謀殺された悪役令嬢は、前世の護衛騎士の幸せを見届けたい

うづき

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11-2.ものの行く先

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 そこから、鉱石を売ったらしい商人を仲介して同じように鉱石を購入し――今日、ようやく、ネリーの手元に宝石が届いた。セレストが購入した宝石と、同じ年に採掘されたとされる、小さな石ころのようなそれ。採掘年まで同じにする必要は無かったかもしれないが、採掘される年によって青の深みが変わる、とされていることもあり、万難を排するためにも同じものにした。

 届いた宝石は、小さな布製の袋の中に、柔らかな綿と一緒に詰められていた。ころんとしたフォルムのそれは、ロゼが何度も手の平で転がして、慈しんだものと同じ色をしている。
 もちろん、毒性なんてものは一切無い。むしろこれは、人々の安寧を守るための祈りと願いが捧げられた宝石なのだと言う。産出地ではお守りに近い扱いをされており、名前はフォグナイト、と言う。デイラシアの英雄であるフォッグを冠した名前だ。

 毒性は無いが、それでも鑑定して貰うことに意義があるので、ネリーは直ぐに鑑定士の元へ毒性の判別依頼を出した。王都で鑑定士を探すのはそこまで難しいことではなく、直ぐに見つかった。
 金銭と共に鉱石を差し出すと、鑑定士は少しばかり怪訝そうな顔をした。それもそのはずだろう、とネリーは思う。こんな鉱石に毒性なんて宿っているはずがないのだ。

 とにもかくにも、依頼自体は行ったわけで、受理もされた。
 恐らく数日中には、毒性の有無についての連絡が貰えるだろう。それをもって、セレストの石が毒性を持ったものではない、という言質は取れたと言うものだろう。本来なら、毒性を判断したらしい王家に仕えているであろう鑑定士を問いただしたいものだが、そこまで深く探ることは難しい。そもそも、王家の息がかかっているものが、ネリーに協力してくれるかどうかと言うと、答えは否と言うしかないだろう。

 様々なことを終えて、王都から家への帰り道、ネリーは少しばかり息を零す。
 次は――そう、ロゼがセレストを憎んではいない、ということを証明する何か。

 考える必要があるだろう。手紙を燃やしたこともあって、セレストはロゼが自分を憎みながら死んだのではないかと思い込んでいる。実際、そんなことはない。手紙を燃やしたのは、ロゼとセレストの親密な関係性がバレて、王家の魔の手がセレストに伸びるのをどうにかして止めたいが為だ。だが、その説明をするとしたら、ロゼがネリーであるということが確実にバレてしまう。

 ロゼがセレストを愛していた証明。すると決めたは良いものの、考えると中々難しい。手紙は燃やしてしまったし、――なんて、考えて、そう言えば、とネリーは思う。
 セレストの元には、ロゼの渡した手紙が全て残されているはずだ。
 確か中にはまあまあ色々な文面を書いていた思い出がある。正直、書いた先から文章なんて忘れていってしまいがちだが、それでも、今はなんとかして思い出さないと。

 最後にセレストに手紙を出したのは、確か遠征に向かう前だ。無事を祈って居る、というようなことを書いたはずである。そう、それと、あと、なんだったっけ。

 ぼんやりと考えている内にも、足は進み、自宅に到着する。少しばかり疲れ切った体に叱咤を入れながら、ネリーはゆっくりと扉を開いた。

「ただいま」
「おかえり、ネリー。果物を剥いているんだけど、食べる?」
「食べる! 食べたい!」

 脳が糖分を欲している。ネリーは直ぐに手を上げて、母親の元に急ぐ。
 ネリーがここずっと、色々なことをするために走り回っているのを見ていたのもあるからか、母親は少しばかり心配そうな表情で、けれど慈愛を滲ませながらネリーを歓待するように笑みを浮かべた。

「直ぐに用意するから。待っていて」
「ありがとう! 手伝うことはある?」
「ううん、ネリーは座っていて! 貴方、最近ずーっと走り回っていたり、立っていたり、じっとしていることが少ないんだから!」

 散々な言われようである。だが、母親の言葉は尤もなものだったので、ネリーは大人しく食卓を囲む椅子に腰を下ろした。
 少しもしないうちに、ネリーの目の前に切られた果物が運ばれてくる。

「本当はネリーみたいに、可愛らしい形に切れれば良かったのだけれど。少し難しくて」

 恐らくうさぎの形にしようとしたのだろう。シラクスの実が少しだけ残念な形になっている。

「ネリーは手先が器用よね。あんな風にシラクスの実を切る人なんて、私、ネリー以外に知らないもの」
「そうかな? お母さんも出来るよ、絶対に!」

 母親が風邪を引いた時に、シラクスの実を兎の形にしたことがある。その時の母親の喜びようときたら、凄かったものだ。こんな風に切るなんて! 可愛い! 凄い! どこで学んだの? なんて、矢継ぎ早に言葉を続けられて、まさか前世からこういう切り方をしていました、なんて言えるはずもなく笑って誤魔化した覚えがある。

 懐かしい思い出を脳裏で流しながら、ネリーはシラクスの実を一つ口に運ぶ。さっぱりとした甘さがじんわりと口の中に広がるのがわかった。美味しい。

「美味しい……」
「ネリー」

 ほう、と吐息を零す。それと同時に、ネリーの傍に母親が膝をついた。目線を合わせながら、そっとネリーの肩を撫でる。

「無茶や無理はしては駄目よ。ネリーの体は一つきりで、それを守ってあげられるのはネリーだけなのよ」
「――うん、ありがとう、お母さん」

 母親が小さく笑う。そうして、優しくネリーを抱きしめた後、ゆっくりと立ち上がった。そうしてさら、と頭を撫でるように指が動き、ゆっくりと離れていく。
 撫でられた場所が、ほのかに暖かい。まるで優しさを分けてもらったように熱を持つそこを、指先でそろそろと撫でながら、ネリーはそっと息を零した。

 そうして、ロゼの時も、こういうことがあったな、と思う。
 セレストの頭を撫でて、その体を抱きしめ、無事に戻ってくるようにと願い、祈ることがあった。ロゼにとってセレストは大切な存在だった。きっと、セレストにとっても、ロゼは同じような存在だっただろう。
 幸せになってほしいとお互いに祈るような存在。――どれほどの言葉を尽くせば、ロゼがセレストを愛していたことを、証明出来るだろうか。

 ぼんやりと考えながら、ネリーは小さく息を零す。例えば宝飾品を一つくらい残すとか、そういうことが出来れば良かったのだが。宝飾品の数々は全て売りに出してしまったし、恐らく全て鋳つぶされたり、違う人の手に既に渡っているだろう。それを今から取り返したりするのは難しい。
 だが、――それでも、例えば、どこへ向かったか、とか、それくらいのことを調べることは出来るかも、しれない。売った中には、もしかしたら買い手が付かずに放置されているものも、一つくらい、あるかも。

 宝飾品を売った商人のことは覚えている。王宮に出入り出来る存在となると、限られていることもあって、その商人とはロゼ個人、密接な繋がりがあった。その相手に、少し声をかけてみることは出来るだろうか。
 ――考える内に時間が過ぎていく。時間が足りない、と叫び出しそうになるのをネリーは必死で抑えながら、シラクスの実を口の中に放り込んだ。

 しゃくり、とした食感と共に、少しばかり酸味のある甘さが広がる。ネリーは思考の動きを止めずに、その味を楽しんだ。
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