6 / 68
伯爵令嬢は悪役令嬢を応援したい!
リアム(2)
しおりを挟む
婚約者不在のレオンハルトには、立太子するためにも、世継ぎのためにも婚姻を求める声が多くあった。
目立った功績のないジークハルトは、優秀な婚約者がいたものの本人の評判が悪かった。甘やかされた第二王子、無能の第二王子、顔だけのお荷物王子――向けられていた悪意はキリがないほどだった。レオンハルトを推す勢力からが殆どではあったが。
リアムもアルフレッドも、ジークハルトの功績作りに協力しようとしたが、ジークハルト自身がそれを拒んだ。
「俺に力がなくて……すまない」
「リアムひとりでどうこうできるものじゃなかったんだし、仕方ないよ」
「それは、そうなんだが……」
「ジークには散々手を差し伸べてた人がいたんだよ。ヒースのお父さんとか」
リアムは目を伏せた。
ジークハルトには騎士の才能があった。王子が騎士というのも難しいかもしれないが、実績作りという意味ではやりようはあった。それがわかっていたヒースの父である騎士団長に、幾度となく騎士団へ誘われていた。
それ以上にレオンハルトが騎士顔負けの強さだったせいで説得が上手くいかなかったのだ。
「……そうだな……ありがとう」
「うわぁ、気持ち悪い」
励まそうとしているアルフレッドの心に救われて言った言葉を茶化されて、リアムは盛大にため息をついた。
「マリア嬢も変な子だよね。小説を真似たんだろうけど、ジークだけじゃなく僕たちまで落とそうとして。計画のために気のある素振りをしなくちゃいけなくなって、ほんと不愉快だった」
いつも笑顔のアルフレッドから笑みが消えた。
「あれは仕込みなの?」
ジークハルトを留学させ、ヴァレンティーナをレオンハルトの婚約者にするという計画は、学園への入学前から決まっていたのではないかと思われた。
都合がよすぎるタイミングで現れたマリアを疑い、リアムも可能な限り調べた。
「偶然だと思う」
「そう」
「ただ……」
「……」
「婚約破棄小説が流行ったのは偶然じゃないと思う」
「そっかー。そういえばエミーリアが流行り出した頃言ってたんだよねー。こんな王子を侮辱した小説、普通なら流行るはずないって。その前に検閲されるって」
エミーリアは幼い頃から才女と呼ばれ、語学が堪能なだけでなく歴史や経済など幅広く学んでいる。おそらく帝王学も。今回の計画に最初から気付いていたのは、令嬢の中ではエミーリアだったはずだ。
もしエミーリアがヴァレンティーナより一年でも早く生まれていたら、レオンハルトの婚約者はエミーリアだった可能性が高い。
金髪碧眼の宗教画のような美少女のヴァレンティーナと、銀髪に菫色の瞳の涼やかな美少女のエミーリア。見目麗しく才気溢れる子供が多く誕生したリアムたちの世代は、至宝の年と呼ばれている。
王妃の懐妊発覚後、側近候補を作るべく空前のベビーブームが訪れた結果だった。
「ヴァレンティーナ嬢も気の毒だよ」
「……そうだな」
ヴァレンティーナは明らかに、王妃教育を受けさせられていた。
最初から王太子妃のスペアとして囲われていたのだろう。
王家にしてみれば、レオンハルトの婚約者が亡くなったあと、直ぐにでもヴァレンティーナを婚約者にしたかったはずだ。
けれども、ジークハルトとの婚約を解消させる理由がなかった。
当然だ。
ジークハルトはつい最近まで、評判や実績がどうであろうと王子然としていたし、素行が悪いわけではなかった。
「親世代は婚約破棄小説を利用してるつもりかもしれないけど、一度作った流れは消せないよ」
「あぁ。俺たちの子世代は貴族も恋愛結婚が主流になるだろうな」
「そこも狙ってたりして?」
「だとしたら、恋愛すら親の匙加減でコントロールできると思っているんだろうな。ある程度遊ばせて発散させるのも狙いか」
リアムがそう言うと、アルフレッドは馬鹿にした顔をした。
「コントロールできないから政略で縛ってたのに」
「確かに。その結果、これからはモテる男に令嬢が集中して、モテない男はあぶれるだろう。男性優位だった結婚は、女性に選ばれるようになるんだろうな」
それでいいんじゃないか。
親世代も、無理に引き裂かれて政略結婚した挙句、冷えた結婚が嫌になって外で愛人を作って……そんな話ばかりだ。
流行を追うようにして現れた逆襲小説がそれを物語っている。
自分の人生を自分で切り開く彼女たちは、生き方も、共に歩く相手も、自分で選んでいた。
きっとこれからは、そういう時代になる。
これもまた、父の真の狙いのひとつだろう。
アリシアとの結婚が早まったのも、その流れを止められないのがわかっていたから。
貴族らしく囲ってしまえと――
「あーあ。政略結婚で良かった」
「お前はあぶれないだろ、俺と違って」
「リアムがそれ言う?」
「俺みたいなつまらん男なんか真っ先にあぶれるだろ」
静かになったアルフレッドから目を逸らすと、再びその熱を失ってしまった紅茶に口をつけた。
「俺は……政略でも恋愛でも何でもいい。アリシアと結婚できるなら」
目立った功績のないジークハルトは、優秀な婚約者がいたものの本人の評判が悪かった。甘やかされた第二王子、無能の第二王子、顔だけのお荷物王子――向けられていた悪意はキリがないほどだった。レオンハルトを推す勢力からが殆どではあったが。
リアムもアルフレッドも、ジークハルトの功績作りに協力しようとしたが、ジークハルト自身がそれを拒んだ。
「俺に力がなくて……すまない」
「リアムひとりでどうこうできるものじゃなかったんだし、仕方ないよ」
「それは、そうなんだが……」
「ジークには散々手を差し伸べてた人がいたんだよ。ヒースのお父さんとか」
リアムは目を伏せた。
ジークハルトには騎士の才能があった。王子が騎士というのも難しいかもしれないが、実績作りという意味ではやりようはあった。それがわかっていたヒースの父である騎士団長に、幾度となく騎士団へ誘われていた。
それ以上にレオンハルトが騎士顔負けの強さだったせいで説得が上手くいかなかったのだ。
「……そうだな……ありがとう」
「うわぁ、気持ち悪い」
励まそうとしているアルフレッドの心に救われて言った言葉を茶化されて、リアムは盛大にため息をついた。
「マリア嬢も変な子だよね。小説を真似たんだろうけど、ジークだけじゃなく僕たちまで落とそうとして。計画のために気のある素振りをしなくちゃいけなくなって、ほんと不愉快だった」
いつも笑顔のアルフレッドから笑みが消えた。
「あれは仕込みなの?」
ジークハルトを留学させ、ヴァレンティーナをレオンハルトの婚約者にするという計画は、学園への入学前から決まっていたのではないかと思われた。
都合がよすぎるタイミングで現れたマリアを疑い、リアムも可能な限り調べた。
「偶然だと思う」
「そう」
「ただ……」
「……」
「婚約破棄小説が流行ったのは偶然じゃないと思う」
「そっかー。そういえばエミーリアが流行り出した頃言ってたんだよねー。こんな王子を侮辱した小説、普通なら流行るはずないって。その前に検閲されるって」
エミーリアは幼い頃から才女と呼ばれ、語学が堪能なだけでなく歴史や経済など幅広く学んでいる。おそらく帝王学も。今回の計画に最初から気付いていたのは、令嬢の中ではエミーリアだったはずだ。
もしエミーリアがヴァレンティーナより一年でも早く生まれていたら、レオンハルトの婚約者はエミーリアだった可能性が高い。
金髪碧眼の宗教画のような美少女のヴァレンティーナと、銀髪に菫色の瞳の涼やかな美少女のエミーリア。見目麗しく才気溢れる子供が多く誕生したリアムたちの世代は、至宝の年と呼ばれている。
王妃の懐妊発覚後、側近候補を作るべく空前のベビーブームが訪れた結果だった。
「ヴァレンティーナ嬢も気の毒だよ」
「……そうだな」
ヴァレンティーナは明らかに、王妃教育を受けさせられていた。
最初から王太子妃のスペアとして囲われていたのだろう。
王家にしてみれば、レオンハルトの婚約者が亡くなったあと、直ぐにでもヴァレンティーナを婚約者にしたかったはずだ。
けれども、ジークハルトとの婚約を解消させる理由がなかった。
当然だ。
ジークハルトはつい最近まで、評判や実績がどうであろうと王子然としていたし、素行が悪いわけではなかった。
「親世代は婚約破棄小説を利用してるつもりかもしれないけど、一度作った流れは消せないよ」
「あぁ。俺たちの子世代は貴族も恋愛結婚が主流になるだろうな」
「そこも狙ってたりして?」
「だとしたら、恋愛すら親の匙加減でコントロールできると思っているんだろうな。ある程度遊ばせて発散させるのも狙いか」
リアムがそう言うと、アルフレッドは馬鹿にした顔をした。
「コントロールできないから政略で縛ってたのに」
「確かに。その結果、これからはモテる男に令嬢が集中して、モテない男はあぶれるだろう。男性優位だった結婚は、女性に選ばれるようになるんだろうな」
それでいいんじゃないか。
親世代も、無理に引き裂かれて政略結婚した挙句、冷えた結婚が嫌になって外で愛人を作って……そんな話ばかりだ。
流行を追うようにして現れた逆襲小説がそれを物語っている。
自分の人生を自分で切り開く彼女たちは、生き方も、共に歩く相手も、自分で選んでいた。
きっとこれからは、そういう時代になる。
これもまた、父の真の狙いのひとつだろう。
アリシアとの結婚が早まったのも、その流れを止められないのがわかっていたから。
貴族らしく囲ってしまえと――
「あーあ。政略結婚で良かった」
「お前はあぶれないだろ、俺と違って」
「リアムがそれ言う?」
「俺みたいなつまらん男なんか真っ先にあぶれるだろ」
静かになったアルフレッドから目を逸らすと、再びその熱を失ってしまった紅茶に口をつけた。
「俺は……政略でも恋愛でも何でもいい。アリシアと結婚できるなら」
1
あなたにおすすめの小説
残念な顔だとバカにされていた私が隣国の王子様に見初められました
月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
公爵令嬢アンジェリカは六歳の誕生日までは天使のように可愛らしい子供だった。ところが突然、ロバのような顔になってしまう。残念な姿に成長した『残念姫』と呼ばれるアンジェリカ。友達は男爵家のウォルターただ一人。そんなある日、隣国から素敵な王子様が留学してきて……
傾国の王女は孤独な第一王子を溺愛したい
あねもね
恋愛
傾国の王女と評判のオルディアレス王国の第一王女フィオリーナが、ラキメニア王国の第一王子、クロードに嫁ぐことになった。
しかし初夜にクロードから愛も華やかな結婚生活も期待しないでくれと言われる。第一王子でありながら王太子ではないクロードも訳ありのようで……。
少々口達者で、少々居丈高なフィオリーナが義母である王妃や使用人の嫌がらせ、貴族らの好奇な目を蹴散らしながら、クロードの心をもぎ取っていく物語。
婚約破棄で異世界転生を100倍楽しむ方法 ‐漫画喫茶は教育機関ではありません‐
ふわふわ
恋愛
王太子エランから、
「君は優秀すぎて可愛げがない」
――そう告げられ、あっさり婚約破棄された公爵令嬢アルフェッタ。
だが彼女は動揺しなかった。
なぜなら、その瞬間に前世の記憶を取り戻したからだ。
(これが噂の異世界転生・婚約破棄イベント……!)
(体験できる人は少ないんだし、全力で楽しんだほうが得ですわよね?)
復讐? ざまぁ?
そんなテンプレは後回し。
自由になったアルフェッタが始めたのは、
公爵邸ライフを百倍楽しむこと――
そして、なぜか異世界マンガ喫茶。
文字が読めなくても楽しめる本。
売らない、複製しない、教えない。
料金は「気兼ねなく使ってもらうため」だけ。
それは教育でも改革でもなく、
ただの趣味の延長だったはずなのに――
気づけば、世界の空気が少しずつ変わっていく。
ざまぁを忘れた公爵令嬢が、
幸運も不幸もひっくるめて味わい尽くす、
“楽しむこと”がすべての異世界転生スローライフ譚。
※漫画喫茶は教育機関ではありません。
ワザとダサくしてたら婚約破棄されたので隣国に行きます!
satomi
恋愛
ワザと瓶底メガネで三つ編みで、生活をしていたら、「自分の隣に相応しくない」という理由でこのフッラクション王国の王太子であられます、ダミアン殿下であらせられます、ダミアン殿下に婚約破棄をされました。
私はホウショウ公爵家の次女でコリーナと申します。
私の容姿で婚約破棄をされたことに対して私付きの侍女のルナは大激怒。
お父様は「結婚前に王太子が人を見てくれだけで判断していることが分かって良かった」と。
眼鏡をやめただけで、学園内での手の平返しが酷かったので、私は父の妹、叔母様を頼りに隣国のリーク帝国に留学することとしました!
目覚めたら魔法の国で、令嬢の中の人でした
エス
恋愛
転生JK×イケメン公爵様の異世界スローラブ
女子高生・高野みつきは、ある日突然、異世界のお嬢様シャルロットになっていた。
過保護すぎる伯爵パパに泣かれ、無愛想なイケメン公爵レオンといきなりお見合いさせられ……あれよあれよとレオンの婚約者に。
公爵家のクセ強ファミリーに囲まれて、能天気王太子リオに振り回されながらも、みつきは少しずつ異世界での居場所を見つけていく。
けれど心の奥では、「本当にシャルロットとして生きていいのか」と悩む日々。そんな彼女の夢に現れた“本物のシャルロット”が、みつきに大切なメッセージを託す──。
これは、異世界でシャルロットとして生きることを託された1人の少女の、葛藤と成長の物語。
イケメン公爵様とのラブも……気づけばちゃんと育ってます(たぶん)
※他サイトに投稿していたものを、改稿しています。
※他サイトにも投稿しています。
婚約破棄されたので隣国で働きます ~追放侯爵令嬢、才覚だけで王妃候補に成り上がる~
鷹 綾
恋愛
内容紹介
王宮改革は、英雄の一声では成し遂げられない。
王太子に招かれ、王宮顧問として改革に携わることになった
ルビー・エルヴェール。
彼女が選んだ道は、力で押し切る改革でも、敵を断罪する粛清でもなかった。
評価制度の刷新、情報公開、説明責任、緊急時の判断、責任の分配――
一つひとつの制度は正しくても、人の恐れや保身が、改革を歪めていく。
噂に揺れ、信頼が試され、
「正しさ」と「速さ」、
「個人の覚悟」と「組織の持続性」が、幾度も衝突する。
それでもルビーは、問い続ける。
――制度は、誰のためにあるのか。
――信頼とは、守るものか、耐えるものか。
――改革者は、いつ去るべきなのか。
やがて彼女は、自らが築いた制度が
自分なしでも動き始めたことを確かめ、静かに王宮を去る。
残されたのは、名前の残らない改革。
英雄のいない成功。
だが確かに「生き続ける仕組み」。
これは、
誰かが称えられるための物語ではない。
考えることを許し、責任を分かち合う――
その文化を残すための、40話の改革譚。
静かで、重く、そして誠実な
“大人のための王宮改革ファンタジー”。
望まぬ結婚をさせられた私のもとに、死んだはずの護衛騎士が帰ってきました~不遇令嬢が世界一幸せな花嫁になるまで
越智屋ノマ
恋愛
「君を愛することはない」で始まった不遇な結婚――。
国王の命令でクラーヴァル公爵家へと嫁いだ伯爵令嬢ヴィオラ。しかし夫のルシウスに愛されることはなく、毎日つらい仕打ちを受けていた。
孤独に耐えるヴィオラにとって唯一の救いは、護衛騎士エデン・アーヴィスと過ごした日々の思い出だった。エデンは強くて誠実で、いつもヴィオラを守ってくれた……でも、彼はもういない。この国を襲った『災禍の竜』と相打ちになって、3年前に戦死してしまったのだから。
ある日、参加した夜会の席でヴィオラは窮地に立たされる。その夜会は夫の愛人が主催するもので、夫と結託してヴィオラを陥れようとしていたのだ。誰に救いを求めることもできず、絶体絶命の彼女を救ったのは――?
(……私の体が、勝手に動いている!?)
「地獄で悔いろ、下郎が。このエデン・アーヴィスの目の黒いうちは、ヴィオラ様に指一本触れさせはしない!」
死んだはずのエデンの魂が、ヴィオラの体に乗り移っていた!?
――これは、望まぬ結婚をさせられた伯爵令嬢ヴィオラと、死んだはずの護衛騎士エデンのふしぎな恋の物語。理不尽な夫になんて、もう絶対に負けません!!
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる