【完結】なんちゃって幼妻は夫の溺愛に気付かない?

咲楽えび@改名しました(旧 佐倉えび)

文字の大きさ
17 / 125

17.アフタヌーンティー

しおりを挟む
         

 この世界で好きになったものがある。
 そのひとつがスコーンだ。
 前世ではパサついていて、もっさもっさと口の中の水分を全部持っていくやつ、という印象しかなかった。
 カロリーが高いのにジャムをのせないといまひとつ、というところが特に嫌だった。

 だがしかし。
 バアルのスコーンの美味さよ。

 マイナは神に感謝した。

『いつものレイさまも格好いいけど、正式なマナーで美しく召し上がるレイさまも最高でした、ありがとう』と。

(うん。スコーン全然関係なくなった)

 クロテッドクリームの美味しさを知ってからのスコーンは本当に素晴らしかった。
 生クリームとバターの中間のようなクリームとストロベリージャムをほどよい温かさのスコーンにどっさりのせて食べる。
 バアルお手製クロテッドクリームとストロベリージャムが最高過ぎた。

(これぞ、背徳の味……)

「マイナさん」

「はい、お義母さま」

「レイはどうですか?」

「とても……素敵です」

(キャッ!! 言っちゃった!! お義母さまに言っちゃった!!)

 レイに大好きと言われてから、ちょっと浮かれている。
 なんたって好きが大きいのだ。
 大好き。
 なんて素晴らしい響き。

 せっかく夫婦になれたのだから、好きであるほうがやっぱり嬉しい。
 大きいならもっと嬉しい。
 世継を作るからにはなおさら仲は良好であるにこしたことはない。

(ん? お義母さま、どうしてそんな半目?)

「……そう、素敵なの……」

「はい。それに、とても優しいです。それからとても、格好いいです」

「格好いい。まぁ、顔は少々整ってはおりますが」

 義母はそう言ったきり、紅茶を飲もうとカップを傾けては降ろすという仕草を続けた。
 レイは義母のことを、面倒だけどあまり緊張するなと言っていたが、よい返事をしたわりにマイナはよくわかっていなかった。

(前世のお爺ちゃんのお弟子さんや商談相手やどっかのお偉いさんたちが押し寄せて来た日のほうがずっと面倒だったし緊張したよねぇぇ)

 最近まで公爵令嬢だったし、今は公爵夫人だから、それなりに緊張感のある場面はあるけれど。
 予想外のことは少ないし、フォローしてくれる人もいる。

 それに比べて前世はお妙さんと二人だけで、一日中気を張って本当に疲れた。
 夜を迎えるころにはヘトヘトになっていた。

(テレビ局が入るときも違う意味で嫌だったなぁ)

 隙を見ては孫娘を撮ろうとするのだ。
 祖父は孫を映すなと言っていたのに。
 祖父の逆鱗に触れて出入り禁止になったテレビ局もあった。

(お義母さまは、ザ・大奥さまって感じなだけで意地悪じゃないし、綺麗だから目の保養になるし)

 うっとりと義母を眺め始めたマイナに、義母は少々引きながら頷いた。

「そうですか。優しい……無体なことはされてませんか?」

「されておりません。わたくしの準備が整うまで、じっくり、待ってくださいます」

(後継のことは急がない、まだ好きなことをしていいなんて、寛大だよねぇ。本来なら子どもはすぐ作るべきなんだろうけど)

「じっくり、待つ……」

 義母は儚げな白い頬に手を当てて「ほぅ」と溜息を吐いた。

(レイさまも綺麗だけど、お義母さまとは別ベクトルよねぇ。レイさま、茶髪じゃなかったからどうなっちゃってたのかしら。いや、茶髪といってもレイさまの茶髪は前世のとは違うわ。艶々でカールしてて漫画みたいなの! 琥珀色の瞳も宝石みたいで素敵!)

 忙しない思考と共に、それなりの量を食べるマイナと違い、義母はサンドイッチをひとかけらと、スコーンをひと口しか食べなかった。
 アフタヌーンティーの三段のうち、二段だけである。

(一番上は食べないの!? もしかしてもうお茶は終わり!?)

 不安げな顔をしていたのか、義母は「わたくしはお腹がいっぱいですけれど、マイナさんはお食べになってね」と最後のデザートを勧めてくれた。

(よかったー!!)

 バアル渾身のアフタヌーンティーである。
 やはりすべて食べなくては。
 昨日の晩餐といい、バアルの料理は素晴らしい。

「マイナさんは、その……」

「はい」

「あの子とは……どのぐらいの頻度で?」

 視線がマイナの皿の上のケーキに注がれていた。

 レイが忙しいことから、フルコースを食べる時間がないことを心配しているのだろう。
 フルコースの最後には必ずデザートが出る。

「あまりにもお忙しい日以外は、ほぼ毎日です」

(私が料理作っちゃうと和洋折衷でデザートは出たり出なかったり曖昧になっちゃうけどね~。でもそれは言わないほうがいいだろうし?)

 瑞々しいメロンがスポンジと生クリームと交互に重ねられているケーキを食べた。
 水が出そうなのに崩れず、べちゃっともせず、美味しい!!

(あれ? お義母さま、心なしか顔が赤いような??)



 * * *



 今日もレイと共寝することを思えば、ニコが出してきたナイトドレスにも納得である。

(うん。首元まできっちりしてる!! いや、ここまでキッチリしなくてもレイさまが私にどうこうとかないでしょう~!! ウケる~!! 昨日だって顔色ひとつ変わらなかったし、ソファーで寝ようとしてたし。私のほうはドッキドキだったのに!! だって夜のレイさまって色っぽいんだもん。正直に言うと、いざ子作りしますってなってから急に一緒の寝室になると緊張しちゃうだろうから慣れるためにも一緒に寝たくなっちゃったんだよねぇ。でも自分から別室でって言い出したのに、やっぱり一緒に寝てくださいなんて言えないし、お仕事忙しいときはゆっくり休んで欲しいっていうのも本当だし~)

 などと心の中では大騒ぎであるが、隣に潜り込んできたレイへ向けた顔はいつも通りなはずであった。

「今日、なにかあった?」

「今日は、お義母さまとアフタヌーンティーだけですよ?」

「……そう」

 腑に落ちない様子のレイは、その話題を終わりにして寝転がりながらマイナを抱きしめた。

(昨日は距離を開けてたのになんでー!?)

 ドキドキしつつ、喜ぶマイナであった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結済】隣国でひっそりと子育てしている私のことを、執着心むき出しの初恋が追いかけてきます

鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
 一夜の過ちだなんて思いたくない。私にとって彼とのあの夜は、人生で唯一の、最良の思い出なのだから。彼のおかげで、この子に会えた────  私、この子と生きていきますっ!!  シアーズ男爵家の末娘ティナレインは、男爵が隣国出身のメイドに手をつけてできた娘だった。ティナレインは隣国の一部の者が持つ魔力(治癒術)を微力ながら持っており、そのため男爵夫人に一層疎まれ、男爵家後継ぎの兄と、世渡り上手で気の強い姉の下で、影薄く過ごしていた。  幼いティナレインは、優しい侯爵家の子息セシルと親しくなっていくが、息子がティナレインに入れ込みすぎていることを嫌う侯爵夫人は、シアーズ男爵夫人に苦言を呈す。侯爵夫人の機嫌を損ねることが怖い義母から強く叱られ、ティナレインはセシルとの接触を禁止されてしまう。  時を経て、貴族学園で再会する二人。忘れられなかったティナへの想いが燃え上がるセシルは猛アタックするが、ティナは自分の想いを封じ込めるように、セシルを避ける。  やがてティナレインは、とある商会の成金経営者と婚約させられることとなり、学園を中退。想い合いながらも会うことすら叶わなくなった二人だが、ある夜偶然の再会を果たす。  それから数ヶ月。結婚を目前に控えたティナレインは、隣国へと逃げる決意をした。自分のお腹に宿っていることに気付いた、大切な我が子を守るために。  けれど、名を偽り可愛い我が子の子育てをしながら懸命に生きていたティナレインと、彼女を諦めきれないセシルは、ある日運命的な再会を果たし────  生まれ育った屋敷で冷遇され続けた挙げ句、最低な成金ジジイと結婚させられそうになったヒロインが、我が子を守るために全てを捨てて新しい人生を切り拓いていこうと奮闘する物語です。 ※いつもの完全オリジナルファンタジー世界の物語です。全てがファンタジーです。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく

たまこ
恋愛
 10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。  多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。  もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。

拝啓、愛しの侯爵様~行き遅れ令嬢ですが、運命の人は案外近くにいたようです~

藤原ライラ
恋愛
心を奪われた手紙の先には、運命の人が待っていた――  子爵令嬢のキャロラインは、両親を早くに亡くし、年の離れた弟の面倒を見ているうちにすっかり婚期を逃しつつあった。夜会でも誰からも相手にされない彼女は、新しい出会いを求めて文通を始めることに。届いた美しい字で洗練された内容の手紙に、相手はきっとうんと年上の素敵なおじ様のはずだとキャロラインは予想する。  彼とのやり取りにときめく毎日だがそれに難癖をつける者がいた。幼馴染で侯爵家の嫡男、クリストファーである。 「理想の相手なんかに巡り合えるわけないだろう。現実を見た方がいい」  四つ年下の彼はいつも辛辣で彼女には冷たい。  そんな時キャロラインは、夜会で想像した文通相手とそっくりな人物に出会ってしまう……。  文通相手の正体は一体誰なのか。そしてキャロラインの恋の行方は!? じれじれ両片思いです。 ※他サイトでも掲載しています。 イラスト:ひろ様(https://xfolio.jp/portfolio/hiro_foxtail)

英雄の可愛い幼馴染は、彼の真っ黒な本性を知らない

百門一新
恋愛
男の子の恰好で走り回る元気な平民の少女、ティーゼには、見目麗しい完璧な幼馴染がいる。彼は幼少の頃、ティーゼが女の子だと知らず、怪我をしてしまった事で責任を感じている優しすぎる少し年上の幼馴染だ――と、ティーゼ自身はずっと思っていた。 幼馴染が半魔族の王を倒して、英雄として戻って来た。彼が旅に出て戻って来た目的も知らぬまま、ティーゼは心配症な幼馴染離れをしようと考えていたのだが、……ついでとばかりに引き受けた仕事の先で、彼女は、恋に悩む優しい魔王と、ちっとも優しくないその宰相に巻き込まれました。 ※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ!」「カクヨム」にも掲載しています。

辺境伯夫人は領地を紡ぐ

やまだごんた
恋愛
王命によりヴァルデン辺境伯に嫁ぐことになった、前ベルンシュタイン公爵令嬢のマルグリット。 しかし、彼女を待っていたのは60年にも及ぶ戦争で荒廃し、冬を越す薪すら足りない現実だった。 物資も人手も足りない中、マルグリットは領地の立て直しに乗り出す。 戦しか知らなかったと自省する夫と向き合いながら、少しずつ築かれていく夫婦の距離。 これは、1人の女性が領地を紡ぎ、夫と共に未来を作る「内政×溺愛」の物語です。 全50話の予定です ※表紙はイメージです ※アルファポリス先行公開(なろうにも転載予定です)

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

契約結婚の相手が優しすぎて困ります

みみぢあん
恋愛
ペルサル伯爵の婚外子リアンナは、学園に通い淑女の教育を受けているが、帰宅すれば使用人のような生活をおくっていた。 学園の卒業が近くなったある日、リアンナは父親と変わらない年齢の男爵との婚約が決まる。 そんなリアンナにフラッドリー公爵家の後継者アルベールと契約結婚をしないかと持ちかけられた。

【完結】私たち白い結婚だったので、離婚してください

楠結衣
恋愛
田舎の薬屋に生まれたエリサは、薬草が大好き。薬草を摘みに出掛けると、怪我をした一匹の子犬を助ける。子犬だと思っていたら、領主の息子の狼獣人ヒューゴだった。 ヒューゴとエリサは、一緒に薬草採取に出掛ける日々を送る。そんなある日、魔王復活の知らせが世界を駆け抜け、神託によりヒューゴが勇者に選ばれることに。 ヒューゴが出立の日、エリサは自身の恋心に気づいてヒューゴに告白したところ二人は即結婚することに……! 「エリサを泣かせるなんて、絶対許さない」 「エリサ、愛してる!」 ちょっぴり鈍感で薬草を愛するヒロインが、一途で愛が重たい変態風味な勇者に溺愛されるお話です。

処理中です...