【完結】伯爵令嬢は悪役令嬢を応援したい!~サファスレート王国の婚約事情~

佐倉えび

文字の大きさ
5 / 68
伯爵令嬢は悪役令嬢を応援したい!

リアム(1)

しおりを挟む
 



 リアムは、書類の束を机に投げ出すと、冷めた紅茶に口をつけた。グラント公爵家の紅茶は冷めても美味しいが、香りは落ちてしまっていた。
 向かいに座っていたアルフレッドが茶色の人懐っこい瞳を輝かせている。

「荒れてるねぇ~」

 ニヤニヤと笑いながらも、侍女を呼んで新しい紅茶を出してくれた。それは嬉しいのだが「何か食べる物も持ってきてね」と侍女にかける声があまりにも呑気だったので思わず睨んでしまった。

「怖っ!! そんなにイラつくぐらいならアリシアちゃんにネタばらししちゃえばいいのに」
「できたらしている」

 リアムが吐き捨てるように言うと、アルフレッドは肩をすくめた。

「僕だってエミーリアに会えてないんだから当たるならジークかヒースにしてよ」
「それもできたらしている」
「こんな余裕のないリアムはじめて見た!」
「うるさい!! 無駄口叩く暇あったら手伝え」 
「横暴!! 手伝ってるよね!? ここどこかわかってる?」
「アルフの私室だが、それがどうかしたか? 誕生会の手配があるから仕方なしに来ているというのに」

 睨みながら言えば、アルフレッドは渋々書類を手に取った。誕生会なんて年齢じゃないから嫌なのにと、ぶつくさ文句を言っている。
 リアムも新しく出された紅茶を飲みながら再度、書類を手に取った。

 急遽行われる誕生会のみならず、ジークハルトとヒースの留学手続きと、ジークハルトと共にデオギニアへ行く者たちの準備など、リアムの父である宰相から割り振られた業務とそれに伴う書類は膨大だった。
 更には本来なら、卒業後一年を経てから行われるはずだった四人の令嬢の早まる結婚、それに伴う根回しと口止め。

 マリアがジークハルトに近付いた時、リアムは二人が親密にならないよう配慮していたが、ジークハルトの護衛から報告を受けているはずの王家はこれを放置した。リアムは即座に、王家がマリアを利用するつもりだということに気付いていた。

『このままその令嬢を利用し、ジークハルト殿下には頃合いで留学していただく』

 父から聞かされた内容は予想通り、最近流行りの婚約破棄を利用した計画だった。

 婚約破棄小説に感化された貴族の子息たちが、真実の愛を見つけたからと婚約破棄を言い出す。
 学園では、その流れに便乗して、令嬢たちにとって沿婚約を破棄させる家が多発した。

 爵位の低いほうからの婚約解消は不可能なため、これまでは仕方なく結婚するしかなかった令嬢たちは、傷物などという不名誉な称号と引き換えに、望まない婚約から逃れられることができる――というのが、婚約破棄騒動の真実だが――ヴァレンティーナとジークハルトに限っては、レオンハルトと婚約させたいという王家の都合のみだ。そこにヴァレンティーナの意思はない。

「大人たちもズルいよね。こんな傷つけるようなやり方しなくたって、他にいくらでもやりようがあったのに」

 そう言って、アルフレッドは運ばれてきたサンドイッチを頬張った。リアムは紅茶を飲みながら頷いた。

 二人の王子の母親であった王妃は、ジークハルトを出産した時に亡くなってしまった。
 その時、十歳だったレオンハルトは、隣国のデオギニアの医療が進んでいることを知り留学を決意する。飛び級で学園を卒業したのが十六歳のとき。その後四年ほど留学したあと、帰国して二つ年下の婚約者といざ結婚という時に、今度は婚約者を流行病で亡くしてしまった。医療改革が間に合わなかったのだ。

 ジークハルトは母親を知らず、その事を不憫に思う周囲に甘やかされ、多忙な父と兄に構われることなく、緩やかに拗らせた。多感な時期に王に愛妾ができたことにより悪化した。一見するとわからないよう取り繕ってもいたので、かえって質が悪かったともいえる。

「リアムはさぁ、アリシアちゃんに誤解されてるのも辛いんだろうけど、ジークを救えなかったこと、後悔してるんでしょ?」

 サンドイッチに手を伸ばしたリアムの手が止まった。
 アルフレッドは癖の強いフワフワの髪を揺らして、寂しそうに笑った。

 自分の無力さに、リアムは唇を噛み締めた。
 父の決定を覆せず、悪役になろうとするジークハルトを止められなかった。

「ジークは馬鹿じゃない。最初はマリア嬢のこともやんわり遠ざけていた。リアムが気付いたように、ジークも計画に気付いた。当然だよね。マリア嬢は、王家からしたら何の価値もないのに横槍がはいらないんだもん。僕はね、大人たちのやり方も、それに乗ったジークも、どちらも気にくわないよ。憤ってる。それでも、ジークがそれを選んだのなら……友として最後まで付き合うよ」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

残念な顔だとバカにされていた私が隣国の王子様に見初められました

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
公爵令嬢アンジェリカは六歳の誕生日までは天使のように可愛らしい子供だった。ところが突然、ロバのような顔になってしまう。残念な姿に成長した『残念姫』と呼ばれるアンジェリカ。友達は男爵家のウォルターただ一人。そんなある日、隣国から素敵な王子様が留学してきて……

傾国の王女は孤独な第一王子を溺愛したい

あねもね
恋愛
傾国の王女と評判のオルディアレス王国の第一王女フィオリーナが、ラキメニア王国の第一王子、クロードに嫁ぐことになった。 しかし初夜にクロードから愛も華やかな結婚生活も期待しないでくれと言われる。第一王子でありながら王太子ではないクロードも訳ありのようで……。 少々口達者で、少々居丈高なフィオリーナが義母である王妃や使用人の嫌がらせ、貴族らの好奇な目を蹴散らしながら、クロードの心をもぎ取っていく物語。

婚約破棄で異世界転生を100倍楽しむ方法 ‐漫画喫茶は教育機関ではありません‐

ふわふわ
恋愛
王太子エランから、 「君は優秀すぎて可愛げがない」 ――そう告げられ、あっさり婚約破棄された公爵令嬢アルフェッタ。 だが彼女は動揺しなかった。 なぜなら、その瞬間に前世の記憶を取り戻したからだ。 (これが噂の異世界転生・婚約破棄イベント……!) (体験できる人は少ないんだし、全力で楽しんだほうが得ですわよね?) 復讐? ざまぁ? そんなテンプレは後回し。 自由になったアルフェッタが始めたのは、 公爵邸ライフを百倍楽しむこと―― そして、なぜか異世界マンガ喫茶。 文字が読めなくても楽しめる本。 売らない、複製しない、教えない。 料金は「気兼ねなく使ってもらうため」だけ。 それは教育でも改革でもなく、 ただの趣味の延長だったはずなのに―― 気づけば、世界の空気が少しずつ変わっていく。 ざまぁを忘れた公爵令嬢が、 幸運も不幸もひっくるめて味わい尽くす、 “楽しむこと”がすべての異世界転生スローライフ譚。 ※漫画喫茶は教育機関ではありません。

ワザとダサくしてたら婚約破棄されたので隣国に行きます!

satomi
恋愛
ワザと瓶底メガネで三つ編みで、生活をしていたら、「自分の隣に相応しくない」という理由でこのフッラクション王国の王太子であられます、ダミアン殿下であらせられます、ダミアン殿下に婚約破棄をされました。  私はホウショウ公爵家の次女でコリーナと申します。  私の容姿で婚約破棄をされたことに対して私付きの侍女のルナは大激怒。  お父様は「結婚前に王太子が人を見てくれだけで判断していることが分かって良かった」と。  眼鏡をやめただけで、学園内での手の平返しが酷かったので、私は父の妹、叔母様を頼りに隣国のリーク帝国に留学することとしました!

目覚めたら魔法の国で、令嬢の中の人でした

エス
恋愛
転生JK×イケメン公爵様の異世界スローラブ 女子高生・高野みつきは、ある日突然、異世界のお嬢様シャルロットになっていた。 過保護すぎる伯爵パパに泣かれ、無愛想なイケメン公爵レオンといきなりお見合いさせられ……あれよあれよとレオンの婚約者に。 公爵家のクセ強ファミリーに囲まれて、能天気王太子リオに振り回されながらも、みつきは少しずつ異世界での居場所を見つけていく。 けれど心の奥では、「本当にシャルロットとして生きていいのか」と悩む日々。そんな彼女の夢に現れた“本物のシャルロット”が、みつきに大切なメッセージを託す──。 これは、異世界でシャルロットとして生きることを託された1人の少女の、葛藤と成長の物語。 イケメン公爵様とのラブも……気づけばちゃんと育ってます(たぶん) ※他サイトに投稿していたものを、改稿しています。 ※他サイトにも投稿しています。

婚約破棄されたので隣国で働きます ~追放侯爵令嬢、才覚だけで王妃候補に成り上がる~

鷹 綾
恋愛
内容紹介 王宮改革は、英雄の一声では成し遂げられない。 王太子に招かれ、王宮顧問として改革に携わることになった ルビー・エルヴェール。 彼女が選んだ道は、力で押し切る改革でも、敵を断罪する粛清でもなかった。 評価制度の刷新、情報公開、説明責任、緊急時の判断、責任の分配―― 一つひとつの制度は正しくても、人の恐れや保身が、改革を歪めていく。 噂に揺れ、信頼が試され、 「正しさ」と「速さ」、 「個人の覚悟」と「組織の持続性」が、幾度も衝突する。 それでもルビーは、問い続ける。 ――制度は、誰のためにあるのか。 ――信頼とは、守るものか、耐えるものか。 ――改革者は、いつ去るべきなのか。 やがて彼女は、自らが築いた制度が 自分なしでも動き始めたことを確かめ、静かに王宮を去る。 残されたのは、名前の残らない改革。 英雄のいない成功。 だが確かに「生き続ける仕組み」。 これは、 誰かが称えられるための物語ではない。 考えることを許し、責任を分かち合う―― その文化を残すための、40話の改革譚。 静かで、重く、そして誠実な “大人のための王宮改革ファンタジー”。

望まぬ結婚をさせられた私のもとに、死んだはずの護衛騎士が帰ってきました~不遇令嬢が世界一幸せな花嫁になるまで

越智屋ノマ
恋愛
「君を愛することはない」で始まった不遇な結婚――。 国王の命令でクラーヴァル公爵家へと嫁いだ伯爵令嬢ヴィオラ。しかし夫のルシウスに愛されることはなく、毎日つらい仕打ちを受けていた。 孤独に耐えるヴィオラにとって唯一の救いは、護衛騎士エデン・アーヴィスと過ごした日々の思い出だった。エデンは強くて誠実で、いつもヴィオラを守ってくれた……でも、彼はもういない。この国を襲った『災禍の竜』と相打ちになって、3年前に戦死してしまったのだから。 ある日、参加した夜会の席でヴィオラは窮地に立たされる。その夜会は夫の愛人が主催するもので、夫と結託してヴィオラを陥れようとしていたのだ。誰に救いを求めることもできず、絶体絶命の彼女を救ったのは――? (……私の体が、勝手に動いている!?) 「地獄で悔いろ、下郎が。このエデン・アーヴィスの目の黒いうちは、ヴィオラ様に指一本触れさせはしない!」 死んだはずのエデンの魂が、ヴィオラの体に乗り移っていた!?  ――これは、望まぬ結婚をさせられた伯爵令嬢ヴィオラと、死んだはずの護衛騎士エデンのふしぎな恋の物語。理不尽な夫になんて、もう絶対に負けません!!

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

処理中です...