謀殺された悪役令嬢は、前世の護衛騎士の幸せを見届けたい

うづき

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15-2.15年

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「そうだ、セレスト。ランタンを飛ばさないと」
「どうしてですか? ロゼ様はここにいるのに」

 ランタンは、亡くなった人を慰めるために、と空に飛ばされる。だからこそ、亡くなった人が好きだったものを描いたりすることが多い。
 セレストからすると、ロゼがここに居るのに、どうしてランタンを飛ばす必要があるのか、と言いたいのだろう。空にいると思っていた相手が、今ここに居るのだから。

「……折角可愛くお花を描いてくれたりしたのに。ねえ、ロゼ・デイラシアのために飛ばして」

 願い事をするように囁くと、セレストは僅かに眉根を寄せる。その視線をじっと見つめて、ネリーは言葉を続けた。

「一人で死んで行った、ロゼ・デイラシアのために」
「――今度は」

 セレストが首を振る。ランタンを手に取り、そうしてゆっくりと息を吐いた。外で飛ばすのだろう。ランタンと共に、ネリーの体を抱き上げて、歩き始める。
 十五歳なんですけれど、と言う言葉は胸の奥に仕舞い込みながら、ネリーはセレストと共に外へ出た。暗闇の幕がかかりかけた空には、既に多くのランタンが空を飛んでいる。もう少し暗くなったら、更に沢山のランタンが、空を埋め尽くすだろう。

 セレストが、ランタンの中に魔法で炎を灯す。薄い紙を通して、それがぼんやりとネリーの頬を照らした。手を離すと、ゆっくりとそれが浮き上がっていく。少しもしないうちに、沢山ある光芒の内の一つになってしまった。
 その行方を見つめるように、ネリーは目を細める。同じようにセレストが空を見上げ、そうして唇を開いた。

「今度は、俺が……必ず、お供します」

 紡がれた言葉に、ネリーは瞬く。そうしてから、「何を言っているの」と、セレストの額をぱしりと軽く叩いた。
 叩かれるとは思っても見なかったのだろう、セレストは少しばかり驚いたような顔をして、困ったように耳を垂らす。その様子を眺めながら、ネリーは小さく笑った。

「お供なんてしなくていいよ。セレストは、セレストの人生を生きて欲しいの」
「……俺は、ロゼ様。ロゼ様の、傍に居たいです」
「私はロゼであって、ロゼじゃない。ネリーだよ。魔法薬士の子ども、ネリー」

 だから無理にネリーに付き合うつもりはない。そう思って発した言葉だったのだが、セレストからすると拒否されたように感じたらしい。露草色の瞳が僅かに揺れて、「わかっています」と静かに言葉を続けるのが聞こえる。

「俺は、……貴方の、傍に居たいんです」
「本当にわかってるの? 私、十五歳だよ。セレストよりも十四歳も年下なんだから。セレストにはもっと……」
「貴方が良いんです」

 セレストがかぶせるように言葉を続けた。そうして、ネリーのことをじっと見つめる。
 どこまでもひたむきな感情だった。それが直接向かってくると、少しばかり、気恥ずかしさのようなものを覚えてしまう。真っ直ぐに見つめてくるセレストの視線を感じながら、ネリーはそっと息を零す。

「運命の番が現れるかもしれないよ」
「俺の、運命のひとは、貴方です」

 静かにセレストが言葉を続ける。多分、これ以上ネリーが何を言おうと、セレストは言葉を尽くしてネリーの傍に居ようとするだろう。それが想像出来た。だからこそ、ネリーは口を噤む。そうして、ふ、と小さく息を零して笑った。

 セレストは少しだけ頑固な所があった。それは今も昔も、変わらない。

「変わらないなあ、セレスト」
「……ロゼ様も、変わりません」
「ロゼ様、って、二人きりの時以外は呼んだら駄目だよ」

 セレストが小さく頷く。そうして、頬を赤らめて、「傍に誰かがいるときはネリー、と」と囁くように続けた。
 まるで内緒話をするように、そっと顔を寄せ合って、小さく笑う。
 ……ネリーは、セレストが、幸せになっているところを見たいと思った。

 ――けれど、セレストがネリーを望んでくれるなら。ロゼの傍に居たいと、思ってくれるなら。
 愛していたという事実を知って、石が無毒であったことを確認した今も、そう思ってくれるなら。
 今の人生も、共に居たいと思う気持ちは、ネリーも同じだった。

 だから、ネリーはセレストの首に腕を回し、そのままゆっくりと抱きしめる。
 柔らかなにおいがする。セレストのにおいだ。ネリーの体を、抱きしめている手に力が入る。

「……そんなにわかりやすかったかな、私」
「少しだけ。……ただ、古代文字が一番の決め手でした」
「じゃあ、それさえ無かったら気付かなかった?」
「――いいえ、いずれ、必ず。気付いていたと思います。少し時間がかかっても、必ず」

 だって、とセレストは続けた。

「ネリーは――どうしようもなく、ロゼ様に、似ていたから」

 吹く風に、なびく梢に、綻ぶ花に、ロゼを探そうとするセレストは、今日で居なくなる。似ていたというのは、姿形が、ということではないのだろう。実際、前世のロゼと今のネリーを比べてみても、全く違う所ばかりが目に付く。
 けれど、そう、セレストが言うように――きっと、いずれ、必ず、見つけられていたのだろうな、と思う。

 セレストの背中に指先を回す。同じように、ネリーの体をセレストが抱きしめる。
 そうして、二人で、長い間抱きしめ合っていた。
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