【完結】なんちゃって幼妻は夫の溺愛に気付かない?

咲楽えび@改名しました(旧 佐倉えび)

文字の大きさ
18 / 125

18.和風食材

しおりを挟む


レイの帰りが毎日遅い。
来年度予算の決議会議が毎日長引いているらしい。

そんな中、義母と毎日お茶を飲むぐらいしか予定のないマイナは思った。

『タルコット公爵家の予算、私のために使い過ぎじゃない?』と。

暇な時間は余計なことを延々と考えるものである。

(そうだ! 和食を作る頻度を下げよう!)

バアルにも腕を振るってもらいたいし、この世界の料理も好きだから問題ない。
そうすれば、タルコット公爵家の予算にも余裕ができるだろう。
それがいい。

義母はある日、マイナが週に二度ほど同じデイドレスを着ていることに気付いてしまった。
衣装が少ないことに驚いて、慌てて仕立て屋を呼んだ。

レイは何をしているのだと、大層ご立腹であった。
これでもかなり増えたほうなんだけど、なんて言えない。
贅沢は貴族の義務である。

だがしかし、マイナだって贅沢をしてるのだ。
和風食材という最強のカードで。

どのぐらい贅沢かといえば、義母が来てから毎日行われている晩餐よりマイナが作ったイカ飯のほうが高い、というぐらいの贅沢さだ。
イカは高くないが、和風調味料が高い。

だからマイナの好きな甘じょっぱい系の煮物はみんな高価になってしまう。
それもあって、ドレスを買いたいと訴えるレイの申し出を却下し続けている。

例の屋台で出会ったエキゾチックなお兄ちゃんの持ってくる前世風の服をたくさん買ってもらったので衣装は十分ある。

例のあの洋服たちは前世風だったのである。
つまり着る日が限られてしまう。
おまけに義母にはお披露目できない。

食材やエキゾチック兄ちゃんの服については内緒なので義母には言えないが「衣装が少ないのは、わたくしのせいなのです」と正直に申し上げたところ、扇子で顔を隠されてしまった。

たぶん、泣いてたと思う。

酷い、なんてこと! あの子ってば、とか聞こえた気がする。
気のせいだと思いたいが、たぶん気のせいじゃない。

今回、長く一緒に過ごしてみてわかったが、義母はだいぶ思い込みが激しい。

誰だ、人のこと言えませんとか言ったのは。
ニコか。


「という訳で、もうお米を食べないと死にそうなの」

義母の着せ替え人形になるのも、晩餐も会話の少ないお茶も苦にならない。
ただ米が食べたい。

もう、無理。

毎日、パン、パン、パン、パン、パンのエンドレス。
お茶菓子もほとんどが小麦粉。
小麦粉以外が食べたい。

「お話の流れは全くわかりませんが、お米の禁断症状が出ていることはわかりました。私がマイナさまに代わって、おにぎりを作って参ります。バアルさんにこっそり炊いてもらい、晩餐が終わったころお部屋にお持ちします」

「ありがとう、ニコ!! おにぎりを伝授しておいてよかった!!」

「お役に立てて何よりでございます。具は何にいたしましょう?」

「塩むすびで!!」

塩むすびほど、米の味を引き立てるものはないだろう。
塩むすび一択である。

「なぜそんな泣きそうな顔をしてるの!?」

「旦那さまは、マイナさまの食べたいものを食べさせるようにと仰っていますぅ!!」

「だから、それが、塩むすびなんだってば!!」

「節約なんてしなくていいんですからぁ!! そんな使用人用の塩むすびではなく、具を入れて海苔を巻きましょう!? ね!?」

涙を浮かべて訴えるニコ。
塩むすびが食べたいマイナ。

両者の橋渡しをしたのはヨアンであった。

「お嬢は節約じゃなくて、米を味わいたいから塩むすびなんだってぇ~」

気の抜けた声がマイナの部屋に響いた。
やるじゃないかヨアン、その通りだヨアン。

「ニコ、あなた、たまに馬鹿になるわね!?」

「失礼な、マイナさまほどでは」

「言ったわね!?」

「ハイハイ、もうどっちでもいいじゃん。ニコ急いで、大奥さまがいないすきにバアルさんに頼んでこないと。ね?」

ニコの背を押して部屋から追い出したヨアンは振り返って言った。

「ボーナスならニコとのデートの斡旋でお願いします」

「ちゃっかりしてる!! え? デート? ヨアンって、ニコのこと好きだったの!?」

「……気付いてなかったんですかー?」

「まったく」

「……さすがに旦那さまが気の毒ですー」

「なんでここでレイさまが出てくるのよ?」

「お嬢が鈍感すぎて気の毒~!!」

「マイナさまよ!!」

「はーい。マイナさま、ボーナスの件ヨロシクオネガイシマース!」

「か、考えておくわ……」

ヨアンが出て行った扉をしばらく眺めるマイナ。

(よりによってニコかよ……無謀じゃね?)




* * *



「なるほど。それで今、おにぎりを食べてるんだ?」

ソファーで塩むすびを頬張るマイナの隣でレイがくつろいでいる。
帰って来たら、マイナが部屋でこそこそ塩むすびを食べていて驚いたらしい。
皿にはあと二つ、塩むすびがのっている。

「レイさまも食べる?」

「いや、お腹すいてないからいいよ」

「そう? それにしても今日も遅かったね」

「ほんと、予算って、あちらを立てればこちらが立たずだから困るよ」

「予算……あの、予算と言えばタルコット公爵家の予算は……」

「ストップ。マイナのための予算を削るという話なら無し。却下」

「まだ何も言ってないのに」

「買い続けることで和風食材市場が活性化するのが目的だから。需要と供給を増やしていくことが結果的には値段を下げるんだよ」

「またそんなこと言ってー」

「じゃあ、そのぶんを装飾品に当てようか?」

「もっと要らないですよ、もう十分だもん」

無い無いと騒がれるが、宝石箱や衣裳部屋はパンパンである。
腐っても元公爵令嬢なのだ。

「マイナが買うなと言っても購入するようバアルには言いつけてあるから無駄だからね?」

そこまで言ってもらえるならいいかとマイナは頷く。

「どのみち、お米食べないとこんなに禁断症状が出るんだもん。節約とか無理かも」

思わず正直に告白すると、レイは嬉しそうに笑った。

「でもやっぱり、朝食の銀鮭だけはやめない? 頻度だけでも、ね?」

「却下。週二回は厳守」

「やっぱり駄目だった~!」

諦めの悪いマイナであった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫が運命の番と出会いました

重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。 だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。 しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?

【完結済】隣国でひっそりと子育てしている私のことを、執着心むき出しの初恋が追いかけてきます

鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
 一夜の過ちだなんて思いたくない。私にとって彼とのあの夜は、人生で唯一の、最良の思い出なのだから。彼のおかげで、この子に会えた────  私、この子と生きていきますっ!!  シアーズ男爵家の末娘ティナレインは、男爵が隣国出身のメイドに手をつけてできた娘だった。ティナレインは隣国の一部の者が持つ魔力(治癒術)を微力ながら持っており、そのため男爵夫人に一層疎まれ、男爵家後継ぎの兄と、世渡り上手で気の強い姉の下で、影薄く過ごしていた。  幼いティナレインは、優しい侯爵家の子息セシルと親しくなっていくが、息子がティナレインに入れ込みすぎていることを嫌う侯爵夫人は、シアーズ男爵夫人に苦言を呈す。侯爵夫人の機嫌を損ねることが怖い義母から強く叱られ、ティナレインはセシルとの接触を禁止されてしまう。  時を経て、貴族学園で再会する二人。忘れられなかったティナへの想いが燃え上がるセシルは猛アタックするが、ティナは自分の想いを封じ込めるように、セシルを避ける。  やがてティナレインは、とある商会の成金経営者と婚約させられることとなり、学園を中退。想い合いながらも会うことすら叶わなくなった二人だが、ある夜偶然の再会を果たす。  それから数ヶ月。結婚を目前に控えたティナレインは、隣国へと逃げる決意をした。自分のお腹に宿っていることに気付いた、大切な我が子を守るために。  けれど、名を偽り可愛い我が子の子育てをしながら懸命に生きていたティナレインと、彼女を諦めきれないセシルは、ある日運命的な再会を果たし────  生まれ育った屋敷で冷遇され続けた挙げ句、最低な成金ジジイと結婚させられそうになったヒロインが、我が子を守るために全てを捨てて新しい人生を切り拓いていこうと奮闘する物語です。 ※いつもの完全オリジナルファンタジー世界の物語です。全てがファンタジーです。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく

たまこ
恋愛
 10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。  多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。  もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。

拝啓、愛しの侯爵様~行き遅れ令嬢ですが、運命の人は案外近くにいたようです~

藤原ライラ
恋愛
心を奪われた手紙の先には、運命の人が待っていた――  子爵令嬢のキャロラインは、両親を早くに亡くし、年の離れた弟の面倒を見ているうちにすっかり婚期を逃しつつあった。夜会でも誰からも相手にされない彼女は、新しい出会いを求めて文通を始めることに。届いた美しい字で洗練された内容の手紙に、相手はきっとうんと年上の素敵なおじ様のはずだとキャロラインは予想する。  彼とのやり取りにときめく毎日だがそれに難癖をつける者がいた。幼馴染で侯爵家の嫡男、クリストファーである。 「理想の相手なんかに巡り合えるわけないだろう。現実を見た方がいい」  四つ年下の彼はいつも辛辣で彼女には冷たい。  そんな時キャロラインは、夜会で想像した文通相手とそっくりな人物に出会ってしまう……。  文通相手の正体は一体誰なのか。そしてキャロラインの恋の行方は!? じれじれ両片思いです。 ※他サイトでも掲載しています。 イラスト:ひろ様(https://xfolio.jp/portfolio/hiro_foxtail)

英雄の可愛い幼馴染は、彼の真っ黒な本性を知らない

百門一新
恋愛
男の子の恰好で走り回る元気な平民の少女、ティーゼには、見目麗しい完璧な幼馴染がいる。彼は幼少の頃、ティーゼが女の子だと知らず、怪我をしてしまった事で責任を感じている優しすぎる少し年上の幼馴染だ――と、ティーゼ自身はずっと思っていた。 幼馴染が半魔族の王を倒して、英雄として戻って来た。彼が旅に出て戻って来た目的も知らぬまま、ティーゼは心配症な幼馴染離れをしようと考えていたのだが、……ついでとばかりに引き受けた仕事の先で、彼女は、恋に悩む優しい魔王と、ちっとも優しくないその宰相に巻き込まれました。 ※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ!」「カクヨム」にも掲載しています。

辺境伯夫人は領地を紡ぐ

やまだごんた
恋愛
王命によりヴァルデン辺境伯に嫁ぐことになった、前ベルンシュタイン公爵令嬢のマルグリット。 しかし、彼女を待っていたのは60年にも及ぶ戦争で荒廃し、冬を越す薪すら足りない現実だった。 物資も人手も足りない中、マルグリットは領地の立て直しに乗り出す。 戦しか知らなかったと自省する夫と向き合いながら、少しずつ築かれていく夫婦の距離。 これは、1人の女性が領地を紡ぎ、夫と共に未来を作る「内政×溺愛」の物語です。 全50話の予定です ※表紙はイメージです ※アルファポリス先行公開(なろうにも転載予定です)

【完結】番としか子供が産まれない世界で

さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。 何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。 そんなニーナが番に出会うまで 4話完結 出会えたところで話は終わってます。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

処理中です...