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44.綿あめ

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 ニコはマイナさまに似合いそう、とかマイナさまが喜びそうとか、そんなことばかり言いながら城下町を歩いている。

 行きたいと言って渡してきた地図は、ボルナトのお店の予定地だった。
 二店舗にまでレイが絞ったので、今はマイナが屋敷で会議中らしい。
 ニコはお休みだというのに、その場所を見に行きたいと言い出したのだ。

(ニコも職業病だよねぇ。生活の全てがマイナさまに向いてるから仕方がないけど。久しぶりの休みぐらい、自分のために使えばいいのに)

「マイナさまはご自分で見に来たかったはずよね」

 なんて言いながら、しょんぼりしている。
 今は色々と不穏だから屋敷から出られないだけで、内見はそのうち普通にできると思うけれど……。

 でも。

(マイナさまが大好きで仕事に誇りを持ってるニコが好きだから、僕も何も言えないんだけどね)


「ここだよー。たぶん、こっちの店舗になるんじゃないかなぁ」

 高級店が並ぶ方の店舗のほうだと、浮いてしまうだろう。

「そうね? それに、もう一つの店舗の確認はこの格好じゃ無理ね」

 ニコは紺色のワンピースの裾を摘んで呟いた。
 確かにヨアンとニコだけでは、あの区域に入るのは厳しい。


「ニコ、他にどこか行きたいところないの? 食べたいものとか」

 ニコも今は、城下町に行くならヨアンと行くようにとレイから言いつけられている。

「次はまたいつ休めるかわからないし、ケーキとか食べに行く?」

 本当は手を繋ぎたいけど、まだ僕らは付き合ってもいないから、そんなことすらできない。
 もどかしく思いながら、ニコの表情をうかがった。

「ミリアにお土産を買ってあげたいかな?」

「うーん。それもいいけど、ニコは欲しいものないの?」

 実は結構稼いでいるのでニコに何か買ってあげたくてたまらないのだ。
 ヨアンは仕事が趣味なのでお金の使い道がない。
 本当はニコに服とか髪飾りとか買ってあげたい。

(旦那さまがマイナさまに買いたがる気持ち、わかるなぁ)


「そうね……チョコはこの間、エラルドさんにもらっちゃったし」

(またエラルド!! あからさまに女の匂いなんか付けて、ニコに好かれるつもりはないとばかりにアピールしてきて、胡散臭いったらありゃしないよ!!)


「そうだ!」

 ヨアンはニコの思考を変えさせたくて、咄嗟に思いついたことを口にする。
 ニコはピンク色の髪を揺らして首を傾げた。

「綿あめっていう、ふわふわの飴があるらしいんだけど食べてみる?」

「それ! 私も聞いたことあるわ。とっても可愛らしいんですって」

 レイからの依頼を城下町でこなすヨアンは知っている。
 可愛いらしい色の付いたふわふわの飴が流行っているのだ。

「よっしゃ! 綿あめを食べに行こう」

 そうと決まれば、ニコの手を引いてもいいだろう。
 細いニコの手を優しく包んで、少しだけ自分の方へ引いた。

「危ないから手を繋ぐよ? 僕から離れないでね?」

 
 口にはしないけれど、ちょっとばかり巻いておきたい奴らがいる。

(マイナさまが屋敷から出ないからってさ、僕らをつけたってしょーがないのにね)

 人混みをすり抜け、裏道に入った。
 左右から慌てたように男がかけてくる。

「ニコごめん、首に掴まっててくれる? ちょっと跳ぶよ」

「えっ!? なにっ!?」

 戸惑うニコを横抱きにして塀に飛び乗り、民家の屋根に登った。
 走り去るヨアンを、下から二人の男が茫然と見上げていた。


(お前らの顔は覚えたぞ)

 追ってを巻き、ニコのスカートがはためかないように気をつけながら、屋根からするりと降りた。


「ごめんね、付けられてたから巻きたくて」

「大丈夫。私こそ、こんな時に町に来たいなんて言って、ごめん」

「謝らないでよ。僕はデートみたいで楽しかったんだから」

 降りた場所から大通りに出る。
 手はもちろん繋いだままだ。
 綿あめは屋台で売ってるので、そこでピンク色の綿あめを二つ買ってニコと一緒に食べた。

「立ったまま食べられる?」

「うん。大丈夫。すごい、本当にふわふわなのね」

「甘くて美味しいね」

「それに本当に可愛いわ。他にも色んな色があるのね?」

 黄色や水色や菫色なんかもある。
 でもやっぱり。
 買うならニコの髪の色だよね。

 ヨアンは大満足であった。
 ニコの笑顔が見れたから。

「ヨアン、お金」

 ポシェットからお金を出そうとするニコを止めた。

「本当はもっと色々買ってあげたいのに、断られちゃうからさ。このぐらいは奢らせて?」

「……ありがとう」

 今までなら何がなんでもお金を渡そうとしただろう。
 ありがとうと言われるとこそばゆくて仕方がない。

(少しでも僕のこと好きになってくれたらいいなぁ)

 小さな口で大きな綿あめを食べるニコを見て、目を細めるヨアンであった。


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