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34.ブランコ
しおりを挟む(懐かしいなぁ)
マイナはブランコに揺られながら、前世の公園を思い出していた。
連れて来てくれていたのは祖父ではない。
幼少期に乳母のような人が傍にいてくれた。
(名前は忘れちゃったな)
少しふっくらしたおばさんだったような気がする。
お妙さんが来るようになったころにはもういなくなっていた。
漕ぐたびにドレスの裾がはためくので、ニコは気が気じゃないようだ。
(今日は下にめっちゃ着てるからどうせ見えないのに)
「マイナさま。漕ぎ過ぎです」
「え? そう?」
前世の立ち漕ぎなんか披露したら卒倒するだろう。
遊園地が公園の遊具だったことに関しては、まぁそうだろうなとしか思わなかった。
車のない世界である。
前世でもどうやって動いてるのかわからなかった遊園地の乗り物の数々がここにあるとは思えない。
それでも連れて来てもらえたことが嬉しかった。
この世界の女性は運動もしないし、やるとすれば乗馬ぐらいだ。
ブランコは漕いだときに少しだけ空が近くなるのが好き。
「レイさまも乗ろ?」
「そうだね」
二つしかないブランコの片方にレイが座った。
足が長すぎてうまく漕げないらしい。
「レイさま、伸ばして上にあげてるのに揺らすと地面に足がすっちゃいますね」
「ブランコってこんなに小さかったかな?」
「レイさまが大きくなったんですよ」
「……まぁ、そうなんだけどね」
ブランコから見える王家の別邸は、邸というよりお城だ。
今日はあの城に泊まるらしい。
さすがにマイナでも泊まったことはない。
別邸は王族が休養するときに使われているという認識だったから、この『遊園地』の存在だって知らなかった。
(あのお城のほうがよほどアトラクション感あるな)
若干ワクワクしないでもないが、なぜか少しだけ不安だった。
王宮もそうだけど、王家がからむと何かと物騒だから。
(変なことが起きないといいけど)
「レイさま、わたくしは滑り台に行ってきますね!」
「待て、その格好ではさすがに」
「ダイジョブですって、こうやって、裾を下で足にくるんてしてキュってすれば何も見えません」
「……ヨアン」
「はーい!」
すでに階段を上り始めていたマイナを背に、ヨアンが他の護衛たちに睨みをきかせていた。
理由は全くわからない。
(来たからには楽しまなきゃ!)
ドレスの裾を足に巻き付けて、いざ!
「ゆっくり、ゆっくりだ」
滑り台の横でレイが焦りながら、マイナの体を止める。
「離してくれないと、滑れません」
「わかってる。離すけど、ゆっくりだよ。いいね? これは速いからね?」
「大丈夫ですって」
こう見えても運動音痴ではない。
……多分。
前世で運動は、わりとできた。
(今はスポーツをやらないからよくわからないんだよねぇ。貴族女性のわりには走れてると思うけど)
マイナはレイの言葉を無視して勢いよく滑り切った。
シュっと立ち上がったマイナを見て、護衛たちが拍手してくれた。
どうもどうも!
ぺこぺこ頭を下げて笑っていたら、レイの機嫌が悪くなったので、一緒にシーソーに乗ろうと手を引っ張った。
「跨いでもいいかな?」
「駄目に決まってるだろう!!」
「駄目だったー」
機嫌を損ねたくないので横乗りした。
反対側に座ったレイが優しく丁寧に上下を繰り返す。
マイナは何もしないのでシーソー感はゼロである。
ごっちーん、びったーん、みたいな、お尻の浮くシーソーは味わえないらしい。
体重差がありすぎるときの面白さとか。同じぐらいの体重同士の激しいシーソーとか。
(懐かしいなぁ)
大人にはちょっとキツイ遊具も、この世界では子どもの遊具とは言い切れないようだ。
皆の視線が温かいのでたぶんそうだろう。
よくわからないけど。
(この世界は自然が多いわりに、体を使って遊ぶことがほとんどないから遊具でもめっちゃ嬉しい)
ひとしきりシーソーを堪能したあと、もう一度ブランコに乗りたくてレイの腕を引っ張った。
「少し、休憩しなくていいのか? 疲れただろう?」
「全然?」
首を振ってレイを見上げると、レイは何かに気付いた様子で斜め後ろ辺りを振り返った。
視線を辿るようにそちらを向く。
遠くのほうに、護衛に囲まれた王太子殿下が見えた。
「クソが」
マイナにしか聞こえない声でレイが呟き、マイナも『マジか』と心の中で呟いた。
王太子殿下の侍従がこちらに走って来る。
マイナたちは全員で、王太子殿下をお迎えしなくてはいけなくなってしまった。
臣下の礼をとり、頭を下げ続けること数分。
(足遅くね?)
イライラし始めたところでようやく到着した王太子殿下が顔を上げろと言ってきた。
(さようなら、レイさまとの素敵な公園デビュー。長いおみ足でのブランコ、最高でした。もう一回乗りたかった)
ゆっくり顔を上げると、二重の瞳だけは一等美しい、マノロ・デ・ベツォ王太子殿下がマイナを舐めるように上から下まで見ている最中だった。
(え、キモッ)
レイの気配が剣呑なものになった気がする。
「やあ、偶然だね。タルコット卿。ご夫人も、ご機嫌麗しいかな?」
マイナは視線を少しさげると「お会いできて光栄です」と呟いた。
「王太子殿下、本日のご予定はアブト橋の視察だったかと思いますが」
レイは低い声で牽制していた。
王太子殿下は胸をそらせてドヤ顔をした。
(ウザッ)
「それがね、我が妃に懐妊の兆しがあって。気分が優れない日が続いているので急遽、休養に訪れたのだよ。未来の王が宿ってるかもしれないだろう? 大事をとらないとね」
「左様でございますか」
「妃の気分転換のために魔法師を呼んでいるんだが、君たちのことも特別に招待するよ。タルコット卿は一応、王位継承権を持った王家に連なる人物だし。その権利はあるからね。もしかすると、マイナ夫人も既に身籠っているかもしれないのに、こんな寒空の遊園地に連れ出すなんて、タルコット卿は気が利かないね。ねぇ、夫人は酷いと思わないの?」
「全く思いません」
「……あっそう」
ヨアンの気配がめちゃくちゃ怖くて王太子殿下どころではなくなった。
何かいるのか。
他にもいるのか。
いるんだろうな。
(どうせ寝所も覗かれるんだろうなぁ。天井の上に王太子殿下の影がいるんだよ。全て筒抜けなわけ。そんなの映画だけにして欲しいよね。しかも、この王太子殿下の言う妃って、王太子妃なのか側室なのか愛妾なのかわからないんだよね。愛妾を妃って呼んじゃうことあるみたいだし、だけど彼女が一番最初に身籠ったら大問題だよ。第二側室にしたいの? 側室って第二までオッケーなの? ほんっと節操無さ過ぎ!! わざと女性同士が揉めるようなことをして、それを見て楽しむ癖があるからやりそうだけど。どこで影が聞いているかわからないから、みんな王太子殿下の異常さをわかっていても絶対に口にしないけどね。王太子殿下の自慢みたいな変な話、いつもだから聞き飽きてるし別にって感じ。魔法師とかいって、どうせ手品師じゃないの? 手から花とか、口から国旗が出てくるんでしょ? 公園を遊園地って呼ぶくらいだしさ。いっそあの城のほうがよっぽどホラーだし、お化け屋敷だっつーの!!)
「……夫人、聞いてる?」
「もちろんでございます」
怯えたような振りをして身を縮ませれば、満足してくれることをマイナは知っている。
子どものころから伊達にヴィヴィアン殿下と絡んでいない。
マイナが本当は怯えてなどいないことをレイも知っているので無問題。
(さっさと終われ!! 校長先生の話より長いわ)
正統派王子然とした美しさと賢さを兼ね備えたヴィヴィアン殿下に、王太子殿下は劣等感もりもりなのだ。
せめて女の数だけはとばかりに、妃の数が増えてゆく。
(ちっさ。小さいのは身長だけにして欲しい)
珍しく悪口で頭がいっぱいになるマイナであった。
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