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3.フィル
しおりを挟む「フィルお兄さまも食べます?」
小首を傾げたマイナに勧められたのは『らーめん』である。
マイナの前世の祖父はたいそうな美食家だったらしい。
家で様々な料理を作っていた『お手伝いのお妙さん』の影響で、前世のマイナも料理が得意だったという。
(このスープが美味いんだよなぁ)
豚骨を煮込み始めたときは何事かとベイエレン公爵家は大騒ぎになったものだが。
最初は材料が揃わず苦戦していたけれど、代用品を見つけたりして、次第に美味しくなっていった。
麺のほうがスープより苦戦していて、絶品チャーシューは最初から絶品だった。
材料が揃わないことが一番の難関のようだと感じた。
『かん水』は重曹で代用とか言ってたが意味はよくわからない。
そうして作り上げた『らーめん』は、今では父が「らーめん屋を開くか」など言い出すほどの美味さである。
「ところでなんで帰ってきたわけ!? たった一か月でもう追い出されたのか!? 今度は何をした!?」
「追い出されてないし、何もしてないってば!!」
「じゃぁ何でうちで『らーめん』? そっちで作ればいいじゃん。可哀想なレイ。きっとなんかやらかしたんだ。こんな妹で申し訳ない」
昔からフィルに会いに来る振りをしつつレイはマイナに会いに来ていた。
ついでにヴィヴィアン殿下も付いてきていた。
レイは十代のころから大人びていて背が高く、色っぽかったので年上の女性にもめちゃくちゃモテていた。
それなりに遊んでいたから、妹のことは女としては見ていないと思っていたんだけど。
「こんな妹という部分には完全に同意よ、お兄さま」
夜会ではフィルがいないとヴィヴィアン殿下と交互でマイナを見張ってくれたりはしてたけど、まさかレイがマイナを女性として好いているとは思わなかった。
殿下とレイが目を光らせているマイナに、婚約を申し込めるほど肝の座った貴族はいなかった。
うちが公爵家なこともあって、マイナはずっと婚約者不在の高嶺の花と呼ばれていた。
マイナは前世の記憶のせいか、イマイチこの世界に馴染めない部分がある。
そのせいか、変な勘違いとかも多くて、自分に婚約話が上がらないことをモテないからだと思い込んでいるのだ。
「いや同意すんな、もうちょっと自信をもて。割とお前は可愛い」
フィルから見てもマイナは可愛い。
美人といっても差し支えない。
そんなマイナがモテないわけないんだけど。
わかっていないから無防備で危なっかしい。
(だからやっぱり、殿下かレイに娶ってもらうのが一番いいとは思ってたんだよなぁ。変わってはいても箱入り令嬢だったし)
「え、キモッ」
「そういうところがなぁ。ときどき出ちゃう台詞とか言葉遣いがイマイチなんだよなぁ。お前のそーゆうところを可愛いだの面白いだの言えるレイも大概だな。お前らやっぱりお似合いの夫婦だよ」
「何ですって!? わたくしは確かにイマイチだけど、レイさまは大概なんかじゃないわ!! 解せぬ!! そんなお兄さまには、今から作るプリンはあげません!!」
「えぇ……お前それって」
(レイをけなされるのが嫌ってことだろ? それってもうレイに惚れてるってことでは? ならいい加減レイの気持ちに気付けよ)
「なあに!? まだなんか言いたいことあるの!?」
「……あー。まぁ、俺が口を挟むことじゃないか」
(レイ頑張れ~)
鈍感でズレてるマイナだけど、そのうちなんとかなるだろう……多分。
面倒くさがりのフィルは、それ以上口を挟むのはやめて『らーめん』をひとつ注文するのであった。
「チャーシュー大盛りで!」
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