えて欲しい、と言葉を連ねた。
セレスト――青騎士に至った狼の獣人。少年でありながらも、その美貌は抜きん出ていたこともあり、手紙を送った商人の内の一人が、セレストのことを覚えていた。そして、どのような石を売ったかも。きちんと売買契約についてこまめに帳簿をつけていた商人らしく、魔法薬を卸す値段を少し安くする代わりに、その帳簿の石の部分だけ複写が欲しいことを伝える。そうして、一ヶ月以上もの月日をかけて、ようやく、ネリーの手元にその複写がやってきた。
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