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しおりを挟む「もちろんです。実は娘には、まだお相手が貴方であることを明かしてなかったのですよ」
「そうでしたか。それではさぞかし驚かれたことでしょう」
貴公子然とした顔でレイモンドに微笑まれ、ミシェルは思わず顔を赤らめてしまった。
一緒に夜会に行くことはなかったから、貴公子バージョンのレイモンドは見慣れていないのだ。
「すみませんね、うちの娘は少々奥手なもので」
給仕たちはすぐにレイモンドの席を整え、彼をミシェルの隣に座らせてしまった。
「お久しぶりですね、ミシェル嬢。いつ見てもお美しい……」
そう言ってミシェルの手を取り、甲に唇を寄せる。
そんなレイモンドを父は満足げに見ていた。
「いやいや、貴殿のような立派な方に娶っていただけるとは。我が娘はなんと幸福なことか。ミシェル、レイモンド卿とは面識があるだろう? 騎士団にお勤めで、かの有名なカヌレ伯爵家のご子息だ。とてもレーヌ子爵家が縁を結べるような御仁ではないと、私も初めはお断りしたのだよ。だが、はるばる我が領まで訪れてくださってな。結婚させて欲しいと頭を下げられたときは、こちらの心臓が縮みあがってしまったよ」
給仕がレイモンドのグラスにもワインを注ぎ、父とレイモンドは互いにグラスを上げ、祝福を交わした。
「レイモンド卿、娘をどうぞよろしくお願いいたします」
「こちらこそ。ミシェル嬢にはずっとアプローチしていたのですが、なかなかよいお返事がいただけず……とうとうこのような強引な求婚に至ってしまいました。ミシェル嬢、驚かせてしまって申し訳ありません」
父との会話から自然とミシェルのほうへ話を振り、レイモンドは頭を下げる。
薄茶色の髪がサラリと揺れた。
「ミシェル。ご挨拶を」
父の言葉が遠くのほうで聞こえる。
レイモンドが結婚する相手というのはミシェルだったらしい――
すぐに浮かんだのは喜びよりも戸惑いだった。
「私のこと……」
本当は好きだったの?
恋人だと思っていたの?
いつから結婚しようと思ってたの?
聞きたいことはたくさんあるのに、どれも言葉にはならなかった。
口をつぐむミシェルに、レイモンドは優しく微笑んだ。
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