【完結】伯爵令嬢は悪役令嬢を応援したい!~サファスレート王国の婚約事情~

佐倉えび

文字の大きさ
19 / 68
【番外編】ヒロインの髪がピンクだなんて知らなかった

(4)

しおりを挟む

 次の日、わたしたち家族全員は、グラント公爵家の家族用の使用人部屋にいた。使用人部屋とはいえ、今まで住んでいた部屋の三倍はある。三部屋もある上に、とても清潔で明るい部屋だ。

 アルフさんが、アルフレッド・グラントという名の公爵令息だと知ったのは、屋敷に連れて来られてからだった。
 わたしは、グラント公爵家でメイドとして働かせてもらえることになり、弟妹と一緒に読み書きなどの勉強も教えてもらえることになった。とても嬉しい。
 父は馬屋番を、母はキッチンの下働きをさせてもらっている。本当にありがたいことだ。感謝してもしきれない。

 パン屋のご主人は未遂ということで一週間ほど騎士団に留め置かれ、反省させ、再犯させないようキツイお仕置きをされたとか。軽い刑罰でごめんね、粘ったけれどこれ以上は無理だったとアルフレッド様に謝られた。結果はどうあれ、パン屋で働かせてもらえなかったらご飯が食べられなかったのでいいです、と言ったらアルフレッド様が哀しそうな顔をした。

 事件から三週間が経ち、グラント公爵家の雰囲気にもようやく慣れてきた。最初は全てが豪華過ぎて緊張してしまい、邸内を歩くだけでも汗がとまらなくて困ってしまった。慣れるしかないと先輩たちに励まされて耐えたが、仕事が終わると毎日気絶するように眠った。

 そんな最初のころを懐かしみながら、掃除場所へ向かう。廊下の角を曲がったところで、今日も笑顔の美しいアルフレッド様に会った。

「サヤちゃん! だいぶ顔色いいね!」
「ありがとうございます。アルフレッド様のおかげです」
「やだなー、アルフでいいのに」
「恐れ多いことです」
「まぁいっか、爺に怒られても困るしね?」

 アルフレッド様は片目をパチンと閉じた。その仕草に思わず頬を熱くしてしまった。

 ちなみに、アルフレッド様の言う爺とは、家令のローレン様のことで、屋敷内のことを全て把握していらっしゃる、威厳のある老紳士である。わたしにとっては雲の上の方だ。

「ふふ、可愛い。おっと、浮気じゃないからね、違うからね」

 アルフレッド様は素敵な美男子なのに、ちょっとだけ、ひとり言が多い。

「君にお知らせが二つほど」
「はい、なんでございましょう」
「君、ジテニラ王国の血筋かも」
「えっ!?」
「あと、従兄が君の健気さと可愛さに惚れてしまったみたい」
「えええっっ!!??」
「血筋のことより、従兄のほうが気になるの? ふーん。マクスウェルには朗報だね」
「えええ!?」

 頭が混乱する。ジテニラ王国??
 アルフレッド様の従兄のマクスウェル様は、綺麗なグレーの瞳の、わたしを救って下さった騎士様だ。

「公爵家の使用人に迎えるにあたって調べてわかったことだから、事実確認のためにご両親に聞いたんだけどね。悪いようにはしない、ただの確認だって言っても君のこと本当の娘だって何度も言ってたよ。素敵なご両親だね」

 思わず溢れそうになった涙を必死で堪えた。
 
 アルフレッド様の話が本当なら、両親は捨てられていたわたしを拾い、分け隔てなく育ててくれたことになる。
 顔立ちが似ていない上に、髪色もわたしだけピンクだったから、心の底では感じていたことだった。それでもなお、二人の子どもでありたい気持ちが強く、あまり考えないようにしていたのだけれど。

 読み書きのできない両親は貧乏で、わたしを育てる余裕などなかったはずなのに。

「ピンク色の髪は西の隣国のジテニラ王国に多くてね。うちの国とはいざこざが絶えなかったんだけど、辺境付近ではジテニラ王国の人と恋に落ちる女性もいてね、出産したもののジテニラ色ともいえるピンク色の髪に困って捨ててしまうってことが時折あるんだよね。その線で探ってたんだけど、その顔立ちとピンクに近い菫色の瞳がゼルマー辺境伯の血筋じゃないかと。直系ではなく傍系の可能性が高いんだけどね……どうする? もっと詳しく調べようか?」

「調べなくていいです。わたしは父と母の子です」
「うん、そう言うと思った」

 アルフレッド様は、今まで見た中で一番綺麗な顔で笑った。

「あと、マクスウェルは本気だから、結構口説かれると思うけど頑張ってね?」

 まさか!
 これから習うと言っても、まだ文字も読めないような女にあんな立派な方が……と思っていた。

 けれどもその後、本当に熱烈にマクスウェル様に口説かれ、最終的には頷いてしまった。
 貴族様のお相手にはなれないと何度も断ったのだが、アルフレッド様の従兄とはいえ、継ぐ爵位もないただの騎士だと言われ押し切られた。

 サファスレート王国の紳士は、普段とても真面目なのに、口説くとなると途端に熱烈になるらしい。真面目な人ほど真面目に熱烈だからちょっとビックリすると思うよと、アルフレッド様が仰っていた意味が今ならわかる。

 桃色の天使とか桜貝の姫とか、ピンク色に良い思い出はなかったのにマクスウェル様に言われると、とても嬉しかった。こんなことを言われるのも今だけだから浮かれててもいいよね————と、呑気なことを思っていた過去のわたしに言いたい。

 ずっと熱烈に愛を囁かれるから……!!


「あの、マクスウェル様」
「マックス、と」
「む、無理です」
「どうして? 愛しいコスモスの妖精に愛称で呼ばれたいと願うのは私の我儘?」

 文字を読む練習になるからと言って連れてきてもらったカフェの、外テーブルの真ん中で堂々と口説かれている。

 わたしの髪を一房手に取って、口付けるの止めてもらえませんか!!
 皆様の視線が刺さります!!

「も、文字を読む練習を……あの、メニューを見せてください」
「うん、マックスって呼んでくれたらね」

 マクスウェル様は、アルフレッド様に似た優しい顔でほほ笑んでいる。騎士様を、恋人になったとはいえ庶民のわたしが愛称で呼ぶのは恐れ多い。

 初めて会った時、暗い場所だったので気付かなかったけれど、マクスウェル様は銀に近い綺麗なグレーの髪の美男子だ。周りの女性が皆、頬を染めて見ている。

「マ……、マックス様」
「ありがとう、サヤ。これがメニューだよ。食べたい物、全部食べていいからね?」
「全部は無理ですが、あの……とても……厚かましいのですが」

 わたしだけ美味しいものを食べるのは、とても気が引ける。

 お姉ちゃん何時に帰ってくるの?と二人揃ってわたしを見上げた可愛い顔が浮かぶ。二人が時計を読めるようになったのも嬉しい。一時にお迎えに来てもらうから、五時ごろには帰って来るよ、と伝えたときは、ルルは「三時間だね!」と言っていたので、まだまだ勉強は足りないようだけれど。ロンはまだ時計を読むので精一杯だ。

「ルルとロンにもケーキを買って帰ろうね?」
「あ、ありがとうございます!!」

 マクスウェル様、大好き!!

「いま私のこと大好きって思った?」
「はいっ! えっ!! どうして?」
「うーん。どうしてかな? アルフの従兄だからかな?」
「??」
「わからなくていいよ、メニューに読めない文字ある? ここが飲み物でここがケーキ。どれも美味しいって評判だから何を頼んでも大丈夫だよ……って、どうしたの? どこか痛い? お腹かな!? お腹痛い!?」

 わたしは首を振った。
 どうしてだろう、涙が止まらない。

「わからないです、なんだか胸がいっぱいになってしまって」

 そう言ったら、立ち上がって傍に来てくれたマクスウェル様に抱きしめられた。

 そのままグズグズと泣いていたら周りから拍手の音が聞こえだして、さすがのマクスウェル様も照れていて、とても可愛かった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

残念な顔だとバカにされていた私が隣国の王子様に見初められました

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
公爵令嬢アンジェリカは六歳の誕生日までは天使のように可愛らしい子供だった。ところが突然、ロバのような顔になってしまう。残念な姿に成長した『残念姫』と呼ばれるアンジェリカ。友達は男爵家のウォルターただ一人。そんなある日、隣国から素敵な王子様が留学してきて……

傾国の王女は孤独な第一王子を溺愛したい

あねもね
恋愛
傾国の王女と評判のオルディアレス王国の第一王女フィオリーナが、ラキメニア王国の第一王子、クロードに嫁ぐことになった。 しかし初夜にクロードから愛も華やかな結婚生活も期待しないでくれと言われる。第一王子でありながら王太子ではないクロードも訳ありのようで……。 少々口達者で、少々居丈高なフィオリーナが義母である王妃や使用人の嫌がらせ、貴族らの好奇な目を蹴散らしながら、クロードの心をもぎ取っていく物語。

婚約破棄で異世界転生を100倍楽しむ方法 ‐漫画喫茶は教育機関ではありません‐

ふわふわ
恋愛
王太子エランから、 「君は優秀すぎて可愛げがない」 ――そう告げられ、あっさり婚約破棄された公爵令嬢アルフェッタ。 だが彼女は動揺しなかった。 なぜなら、その瞬間に前世の記憶を取り戻したからだ。 (これが噂の異世界転生・婚約破棄イベント……!) (体験できる人は少ないんだし、全力で楽しんだほうが得ですわよね?) 復讐? ざまぁ? そんなテンプレは後回し。 自由になったアルフェッタが始めたのは、 公爵邸ライフを百倍楽しむこと―― そして、なぜか異世界マンガ喫茶。 文字が読めなくても楽しめる本。 売らない、複製しない、教えない。 料金は「気兼ねなく使ってもらうため」だけ。 それは教育でも改革でもなく、 ただの趣味の延長だったはずなのに―― 気づけば、世界の空気が少しずつ変わっていく。 ざまぁを忘れた公爵令嬢が、 幸運も不幸もひっくるめて味わい尽くす、 “楽しむこと”がすべての異世界転生スローライフ譚。 ※漫画喫茶は教育機関ではありません。

ワザとダサくしてたら婚約破棄されたので隣国に行きます!

satomi
恋愛
ワザと瓶底メガネで三つ編みで、生活をしていたら、「自分の隣に相応しくない」という理由でこのフッラクション王国の王太子であられます、ダミアン殿下であらせられます、ダミアン殿下に婚約破棄をされました。  私はホウショウ公爵家の次女でコリーナと申します。  私の容姿で婚約破棄をされたことに対して私付きの侍女のルナは大激怒。  お父様は「結婚前に王太子が人を見てくれだけで判断していることが分かって良かった」と。  眼鏡をやめただけで、学園内での手の平返しが酷かったので、私は父の妹、叔母様を頼りに隣国のリーク帝国に留学することとしました!

目覚めたら魔法の国で、令嬢の中の人でした

エス
恋愛
転生JK×イケメン公爵様の異世界スローラブ 女子高生・高野みつきは、ある日突然、異世界のお嬢様シャルロットになっていた。 過保護すぎる伯爵パパに泣かれ、無愛想なイケメン公爵レオンといきなりお見合いさせられ……あれよあれよとレオンの婚約者に。 公爵家のクセ強ファミリーに囲まれて、能天気王太子リオに振り回されながらも、みつきは少しずつ異世界での居場所を見つけていく。 けれど心の奥では、「本当にシャルロットとして生きていいのか」と悩む日々。そんな彼女の夢に現れた“本物のシャルロット”が、みつきに大切なメッセージを託す──。 これは、異世界でシャルロットとして生きることを託された1人の少女の、葛藤と成長の物語。 イケメン公爵様とのラブも……気づけばちゃんと育ってます(たぶん) ※他サイトに投稿していたものを、改稿しています。 ※他サイトにも投稿しています。

婚約破棄されたので隣国で働きます ~追放侯爵令嬢、才覚だけで王妃候補に成り上がる~

鷹 綾
恋愛
内容紹介 王宮改革は、英雄の一声では成し遂げられない。 王太子に招かれ、王宮顧問として改革に携わることになった ルビー・エルヴェール。 彼女が選んだ道は、力で押し切る改革でも、敵を断罪する粛清でもなかった。 評価制度の刷新、情報公開、説明責任、緊急時の判断、責任の分配―― 一つひとつの制度は正しくても、人の恐れや保身が、改革を歪めていく。 噂に揺れ、信頼が試され、 「正しさ」と「速さ」、 「個人の覚悟」と「組織の持続性」が、幾度も衝突する。 それでもルビーは、問い続ける。 ――制度は、誰のためにあるのか。 ――信頼とは、守るものか、耐えるものか。 ――改革者は、いつ去るべきなのか。 やがて彼女は、自らが築いた制度が 自分なしでも動き始めたことを確かめ、静かに王宮を去る。 残されたのは、名前の残らない改革。 英雄のいない成功。 だが確かに「生き続ける仕組み」。 これは、 誰かが称えられるための物語ではない。 考えることを許し、責任を分かち合う―― その文化を残すための、40話の改革譚。 静かで、重く、そして誠実な “大人のための王宮改革ファンタジー”。

望まぬ結婚をさせられた私のもとに、死んだはずの護衛騎士が帰ってきました~不遇令嬢が世界一幸せな花嫁になるまで

越智屋ノマ
恋愛
「君を愛することはない」で始まった不遇な結婚――。 国王の命令でクラーヴァル公爵家へと嫁いだ伯爵令嬢ヴィオラ。しかし夫のルシウスに愛されることはなく、毎日つらい仕打ちを受けていた。 孤独に耐えるヴィオラにとって唯一の救いは、護衛騎士エデン・アーヴィスと過ごした日々の思い出だった。エデンは強くて誠実で、いつもヴィオラを守ってくれた……でも、彼はもういない。この国を襲った『災禍の竜』と相打ちになって、3年前に戦死してしまったのだから。 ある日、参加した夜会の席でヴィオラは窮地に立たされる。その夜会は夫の愛人が主催するもので、夫と結託してヴィオラを陥れようとしていたのだ。誰に救いを求めることもできず、絶体絶命の彼女を救ったのは――? (……私の体が、勝手に動いている!?) 「地獄で悔いろ、下郎が。このエデン・アーヴィスの目の黒いうちは、ヴィオラ様に指一本触れさせはしない!」 死んだはずのエデンの魂が、ヴィオラの体に乗り移っていた!?  ――これは、望まぬ結婚をさせられた伯爵令嬢ヴィオラと、死んだはずの護衛騎士エデンのふしぎな恋の物語。理不尽な夫になんて、もう絶対に負けません!!

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

処理中です...