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4.プリン
しおりを挟む「やはりマイナのプリンが一番だな」
「レイさま、それは違います。素晴らしいのは『コッコ』の玉子です。コッコの玉子のために実家へ足を運びました」
「そうか。確かにコッコは素晴らしい雌鶏だと思うが、プリンを作ったのはマイナだろう?」
「そうですけれど。プリンは簡単なんですよ?」
「そうだろうか? マイナの作る料理はどれも手が込んでいるが」
「わたくしなんて、お妙さんの足元にもおよびません」
「お妙さんか。どんな人だったの?」
「凄く優しくて綺麗な方でした。長らく独り身だったお爺ちゃんと結婚してくれたらと何度思ったことか」
「そういった雰囲気は?」
「実は若干ありまして。ですが、前にお話したように、わたくしの記憶は二十五歳までで、それ以降のことはよくわからないのです」
「では、いい未来だったと、そう思うことにしたらどうだろう?」
「そうですね。そうします。厳しそうに見えて、お爺ちゃんは結構おちゃめでしたし、お妙さんもそんなお爺ちゃんにまんざらでもなさそうだったような?」
「そうか……ところで、帰ったら私も『らーめん』を食べられるのかな?」
「ごめんなさい。まだタルコット公爵家のシェフ、バアルと審議中でして」
「何か問題でも?」
「バアルは麺が縮れてるのがどうにも我慢ならないようです」
「縮れか」
「それによってスープが絡みますし、わたくしとしては縮れさせたい」
「バアルはストレートにしたい?」
「はい。いえ、あるんですよ? 縮れていないものも。ですからわたくしが妥協すればよいのですが」
「マイナが妥協する必要はないだろう」
「ごめんなさい、妥協という言葉が悪かったですね。ストレートもまた違った食感になりますし、実家との差別化という意味でも、それに合わせて味を変えてみようかとも思っているのですが、どのぐらい味が絡むかとか、あとは材料費が高すぎますし、そのあたりを審議中なのです」
「マイナが望むのであれば何をどれだけ使っても構わないとバアルには言い含めておいたのだが、申し訳ない」
「なぜレイさまが謝るんです!? バアルからも気にせず使って欲しいとは言われたのですが、純粋な醤油ラーメンを思いついてしまいまして、それが頭から離れなくなってしまって……いくらなんでも醤油と煮干しが高すぎて迷いが……」
「醤油も煮干しも我が邸にたくさんあるだろう?」
「いかんせんこの世界の醤油と煮干しは高すぎるので、それは無駄遣いというものでしょう。スープも全部飲み干してしまえば塩分過多ですし、飲まないスープに大量の醤油はとても気が引けます。ストレートの麺だと絡まないことを考えると少し強めに使うことになりそうですし」
「またそのようなことを。高いものを購入し、市場を活性化させるのも私たち貴族の役目なのだから気にしなくていい」
「そうは言ってもですねぇ。やっぱり……」
「そろそろ僕がいるってことを思い出してもらってもいいかな!?」
ヴィヴィアンの問いかけに、ソファーで仲良く並んでプリンを食べていたレイとマイナがこちらを向いた。
「ここ、僕の執務室って知ってた!?」
「いやですわ殿下。もちろん知っております」
「他人行儀~! いつもの口調どうしたの~!?」
「王宮に来ておりますので、わきまえておりますの。オホホ」
「いや調子狂うから、普通でいいよ」
「殿下もさっさとプリン食べたら?」
「レイはわきまえてくれるかな!?」
「ちっ」
「え!? 舌打ちした!?」
「いいえ、そんなそんな。なぜ我が妻のプリンを殿下にまでおすそ分けしなければならないのか疑問には思っていますが舌打ちなどはしておりません」
「さっきしてたよね!? それに僕だって食べたいよ、マイナのプリン」
「はっ、また呼びすてですか」
「はいはい。マイナさんのプリンいただきますね!?」
「タルコット夫人と」
「タルコットふじーん、プリンたべていいー?」
「どうぞ、召し上がってくださいまし」
「……ねぇ、夫人」
「なんでございましょう?」
「どうして僕のプリンにはフルーツと生クリームのってないの?」
「えっ」
「えっ?」
「殿下、わたくし……」
「なに?」
「レイさまのことばかり考えていて、忘れておりました」
「どうせそんなことだろうと思ってたよー!!」
不貞腐れたヴィヴィアンの手に、マイナはちょこんとお詫びのキャラメルを乗せた。
「これはマイナ……いや、夫人のお手製キャラメル!?」
「殿下にわたくしの拙いキャラメルなど渡せません。こちらはべイエレン公爵家のシェフお手製ですからご安心を。手作りキャラメルは自宅用です」
誇らしげなマイナの様子にヴィヴィアンはがっくりと肩を落とした。
手作りという『心』が欲しいのに、全く理解してもらえないヴィヴィアンであった。
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