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11.ワイン
しおりを挟む(旦那、話すついでに酒飲みに来るってよ?)
マイナは前世の祖父の影響で日本酒が好きだ。
キリッとした辛口が特にいい。
けれど、この世界ではなかなか手に入らないので今日はワインを飲むらしい。
ワインはちょっと苦手である。
そこで、バアルがホットワインにしてくれたのだけれど。
(あったまるけど、微妙~)
シナモン、グローブ、八角、ショウガ、オレンジとレモン。
その辺りの味と香りがするというのはわかった。
「どうした? 苦手か?」
「……そうですね。なんか薬用酒を飲んでいる気分になります」
レイが肩眉を上げるという、イケメンであるがゆえに様になる仕草をした。
(っていうか、近いな~)
肩がぴったりくっついている。
マイナの部屋のソファーは寝そべることができるほど大きいというのに。
端正な横顔が薄暗い照明に照らされて、凄い色気を放っている。
(だから夜のレイさまは危険なんだってー!! なんでこんなに接近!? 今日は何もしないって言ってたのに)
先日、勇気を振り絞って「子どもはどうしますか?」と聞いたら、レイは当然のような顔をして「急がない」と言った。
つまり。
(私と後継作るってよ!?)
正直、レイと子作りするということにピンときてはいないのだが。
(レイさまって、私とそういうことできる??)
レイにとってのマイナは妹、もしくは幼馴染であり友達。
そんな感じだろう。
甘やかされ、大切にしてもらってるが、それこそマイナのためという、レイの優しさだろう。
そして、マイナのほうにも少々問題がある。
前世でも男性経験がないのだ。
普通に怖い。
厳格な祖父のお眼鏡にかなう男性が二十五歳までには現れなかったからだ。
(その後どうだったかは知らないけど)
現世の母はマイナに閨教育をほどこさなかった。
「旦那さまにお任せすれば平気よ」と言われて送り出された。
「えっと、話って?」
慌てて聞くと、レイは傾けていたワインを口元からそっと外してテーブルに置いた。
「もしかして、私に女性をあてがおうなんて考えてない?」
「へっ??」
なんだそれは、どこの浮気斡旋所だ。
そんなの嫌だ。
本当なら浮気だってして欲しくないのに。
(妹や友達と思われている私が言う権利はないかもしれないけど、やっぱり嫌!!)
「……よかった。私の勘違いか」
「……そう、ですね。一応まだ新婚ですし?」
マイナはハテナマークを頭の上に何個ものせて悩んだ。
(そもそも、あてがう? どうやって?? 私、この世界の友達って殿下とレイさまだけなんだけど。それでどうやって女性をあてがうというのだろう??)
「まだ?」
(ん? なんでそんなちょっと機嫌が悪……)
「もしかして新婚じゃなくなったら、あてがおうとか思ってる? 子どもができたら私はここに入れてもらえなくなるのかな?」
(それこそどういう意味!? なんかめっちゃ機嫌悪くなったし!! 怖いー!!)
「レイさまをここに入れないとは??」
不機嫌に眉を寄せても、ただただカッコいいだけなの、どうにかならないだろうか。
怖いのにカッコいい。
心臓がもたない。
「……確認しておきたいんだけど」
「はい」
「私との結婚に不満は?」
「ないない! ないですってば! 超感謝してます!!」
「……感謝」
「婚約者不在だったわたくしを助けてくださって……」
レイだって他に想い人がいたらマイナに求婚なんてしないだろう。
仲もよく、マイナとであれば結婚してもいいかなぐらいには思ってくれていたんだと思う。
それに、お互い公爵家の子息子女という重たい身分がある。
やたらな人とは結婚できないのだ。
求婚のときは、好きだと言ってもらったけど。
(私もレイさまのことは好きだしね? うん)
「私はマイナを助けたつもりはないよ?」
「そう、なんですか?」
(レイもそろそろ結婚しなくちゃならなくて、私が成人したからちょうどよかったのかな?)
「なんかすれ違ってる気がする」
「そうでしょうか?」
「敬語を使ってるあたり、怪しい」
「ん? んんん??」
レイは時々よくわからないことを言う。
今まさにそうだ。
(どゆこと?)
「いまひとつ本音が見えないな」
「えぇぇぇ。どうして? 私は、子どもを産んでみたいと思ってるし、この間レイさまに作るって言ってもらって嬉しかったけど……ズレてる?」
なんだかワインで悪酔いしてきたような気がする。
熱を通してるからアルコールはかなり飛んでるはずなのに。
(めっちゃ混乱してきた。自分がこの世界でズレてる自覚はあるんだけど)
レイが何を聞きたがってどんな返事が欲しいのかがわからない。
(気遣いは、おじいちゃんに仕込まれたから得意なはずなんだけどなぁ)
困ったなぁと眉を下げていたら、小さく溜息を吐いたレイが頭を撫でてくれた。
(前世で父親がいなかったせいで、頭を撫でられるのに弱いんだよねぇ)
埋められない寂しさがあった。
祖父は厳しくとも根本的には優しかった。
でもやっぱり祖父は祖父だったのだ。
(現世のお父さまも撫でてくれるけど、レイさまの撫で方はお父さまのよりもっと気持ちいい)
肩を抱きしめられたかと思ったら、身体がふわりと浮いた。
(あれ? 持ち上げられてる?)
ふわふわと心地よい揺れと体温に、しだいに瞼が落ちてくるマイナであった。
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