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 誰にも相談できず、レナータの悩みは深刻になっていった。
 思春期に入ったルーカスもまた剣の才能がないことに悩んでいた。
 子どものころは皆の愛情でごまかせてきたことも、学園生活では詳らかになってしまう。

 そんなルーカスが気の毒で、レナータはついついルーカスを甘やかしてしまった。
 欲しがるものはすべて買い与えた。
 その中のひとつが、画材だった。
 ルーカスには剣ではなく、絵の才能があった。

(筆を与えたのは私なのに、諦めずに剣を持てと言い続けたのも私……)

 相反する二つのことに苦しんだのは、むしろルーカスだろう。
 それを思うと、レナータはますます追い詰められていった。

 死んでもいいから、もう一人子どもを産みたいとラッセルに願っても却下され、妾を持って欲しいと伝えれば叱られた。
 このころにはラッセルにルーカスの今後を相談しても「本人次第」という言葉しか返ってこなくなっていた。
 そのくせ陰では事あるごとにルーカスの剣術についてブラッドリーと悩み、相談し合っていた。


 そしてそれを、レナータには何一つ漏らさない。
 この家の誰もがそうだった。
 レナータを尊重し、後継問題に口をつぐむ。
 ブラッドリーは騎士団長を退いてもなお、伯爵位を継ぐ者を指名しない。
 ラッセルを指名してしまえば、いよいよルーカスの将来について決断を迫られるからだ。

 ルーカスはルーカスで、学園で「本当にあのカヌレ家?」と陰口を叩かれ、心が荒み、使用人やレナータに当たるようになっていった。
 なんとか学園には通いきったものの、卒業を迎えるころにはすっかり拗らせていた。

 そんなルーカスを見ても、カヌレ家の才能ある人たちは『何も言わない』。


 ラッセルはそんなレナータとルーカスを、決して雑に扱わない。
 それどころかより一層、愛する妻と、その子どもとして尊重してくる。
 定期的にレナータを観劇や食事に連れ出し、ルーカスの稽古に付き合い、ルーカスに少しでも成長があれば褒めていた。

 ルーカスを励まし、支える姿は美しかったし、レナータは何度もラッセルに感謝の言葉をのべた。
 もちろん本音ではあったが、いつもどこかでそれを申し訳なく感じていた。

 口数は少ないラッセルだが、レナータを愛してくれる。

 その優しさが……だんだんと、辛くなってくる。
 いっそ冷遇してくれればと願っても、彼はいつだって正しくて、理想の夫であり、父だった。

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